相互記念・藍様へ




四番隊隊舎の東棟――。それは普通の病棟とは違い、完全に隔離された棟であった。通称、特禁棟。綜合救護詰所とは違い、そこで治療を受けている死神はある特殊な能力を備えている者だけに限られる。出入りを許されているのは患者と隊長格のみであるため、ここの存在を知らぬ死神も多い。
「咲夏さん、調子の方はどうですか?」
『卯ノ花隊長……いつも迷惑かけてばかりですいません。でも、最近は落ち着いていて気分も良いです』
「そうですか。顔色も良さそうでなによりです」


咲夏の身体を一通り検査し、異常がないと確認すると卯ノ花はニコリと微笑んで他の患者の元へ向かった。いつも通りの会話をして、出て行った自隊の隊長を見て咲夏はほっと胸をなで下ろした。――白銀さんのことバレてないよね?


『……ふぅ』


そっと自分の眼に触れてみる。光を失ってから今日でおよそ20年の月日が経った。ある任務で当時の部隊隊長を庇った時に咲夏は両目の視力を失った。今でもあの感覚が忘れられない。咲夏の部隊が課せられた任務は本来そう難しいものではなかった。四番隊隊士である咲夏はなおのこと戦闘には参加しないため、危険は少なかったはず。

(それなのに、何故こんなことになったのか)



「咲夏ッ、咲夏!僕のことがちゃんと見えるか?!……頼むから、お願いだ。返事をしてくれ!!」
『イヅルにいさ……ヤ、泣かないっで……。私はにい、さん、まだみえてる』
「クソっ!!許さない。僕は絶対にあの人を許さないぞっ。咲夏の眼から光を奪ったあの人を!」


最後に私の眼が映し出したものは皮肉にも私を一番可愛がってくれていた兄であるイヅル兄さんの泣き顔だった。
プツンと神経が切れたように、目の前が真っ暗になった。何も見えなくなった後からはイヅル兄さんの怒りの声で私の視力を奪ったあの人を許さないと、ひたすら機械のように繰り返していた。


正直なところ勝手に飛び出した私にも非はあった。あの人はあの任務後に隊長に就任したそうだから、もしかしたら私が飛び出さなくても回避できていたのかもしれない。それでも兄さんは結果的にこうなったのはあの人のせいだとを恨み続けている。



『白銀さん。出てきても大丈夫ですよ?』
「ん。」


病室の隅の方へ声をかける。半年ほど前に偶然知り合ったこの人。怪我をしていた所を病室でいつものように退屈で時間をもてあましている私が見つけ、治療した。




なに?この匂い。血?
ここに患者が運ばれてくるなんて、滅多にないよね


「ウッ……く」
『だ、れ?』


生憎、虎徹副隊長も先程大量の負傷者が出たと連絡が入ったため綜合救護詰所に向かわれてしまった。おそらく数時間は戻ってこないだろう。だけど、この血の匂い――かなり出血している。早く治療しないと死んでしまうかもしれない!

眼は見えなくとも、一応私は四番隊隊士だ。ちゃんと霊圧を探れば治療だって可能。あの任務以来、一切霊圧を使ったことがなかったけれど、ここで私がしなければいずれこの人の命が削られていくのは予想できた。


『待ってて。今、治療するから!』
「たの、む……っ」




その日から、私と白銀さんとの交流が始まった。週に一度、私の好きな和菓子を手土産にこっそりとお見舞いに来てくれる。彼はここの患者ではない。その上、不思議なことに霊圧が全く感じられない。もちろん私の身体も彼の身体も霊子で構成されているのだから、私はちゃんと感じ取れる。だけど、流魂街の人が瀞霊廷に入れるはずがないのだから白銀さんはどこかの貴族の人かもしれない。

「今日は西方堂の羊羹を持ってきてやったぞ」
『ほんと!?嬉しい。私、西方堂の羊羹を前から食べて見たかったんだ』
「そりゃ、良かった。……けど咲夏の場合、和菓子ならなんでも好きだろ?」
『まぁ、そうだけど。白銀さんは甘納豆だよね』
「まぁな。俺は甘いもん苦手だからよ」


そんな会話まで出来るまでに私と白銀さんの仲は発展していた。正直、家族が兄さんしかいなく、その兄さんでさえも副隊長に就いてから多忙になり見舞いに来てくれることも少なくなっていた私は、喋り相手が欲しかったのかもしれない。卯ノ花隊長や虎徹副隊長だって暇さえあれば、様子を見に来てくれるのだが、やはり仕事中だということもあり遠慮してしまう。

その点、白銀さんは何故か遠慮しないで気軽に話せた。顔も分からない人と……。と思ったこともあったけれど、今までずっとひとりだったから。



『イヅル兄さん、会いたいよ。私、寂しいっ』
「ごめん、咲夏。僕の地位じゃそこには入らせて貰えないんだよ」



ずっと寂しくて、こんなことを言っては兄さんを困らせた。四番隊四席の兄さんではどうやってもここには入れて貰えない。家族でさえも例外ではないのだ。だから、イヅル兄さんは私の我が儘のためだけに副隊長に志願した。
元々成績優秀だった兄さんは市丸隊長と藍染隊長が推してくれたため、すぐに三番隊副隊長に就任することが出来た。

――だけど私は副隊長になって欲しくなかった。副隊長にもなれば、必ずあの人に会ってしまうだろうから。私の光を奪ったあの人に。


「どうしたんだ、咲夏。羊羹食わねぇのか」
『え?あ、ううん。ちょっと考え事』
「ふーん。そうか……。まぁじゃっ、俺が先にこれ貰うな」
『えッ!?ちょっと白銀さん!私が先に食べるのーっ。……んぐ??』
「美味いか?」


羊羹の甘さが口に広がった。多分、白銀さんがもたもたしていた私の口に入れてくれたんだろう。彼の好みか、その羊羹は若干甘さが控えてあったように思う。美味しいよ。と伝えてみると、白銀さんの手が私の頬に触れた。久しぶりに霊子でなく、生身の人の温もりを感じた。自然と心が安らぐ。

でもどうしたんだろう。私の顔になにか付いているのかな?

暢気に気構えていると、ポンっと白銀さんに体を押された。ベットに自分の体が倒れるのを感じたと同時に、覆い被されるように彼の体が乗ってきた。流石の鈍い私でも、この体勢はまずいと思った。


『え、え?白銀さん……??』


予期せぬこの事態に私は全く対処出来ず、ただ慌てふためくだけ。だって男の人に押し倒されたことなんてないんだもん。どうすればいいのか分からないよ――。

(ちくッ)


『わッ!??』
「……」


今、なんか首筋にざらっとした感触がっ。なに、これ?白銀さんの…舌?ちゅ、ちゅ。とそれからも首から胸にかけて吸われた。白銀さん?一体私になにしてるの?とにかく頭をフル回転させたって眼の見えない私では白銀さんの顔色すら伺えない。

両手で霊子の感じるままに白銀さんの顔を触ってみる。白銀さんの顔――熱い。もしかして照れてるの?恥ずかしいの?


『白銀さん……顔、熱い?』
「……当たり前だろ。好きな女の体触ってんだから」
『えぇ?』
「俺と、こういうことする関係になるの……咲夏は嫌か?」


そんなこと急に言われたって。だって白銀さんは私の容姿を知っているけれど、私は全く知らないんだよ?それどころか。本当に今更だけど、私は彼のことをほとんど知らない。大抵は私が勝手にベラベラと喋るだけで、白銀さんは相槌を打つように言葉を漏らすだけ。

この《白銀》という名前だって、初めて会った時にこう呼んでくれと言われたから呼んでいるだけで、多分本当の名前じゃないように思う。私だって苗字である《吉良》は伏せてある。ここで治療を受けている詳しい経緯や身分も明かしていない。

(こんなに知らないことだらけで付き合ってもいいのかな?)


『あの……私、まだ白銀さんのこと。その――あんまり知らなくて』
「……俺、あんまり自分こと話さねぇからな」
『私もなんかそういう話題には触れたくない部分とかもあって』
「あぁ」
『だから…ちょっとだけ私の過去を聞いてくれる?』


私は白銀さんのこと、すき。だと思う。初めて会った時から誰にも言えずに我慢していた寂しい想いを素直に打ち明けられた。手を握られると、暖かくてすごく安心した。隊長格以外は入れないこの場所に危険を冒してまでも私に逢いに来てくれることが、言葉にならないくらい嬉しかった。きっとこれは白銀さんに私が惹かれているからだと思う。だからきちんと話したい。私の過去と能力のことを。彼ならきっと受け入れてくれる――。



それから、数時間。私は光を失った時から今まであった簡単な出来事を白銀さん話した。ある任務で上官を庇った時に特殊な虚の毒によって視力を失ったこと。そのせいで長年、兄さんを苦しめていること。私の斬魄刀の能力は人の心の傷を癒すもので、その能力のせいで特禁棟へ入れられていると言うこと。


「なぜ、心の傷を癒す能力がそんなにも特殊なものなんだ?」
『人の体にはどうしても越えられない限界があるの。寿命が、それの良い例かな』
「……?」
『心と体は密接に繋がっている。それは白銀さんも感じたことがあるでしょ?』
「あぁ、確かにそう感じることもないことはない」
『体の限界点を突破して死にそうな人も、私の能力で心を癒せば、体の傷が回復する』
「なん、だと?そんなことが――」
『あり得ちゃうの、私の斬魄刀では。極端な話、ほとんどの臓器が潰れた死にかけの人だって私の能力があれば元通り生き返らせることが出来る』


だけどこの能力には大きな欠点がある。当たり前だ。こんな都合の良い能力にはそれ相応のリスクを伴うのは当たり前。ただ、私の場合それは一度失ってしまうと、取り戻すのが難しい。

《清廉潔白な心》

私が斬魄刀を使う時に必要なもの。他人の心を癒すのだから、術者の心も清らかではないと効力を発揮しないというのも納得できる。あの事件が起こるまで、私は元々の性格も反映されているのだろう。斬魄刀の能力を使う時に、このことが障害となったためしはなかった。人には《明》と《暗》とある。この能力は暗の面よりも明の部分が大きければ良い。

だけどそれまで保たれていたバランスがあの事件をきっかけに崩れていった。なぜなら私は人を恨むことを覚えてしまったから。


『あの人のこと、恨んでいるつもりはないの』
「……」
『上官を守るのは部下の務めで、私はそれに従っただけ。結果として両目の視力を失うという代償が付いてきたけれどね』
「咲夏、おまえ」
『だけど兄さんは――兄さんはそうじゃない。私がこの状態になってから随分と心に深い傷を負った』
「……」
『そんなやつれた兄さんを見ていると、あの人のことを思い出す。あの人のせいで私は兄さんを悲しませているのかな、って』


そんな風に考えていくと、どうしてもあの人を恨む心が芽生えてくる。恨んでいるつもりなんて更々無い。仕方のないことだったと割り切っている。別に生活するのにそう苦労もしてない。霊子を感知する能力を鍛えさえすれば、色がないだけで不自由なことなんてほとんどなかった。暗闇なんてとうの昔に慣れた。それなのに――。

私はあの事件から20年経った今でも斬魄刀を解放することが出来ない。その現実が私の心を露わにする。心の何処かで私は、あの人を恨んでいるんだ。兄さんから笑顔を奪ったあの人を。


「……咲夏。」


私が話している間。白銀さんはずっと私を抱きしめてくれた。怖がらなくて良い、俺が全部受け止めてやるからとでも言っているようで、私は思ったよりも随分たやすく過去を知って貰えたように思う。

受け入れて貰えただろうか?心に闇がある女なんて嫌われるのが普通。ましてや盲目の私なんかを本当に彼は好いてくれているのか。


「俺、お前のこと好きだ」
『白銀さんっ』
「眼が見えなくたって、まだそいつのことを憎んでいたとしても。咲夏は咲夏だろ?」
『うっ……ふぇ、』
「もう一度言う。俺と――付き合ってくれませんか?」
『……は、い』


キスを。優しくて甘いキスを。唇にされた。ゆっくりと触れるだけのそれ。だけど私の心臓はバックンバックンとせわしなく動いて、白銀さんの心臓も同じくらい脈打っていて。私と同じ気持ちなんだって、確認できて。お返しに私からも彼にきすを送った。初めてのことで下手くそだったと思うけど、白銀さんはそれに答えてくれた。


『っ……!白銀さ、ん。だいッすき』
「俺も。咲夏のこと、スゲェ好きだ。絶対に、幸せにする」


その夜。私は特禁棟に入れられてから初めてひとりでない、暖かい夜を彼と過ごした。




『白銀さん。おはよー!』
「はよ、咲夏。お前昨日かなり寝相悪かったぞ」
『エ?白銀さんに私なんかした?』
「腹を思い切り蹴られた」
『う、嘘!ごめんっ。私昔から寝相悪くって』


あぁ恥ずかしい。一人で寝るクセが付いちゃってるから、なんだからくすぐったいよ。寝相悪いのも一人じゃ関係なかったからね。でも、これからは違うんだ。白銀さんが――隣りにいる。

まだ朝の5時前だ。私はいつもこれくらいに起きるけど、白銀さんは眠くないのかな?と思って「眠くない?」と聞いてみた。返事は言葉じゃなくって、キスで返ってきた。どうやら眠くないらしい。白銀さんも朝早く起きているのかな?早起きするのって気持ちが良いんだよね。私の場合やること何にもないんだけど。


「そういやさ、咲夏の苗字ってなんなんだよ?」
『さぁ、なんでしょう?白銀さん、当ててみてよ』
「アホか。この世に苗字なんてごまんとあるんだぞ。当たるわけない」
『うーん。確かに。でも、そういう白銀さんこそ《白銀》って本名じゃないでしょ』
「あだ名?ってか俺の容姿を表したら自然とこうなった」


白銀、か。容姿を表したってことは肌が白いのかな?私も肌は白い方だと思うけど、もしかしたら白銀さんの方が白いのかもしれないな。あぁーあ。こういう時って眼が見えないのは不便なんだよね。少しでも見えたら色んなことが出来るのに。でも、まぁ――眼が見えなくなって特禁棟に入れられたおけげで、白銀さんに会えたのだからいっか。

そういえば、あの人も肌の色は白かった。氷のように瞳は冷たかったけれど、よくその姿が映えて美しかった。兄さんはあれからあの人の話はしないから今はどんな容貌になっているのか分からないけれど。


「じゃ、お前から先に言えよ。そしたら俺の名前も教えてやる」
『なんで白銀さんはそう上から目線なのかなぁ?初めて会った時は私が治療するまで大人しかったのに』
「うるせぇな。治療して貰ってる相手に文句いう馬鹿がどこに居るんだよ」
『あはっ。まぁそうか……私が助けてあげないと白銀さん死んでたかもしれないもんね』
「その節はどうも有り難うございました」


深々と頭を下げているのがよく分かった。思わず吹き出してしまう。だって白銀さんにそんな姿は似合わないから。いつも堂々としていて、凛としている落ち着いた人なのに。クスクスと笑うと、白銀さんは思った通り気を悪くして、私のほっぺたを思いっきり引っ張った。

うぅッ。そんなに怒らなくてもいいじゃない。白銀さんって以外と短気だ。


『ひひゃい、ふぁなひて!(※痛い、放して!)』
「もう笑わないか?」
『ふん、ふん。ふぁかったからふはぁく(※うん、うん。分かったから早く)』

「仕方のねぇやつだな、咲夏は」


そしたら今度は白銀さんがずっと私の方を向いて笑っていた。彼が声を出して笑うとこなんんて初めてだから、相当私は酷い顔をしていたのかもしれない。でもそんな些細なことでも、私は嬉しくて。ついつい笑みがこぼれてしまう。やっぱり一人じゃないっていいなぁ。


『私の兄さんはね、護廷の副隊長を務めてるの』
「……ェ!?」

(私がこう切り出した時から、白銀さんの様子はすこしおかしかった)

『ここは隊長格しか入れないから、兄さんは私の我が儘で四番隊から三番隊の副隊長になったの』
「っ!じゃあ咲夏の兄貴ってもしかして……」
『白銀さんも知ってる?私の自慢の兄さんは三番隊副隊長の吉良イヅル』
「!」
『で、私の名前は当たり前だけど吉良咲夏』
「吉良、咲夏っ?」
『うん。吉良咲夏。遅くなっちゃったけど、よろしくね白銀さ……』

バリンッ

『!?白銀さん!火傷してない!?大丈夫!?』


何かが割れる音がした。私はいちいち水を取り替えたり世話をするのが苦手だから、病室に花類は置いていない。だからこの音は花瓶が割れた音じゃなくて、多分白銀さんの持っていた湯飲みが割れた音。
そこらに破片が飛び散ってるかもしれないから迂闊に動けない。いくら感知能力を上げたって、破片サイズのものを完璧に感知する能力を私はまだ備えていない。

けれど白銀さんの様子がおかしい。私と同じようにそこから一歩も微動だにしない。どうして?怪我でもしたのかな?


『白銀さんもしかして、怪我…しちゃったの?』
「あ、いや平気だ。悪いな、割っちまって」
『ううん。気にしないから全然いいよ』
「咲夏。危ないからそこ、動くなよ。俺が破片を拾うから」
『うん。ごめんね』


白銀さんが元通りになって、ほっと一息吐いたのも束の間。かつかつとこちらへ近づく足音が聞こえてきた。あ゙!そうだった。今日は虎徹副隊長が病室の掃除に来るんだったよ。すっかり忘れてた。んー。まずいな。白銀さんのことバレたらきっと逢えなくなっちゃうよ。

悠長にそんなこと考えてる時じゃないな。白銀さんに早く帰って貰わないと。


『白銀さん!ごめん。今日はもう帰って貰っていい?』
「何か用でもあるのか?」
『ごめん!実は今日、副隊長がこの部屋の掃除に来る日なの。隠れる場所無くなっちゃうから――。あ、湯飲みのことは気にしないで。副隊長には悪いけど、ついでに片づけて貰うから』
「……そうか、わかった。じゃあ、また今度、な?」


そう言い残して白銀さんは来た時と同じく、風のように去っていった。そっと先程まで彼が座っていた位置を触ってみると、そこには僅かだが温もりが残っている。また今度、ね……白銀さん?


コンコン

少しだけ彼の余韻に浸っていると、すぐに戸をノックする音が聞こえた。湯飲みの破片はそのままだけど、仕方ない。はーい、どうぞ。といつものように返事をする。白銀さんのこと、悟られちゃいけない。虎徹副隊長はああ見えて、以外と勘が鋭い方だ。


「咲夏ちゃん。なんだか機嫌良さそうだね。良いことでもあった?」
『やだなぁ副隊長。私はいつもこんな感じですよ!むしろ最近兄さんが遊びに来てくれなくって、落ち込んでるくらいです』
「あぁ、吉良副隊長ね。そういや最近は私も見かけないなぁ」


手際よく副隊長は掃除を進める。こんな朝早くに来るのは、通常の勤務時間は他の仕事で忙しいからだと思う。ここは隊長格しか入れないという決まりがあるから。そんなものさえなければ、イヅル兄さんもわざわざ副隊長にならなくても良かったし、白銀さんともっと気軽に逢えるのに。

今度吉良副隊長に会ったら、咲夏ちゃんが寂しがっていたって伝えておくね。と言い、虎徹副隊長は四番隊隊舎へ戻っていった。兄さん……そういや一ヶ月ほど会っていない。市丸隊長のサボり癖が直らない限り、頻繁には来れないよ。と前に苦笑いしてそう話してくれたのを思い出した。


白銀さん――さっき別れたばかりだけど、早く会いたい。ベットに潜り込むとそんな我が儘な想いばかりが湧き上がってきた。