50000hitキリリク・さやか様へ





時刻は4時30分。ようやく7限目の授業が終了し、長々としたHRが幕を閉じた。あたしは急いで帰りの支度をして、教室を出る。途中でルキアたちに会ったからバイバイと一言交わした。荒い息のまま校門をくぐると、織姫がわざわざメールで教えてくれた人物がそこにはいた。文庫本を片手に、小難しそうな顔して壁にもたれ掛かっている。数メートル離れた地点で、ちらちらと様子を窺っている女の子は数知れず。中には知っている顔も何人かいた。

(声、掛けづらいな)

どうにかしてアイコンタクトを取りたいところだけど、下手に動けば目立ってしまいそうだった。どうしょうかなぁ。頭を悩ませ、本人の方をまじまじと見つめると偶然にも向こうが気づいてくれた。バチっ。視線が絡まる。


「渡嘉敷!」
『あ、うん。冬獅郎くん』


女の子たちの視線が突き刺さる。思わず身を竦めた。あたし男の子も苦手だけど、意外と女の子も苦手なんだよね――。微苦笑を浮かべた。適当に明日ごまかせる言い訳考えなきゃ。

ひとまずこの場を離れたい。生徒と混じらないようあたし達は駅とは反対方向に歩き出した。


「悪い。迷惑だったか」
『ううん、そんなことないよ!びっくりしただけだから』
「その割にはあんまり驚いた様には見えなかったけどな」
『HR中にね、織姫からメールが着たの。冬獅郎くんが校門前にいるよって』


あぁ成る程、と軽く冬獅郎くんは頷いた。それが子供の時にみた、お婆ちゃん子の冬獅郎くんと重なって少しおかしかった。
あたしの歩幅に合わせてくれる彼の名前は日番谷冬獅郎くん。半年前から恥ずかしながらお付き合いさせて貰ってます。一応、幼なじみ……かな?保育所から小学校卒業までの12年間ずっと同じクラスで、家も同じ町内だから。ただあたしはもう一人の幼なじみである桃の方が仲がよくって、桃とあたしと冬獅郎くん三人だと喋れるけど、二人になればさほど会話は弾まなかったりする。

男嫌いのあたしからすれば冬獅郎くんとの会話回数は普通の男の子より多かったのかもしれないけど、言うほど仲が良いわけでもなかった。だからあたしは幼なじみというより《近所の礼儀正しい男の子》という方が実はしっくりきたりする。


あたしが男の子を苦手になった理由はそのデリカシーの無さと幼稚な行動だ。人がコンプレックスに感じていることを平気で他人にひけらかす無神経さ。凄く嫌だった。小学生の男の子は、まだまだ子供の域を脱する気配なんて微塵もないし、きっとそれは思春期に入る前だから仕方のないことなんだろうけど、あたしは我慢出来なかった。こんな人たちと中学校も同じなんて耐えられない。切実な願いはお母さんにどうにか聞き入れてもらえ、中学からは女子校に通っている。女の子だけの付き合いも想像以上に大変だったけど、男の子よりかは随分とマシに思えた。


(おれ……好きなんだ、渡嘉敷が)


高校に入学してしばらく経った頃、いきなり桃に呼び出された。なんだろう、と思って指定された現場に行くと、そこには桃はいなくて――代わりにあたしが知ってる冬獅郎くんとは全く別人みたいにカッコ良くなった彼がいた。背丈がゆうにあたしを越していて、きりっとした目鼻立ちはさらに磨きがかかったようだ。凛と背筋を伸ばして、あたしを射るような真剣な眼差しには思わずどきりと胸が高鳴る。

告白されたとき、本音を言えば付き合うはさらさらなかった。付き合うってことは、冬獅郎くんといえど、あたしが苦手な男の子にジャンルされる人物に体を触られるってことだし、正直3年間見かけなかっただけで男の子ってこんな変化するんだっていう戸惑いもあったから。


(渡嘉敷が男嫌いなのは理解してるから。絶対におまえが嫌がることはしない。約束する)


幼なじみというか、多分冬獅郎くんだからだと思うけど、あたしは返事を一端保留にした。小学生の頃から冬獅郎くんは他の男の子とは違うと認識していたし、なにより、あたしを気遣ってくれた言葉が単純に嬉しかった。あぁ冬獅郎くんは判ってくれるんだ。心がすぅと軽くなって、この人になら預けてもいいかなと思えた。

それから一週間ぐらいして、何年振りかに冬獅郎くんの家に返事をしに行った。もちろん一人で行くのは憚られるから桃と二人で。


「今日て7限目まで?」
『うん。でも5分延長したし、HRも長引いたの。冬獅郎くんは?』
「おれは6限目まで」


冬獅郎くんは高校から、県内の有名進学校に通ってる。今日はたまたまあたしより早かったけれど、いつもは選択授業とかの関係で8限目まで授業を受けるときもあるらしい。学校も違うあたしたちが一緒に帰宅するということは、ほとんど不可能。だけど冬獅郎くんはこうやってハードスケジュールの中、偶に迎えに来てくれたりする。疲れるから迎えに来なくていいよと丁寧に断るのだけど、冬獅郎くんは

(おれが好きでやってることだから)
と聞き入れてはくれない。こんな会話を半年ほど続けていたら、いつの間にかあたしも冬獅郎くんと帰る、この時間が楽しみになっていた。いつも駅で待ち合わせをして、制服のまま遊びに行く。だいたい学校から家までが一時間で、あたしの門限が7時だからゆっくりとは出来ないけど、それでも十分幸せだ。


告白されたころは男の子と付き合うなんて……と思っていた、あたしも、冬獅郎くんの姿を間近で触れていくうちに、どっぷりと浸かってしまった。今では胸をはって冬獅郎くんが好きだといえる。恥ずかしいから、言わないけど。


『今日はなんで、連絡なしに……しかも校門にいたの?』


冬獅郎くんは、迎えに来てくれるとき、絶対に短いメールをくれる。だけど今日はそれがなかった。もしも織姫のメールがなかったら、きっと校門で腰を抜かしていたに違いない。あたしの言葉に冬獅郎くんはポリポリと頭を掻いた。こんな反応、付き合ってから、というか知り合ってから初めて見た。

小さく、そしてとても低い声で冬獅郎くんはなにか呟いた。周りの喧騒うまく聞き取れない。首をかしげ、ごめん、聞こえなかった。と正直に言ってみた。


「その、だな」
『うん』
「えーっと、その、簡単に言えば……渡嘉敷に早く会いたかったんだ」


ストレートな告白に近い言葉をさらっと流せるほど、あたしは大人ではない。好きな人の言葉ならまおさらだ。一字一句、ダイレクトに反応してしまう。言わずもがな、今のあたしの顔は沸騰したように熱い。冬獅郎くんは冬獅郎くんで、さっきからあたしの方を決して見ようとはしない。

(冬獅郎くんも同じ気持ちだと嬉しい)

言葉で表せない感謝の気持ちを態度で示せばいいのだろうけど、付き合う前の約束を律儀に守ってくれている冬獅郎くんとは手さえ繋いだことがない。自分から男嫌いだからと言った手前、手ぐらいなら繋いでもいいよとは言えず――。
だってそれじゃああたし、いつも変なことばっかり考えてるように思われない?いや、半分くらい事実かもしれないけど。だって冬獅郎くんとなら、きっとキスだってその先のことだって許せちゃうと思う。自分から積極的に触ることなんて、恥ずかしすぎて死んでもできない。だけど真面目な冬獅郎くんが約束を破ってまで、あたしに触れてくるとも思えない。


「渡嘉敷……?」
『え』
「あ、悪い。やっぱ迷惑だったよな。急に変なこと言ってごめん」


違うよ、冬獅郎くん。全然ちがう。あたし迷惑だなんてこれっぽっちも思ってない。その反対。ぼーっとしてたのは、嬉しすぎて、もっと冬獅郎くんに近づきたかったからなんだよ。最近ふと気がついたら、冬獅郎くんのことばっかり考えてるの。あたしの頭の中は冬獅郎くんでいっぱい。だからそんな表情しないで……。

上手い言葉が浮かんでこないあたしは、口を噤んだまま。冬獅郎くんの不安と後悔とが綯い交ぜりになった表情を取り除いてあげたいのに。あたしは究極の役立たずだ。自分が思ってることを大切な人に伝えられないなんて。


「雛森に映画のチケット貰ったんだけど、観に行くか?」


せめてもの救いは、冬獅郎くんの誘いに首を縦に振れたこと。肯定の意思表示は辛うじて出来た。ケータイで時間を確認した冬獅郎くんは、少し急ぐか。とあたしにようやく視線を合わせた。あたし達は今、学校の最寄り駅とは反対方向に進んでいるけど、映画館は次の駅にあるからちょうど良かった。一駅分歩くことになるけれど、その間冬獅郎くんと話しが出来て嬉しい。

歩く速度を上げながら話題に上ったのはやっぱり文化祭のこと。桃と冬獅郎くんは高校も同じ学校で、よく桃から学校のことは聞いている。毎日勉強漬けで宿題をたらたらとやってる暇がなくってしんどいとか、部活の先輩に尊敬する人がいるとか(確かアイゼン先輩?)様々。その中でも最近は文化祭の話ばかりだ。あたしの学校は女子校だから男の人の入場は二等親までと定められているけど、冬獅郎くんの学校は共学だからあたしも日にちさえ合えば遊びに行くことが出来る。


『冬獅郎くんのクラスはなにするの?』
「パンドラの匣」
『パンドラの匣?なにそれ』
「劇するらしい」


パンドラ匣って……グロいシーン多くなかったっけ?ドロドロとした。ちゃんとした文章は読んだことないけれど、そんな話だった気がする。劇にするって難しくない?というか絶対に難しいよ!!冬獅郎くんの学校も色々と大変だなぁ。かくいうあたしも実はクラスの出し物が演劇だったりする。初めからずっと明るい感じのコメディーだけど。

(あたしの役は通行人C)

クラスの中心的な子が主人公になって、バシバシ配役を決定してくれた。舞台に上がるのはイヤだけど、これだけやってもらってるんだから文句は言えない。セリフも二言だけだから我慢我慢。


『冬獅郎くんは裏方さん?』


何役?と幅をもたせなかったのは、冬獅郎くんが演技をすることはないだろうと思ったから。だって頭の回転の早い冬獅郎くんなら、自分が役に決められそうになる前に上手に言いくるめて回避しそうだもん。何でもこなせちゃう冬獅郎くんなら演技も出来そうだけど、そんなタイプじゃないだろうし。

てっきり、まあな、とでも答えてくれるんだと思っていたけど、あたしの思い描いた返答はいつになっても返ってこない。目を泳がせたあと、冬獅郎くん尋常でないくらいうなだれていた。もしかして冬獅郎くん……舞台に上がったりしちゃう感じ?


『冬獅郎くんって』
「パンドラ役なんだ、おれ」
『パンドラ?えぇっ!?パンドラて確か女の人じゃない?』
「うん。女装……することになってんだ」
『そ、なん、だ』


どういう経緯で女装することになったのか知らないけど、冬獅郎くんもよく承諾する気になったなぁと第一に思った。演技するだけならまだしも、女装までするなんて!きっと冬獅郎くんなら女装してもキレイなんだろうな。睫毛とか女の子より長いし。絶対桃と観に行かなきゃ。桃は喫茶店するらしいから、シフト空けといて貰おう。あれ?でも確かパンドラって結婚するよね。ラブシーンとか、あったりするのかな。男同士?じゃないよね。女の子とだよね。


(なんか、ちょっと嫌だ)


「それで隠すつもりはないから言うけど」
『けど?』
「……クラスの女とキスシーンがある」
『あっ。う、ん』


渡嘉敷がどうしても嫌なら断るけど――。顔色を窺うように、冬獅郎くんは覗き込んできた。無意識のうちに、視線は唇にいく。

キスシーン……やっぱりあるんだね。冬獅郎くんと付き合ってるとはいえ、キスしたことがないあたしに止める権利はないよ。冬獅郎くんがいいと思うのなら、あたしは従うだけ。キスしないでというのは我が儘だ。ただ、あたしが触れたことのない未知の唇を、会ったこともない女の子が味わうのが……少し悲しいだけ。悲しいし、ちょっぴり情けない。冬獅郎くんはあたし以外とキスした経験があるのかもしれない。だから演技上のキスも了承出来たんじゃないかな。初めてじゃないから。その点、あたしはこの歳まで男嫌いだから手を繋ぐのもキスも未経験。

(冬獅郎くんは待っててくれたんだ)

冬獅郎くんだって男の子だし、あたしが自分からそういう行為をするのを全く期待してない訳じゃないだろう。優しい冬獅郎くんはあたしが男の人に触られるのを嫌がると思って待っててくれている。好きなのに応えられない不甲斐ない自分。


『大丈夫、平気だよ。パンドラ役、頑張ってね冬獅郎くん』
「……そうか」







それから桃から貰ったチケットでベタベタのラブストーリーの映画を観て、帰りの電車に乗った。時刻はもう8時をまわっていた。お母さんにはケータイで前もって連絡を入れているから、問題ない。しかしあたしは帰宅時間よりも気になることがあった。冬獅郎くんの様子がさっきからどうにもおかしいように感じる。何が変て具体的なとこまでは言えないけれど、いつもとは違う。

やっぱりあの映画の内容がマズかったのかなぁ。


(おまえの全てが愛おしくて堪らないんだ)
(あたしも同じだよ!一生この気持ちは変わらない)



桃は何を思って、あんパンを砂糖漬けしたような甘いセリフに遭遇する機会が多い映画を選んだのだろう。感動的なストーリーだったのかもしれないけれど、観てるこっちが赤面しちゃうような展開に、あたしはそれどころじゃなかった。冬獅郎くんとの間に醸し出される微妙な空気の対応で四苦八苦。
一度冬獅郎くんがトイレで席を立ったとき、このままあたしも冬獅郎くんと一緒に出て行こうかという選択肢が浮かんだほどの甘さだ。ベットシーンもしっかりあって、キスなんて挨拶程度のものに成り下がっていた。あたし達の年齢には濃すぎる内容だったのは間違いない。


『冬獅郎くん、今日はありがとね。迎えに来てくれて嬉しかった』
「あ……あっあぁ。また今度マシな映画でも観に行こうな。あ、別に映画じゃなくても買い物でもいいし」
『うん。また一緒にどこか行こうね』


そんな映画の後だから、どこかあたし達の会話はぎこちない。特に冬獅郎くんの方は重症で、駅の反対側のホームに上ろうとしたり、乗り換えで線を間違えそうになったりと、らしくない。別に無駄にややこしい地下鉄だから、自分の通学路でもないし、間違えたって構わないんだけど普段の冬獅郎くんではありえないことだから、なおさら不振に感じてしまう。具合でも悪いのかなぁ?と考えないわけではないんだけど、それ以外は至って普通だし……たまたまなのかな。と、とどまってしまう。


ガタンゴトンと普通電車に揺られながら、あたしはひたすら冬獅郎くんに意識を集中させる。あたしは冬獅郎くんの変化を見逃すまいと奮闘中だけど、無駄に終わりそうな気が……しなくもない。

(冬獅郎くんって分かりにくいんだもん)

桃は案外シロちゃんって判り易いけどなぁ、って真面目な顔して頭を悩ませてくれたけどあたしにはちっとも理解できない。機嫌が良いか悪いかくらいは判るけど。こんなんじゃあ彼女っていえないよね。全部は不可能にしたって、半分くらいはあたしも知りたい。


「あのさ、咲夏」
『え?』
「って今から呼んじゃダメか?」


不意打ちの名前呼び。今まで何があっても《渡嘉敷》としか呼ばなかったのに。どういう心境の変化だろう。冬獅郎くん、あなたは今なにを想っているのですか?

(ほら、また判らない)

ぎゅっと、きっと、いや、かなり強い力であたしは冬獅郎くんの手を握った。決して繋いだとは言えない不細工な握り方。汗ばんでいた手は嫌がられないかなとか、そんなこと確認せず、すっ飛ばしてしまった。翡翠色の瞳は、はっとしたように見開かれている。満員電車でもないので、否が応でも冬獅郎くんの熱い視線を生で感じてしまう。そんなに見つめないでよ冬獅郎くん……っ。だって、普通のカップルなら手ぐらい繋ぐでしょう?あたしが手を握ったらダメなの?


「渡嘉敷!おま、手!」
『手……ぐらい繋いでもいいじゃない。あたし冬獅郎くんだから、大丈夫なのに、そんな困った顔しないでよ』
「いや、でも渡嘉敷は」
『名前』
「はぁ?」
『名前で呼んでくれるってさっき言った』


口を衝く言葉がすべてが刺々しくなった。なんで、もっと素直に言えないかなぁ。あたしは。手を繋ごう?キスしよう?簡単なこと。でも、上手く伝わらない。手を決して視界に入れないように、あたしはそっぽを向く。手は絶対に離さない。この際、冬獅郎くんにも判って欲しい。あたしの想いを。あたしも知りたい。冬獅郎くんの想いを。

(だから――あたしのこと嫌いにならないで、冬獅郎くん)

想いが通じたのかわからないけれど……冬獅郎くんは握ったままだったあたしの手を、自分の指に絡また。俗にいう、恋人つなぎ?ちょっと嬉しい。


「おれ、実をいうとかなりショックだった」
『なにが?あ、やっぱあたしと手なんか繋ぎたくない?』
「違う。渡嘉敷とは付き合った頃からずっと手だって繋ぎたかったしキスだってしたかった」
『あ、うん』


あたしも同じこと考えてたけれど……いざ言葉にされると、これ、かなり恥ずかしい。さっきの映画も恥ずかしかったけど、自分たちのことになると、いっそう恥ずかしい。でも冬獅郎くんもそれは同じみたいで、電車の中だから人に聞こえないように一段と音量下げた小声でぼそぼそと喋っている。耳元で冬獅郎くんのハスキーボイスがうねっている。

実際そんなことはないんだけど、周りの人があたしたちを見ているような気がして、ドキドキしてしまう。目立ってないよね。あたし普通の学生にみえるよね。


「文化祭で、キスシーンあるって言ったろ?そん時おれ少しは妬いてくれるんじゃないかって期待してたんだ。それなのに渡嘉敷は平気そうだったから……」
『すっごくあたしヤキモチ妬いてるよ。今だって、冬獅郎くんはあたしとキスする前にその子としちゃうんだって想像しただけで悲しくなるもん』


でも。あたしが始めに言ったことだし、自分から撤回するのもカッコ悪いから……つまらない意地張って、言えなくて。いや、もう言っちゃったようなもんだけど。半年間も、約束に縛られていたって判断すると、なんだか今までの時間が酷く勿体無く感じた。

(あたしが何も言わなかったんだから、仕方ないけど)

あたし達が住んでいる真王駅は、終点だ。駅に近づくにつれ、只でさえ少なかった人の数が減っていく。きょろきょろと辺りを見渡せば、車両にはあたしと冬獅郎くん以外誰もいなかった。なんだか貸しきり電車みたいだ。


「じゃ誰もいないことだし、おれとキスするか」
『え……っ』
「だって咲夏は他の女よりも先にしたいんだろ?」
『そう、だけど』
「俺も。同じだから」
『同じ?』
「ああ。これから初めては全部咲夏がいい」


気後れして、はっきりした言動がとれない状態のあたしは、それから何秒間かは惚けたままだった。冬獅郎くん、も、初めて?うそ……なんだ、冬獅郎くんも初めてなんだ。あたしだけじゃなかったんだ。

(目ぇ瞑って)

甘く囁かれた彼の言葉にあたしは黙って頷いた。




蜜密スペース
(冬獅郎くん)(ん?)(やっぱり冬獅郎くんが)(他の女の子とキスするのいや)(じゃあ断る)






*あとがき*
こんにちはー!今回テンションな感じで書き上げましたので、かなりお話が凸凹です。スイマセン。反省してます。もうやばいくらい躁なので、念願の「電車の中で」を書いてしましました。あはは☆
ヒロインちゃんの男嫌いの理由はそのまま管理人にも当てはまります。小学校くらいの男の子って思考が幼すぎません?いや、でも最近は背が高くなって、このヤロー!って感じですが。だって成長しすぎじゃないですか!?あの人たち。なに食ってんでしょうか。不思議です。あ、ごめんなさい。わたしは進行形で男嫌いです。もちろん日番谷くんは別。
タイトルの「密」は密度を表してるつもり。「蜜」は蜂蜜のように甘い。で、スペースはまんまで空間(笑)まあつまり甘さの密度が濃い空間だよってことです♪イミフですね。キリ番を踏んでくださったさやか様、わたしなりに甘にしてみたつもりですが……いかかでしょうか??リクエストから4ヶ月もかかってしまい毎度の事ながらスイマセン。幼なじみ設定が曖昧で、そこもごめんなさい。でもイマイチ定義がわからないという←


2010/04/29