30000hit企画フリリク・ハイジ様へ





(ねぇ、知ってる?一年生にスッゴイ格好いい人がいるって噂!!)
(あぁ!それ知ってる知ってる。運動もできて賢いっていう人のことだよね?)
(あたしの友達は間近で見たらしいんだけどさ。もうあり得ないくらいカッコ良かったって)



最近女の子の噂の中心にいるのが今年の春入学し来た一年生の男の子だそうです。6月になった今でもその勢いは衰えることはなく、むしろ増え続けているように思います。

その理由というのは目先に迫った体育祭の後夜祭が原因です。後夜祭のフォークダンスで最後の5分間フリータイムという時間に好きな人と5分間きっちり踊れば想いが通じるというジンクスがあり、毎年それを信じて好きな相手の方を誘う女の子が多いのです。男の子から誘うのはどうやらマナー違反らしく、この時期の男の子はどこかソワソワしているように見えます。簡単に言うと、主導権は完全に女の子にあるのです。


――そして毎年起こるのが人気の男の子の争奪戦。男の子と一括りにしても、言い方は悪いかもしれませんがピンからキリまでいるのが普通で、女の子はその中から出来るだけ格好いい男の子を厳選するのです。ですが、その厳選された男の子というはの自分の好みも多少影響するのですが、人数に限りがあります。当たり前です。只でさえうちの学校の男女比率は2:3くらいなのですから。

その数少ない人気の男の子を誰が誘うのかで、女の子は激しい争奪戦を開始します。男の子にも一応拒否権というものが存在するので、大概は自分の容姿に自身のある美人さんばかりです。
大抵の方は半年ほど前から誘う男の子を決めているそうですが、今年はダークホースという名の相応しい日番谷冬獅郎くんという一年生が現れてしまったのです。そこから、です。女の子がやけに一年生の教室にこそこそと偵察に行くようになったのは。休み時間や放課後はもちろんのこと、なかには授業中に先生の目を盗んで行く人までいました。驚くほどすごい人気です。


『あのー日番谷くん。どうして私はこんな状況に陥ってるのでしょうか?』
「陥ってるなんて酷い言い方しないで下さいよ。俺は良かれと思って咲夏先輩を誘ったっていうのに」


そんな冷たい言い方はないっしょ?とにっこり笑みを浮かべて日番谷くんは私の手を未だに握ったままです。明らかにおかしいです、この状況。

もうここらでお分かりの方がほとんどでしょうが、私はあのジンクスに興味もなければ誘う男の子を半年前から決めようと意気込むようなタイプの女の子ではありません。5分間フリータイムはいつも眺めるだけです。それに、はっきりいって男の子は苦手です。体が大きくて、言葉使いも荒くて、おまけに何考えているのかさっぱり分からないのでちょっぴり怖いです。今日の後夜祭だってあわよくば強制参加のフォークダンスさえも踊らずに、教室にでも戻って続きの気になっている本でも読もうかと思っていたほどなのです。体育祭に出るのでさえ実は億劫だったのですから。

それなのに私はいま、日番谷くんに腕を拘束されて身動きできない状況に陥っています。横にいる日番谷くんはさっきからずっとニコニコしては私の方を向いてなにやら考えているようですが、堪ったものじゃありません。他の美人さん達の視線に耐えられませんし、第一私は日番谷くんとの面識もないのです。


もう一度言います。絶対におかしいです。この状況。


「さっきから機嫌が悪そうですけど、なにかあったんですか?」
『……』
「まぁいいですよ。俺は咲夏先輩のそういう顔も好きですからね」
『……』
「あ。そういやこれ、踊るのにはジャマですね」


綺麗な指で指されたのは私の眼鏡でした。どこが邪魔なのでしょうか。これは視力を調整するのに必要なものです。怪訝な反応をする私とは裏腹に日番谷くんは巧みに私の眼鏡を外し、どこから取りだしたのか、それを眼鏡ケースに収めました。視界がぼやけてよく見えないのですが、これだけははっきりと分かります。

日番谷くんは、
――面白がっている。

腕をぶんぶんと振ってどうにか彼から逃れようと試みてみるのですが、小柄とはいえやっぱり男の子です。一向に離れる気配がありません。


「そろそろ、始まりますね」
『じゃあ離れて下さ……』
「それはいくら咲夏先輩の頼みでも聞けないっすね。そろそろ観念して下さいよ」
『観念って!』

(やっぱり覚えてないんだな……)

『え?何か言いましたか?』
「いえ。何も。それより、曲始まりますよ」


少し悲しそうな表情を、日番谷くんはしたように見えました。どうしたのかと、首を傾げましたが、それも束の間。すぐさま彼は私の手を取り踊りだしました。

辺りの様子が全く分からなくなった私は彼にされるがままです。練習も疎かにしている私は当たり前ですが流れている曲は踊ったこともないものです。仕方なく日番谷くんのリードに適当に合わせました。おそらく不格好でしょう。ですが、周りの様子を伺うにも眼鏡がないとほとんど何も見えないので、それすらも出来ません。

せめて彼のポケットからケースを奪おうと、行動してみましたが……。


「先輩って意外と大胆なんですね。自分から抱きついてくるとは流石に俺も予想してませんでしたよ」
『っ違います!私はただメガネを返して欲しかっただけで…』
「でも咲夏先輩は俺の顔、見えるんでしょ?」


確かに日番谷くんの顔はかろうじて認識できます。先ほどと変わらず不敵な笑みを浮かべる様子は知りたくはありませんが、はっきりと伝わってきます。ですが、そこが限界です。日番谷くんより少しでも視線を遠くに外せば、たちまち私にはぼやけてしまって、はっきりしません。だから、メガネを返して欲しいのです。

周りの人にぶつかるのも迷惑だと思いますし……というか、私が日番谷くんと踊っている時点で女の子からは十分邪魔者扱いされてそうですが。


「じゃあ良いじゃないですか」
『良くありません!私はメガネを掛けないと、周りがよく見えないんですってばッ』
「先輩は俺の顔だけをずっと見ていればいい。後のことは全部俺がしますから」
『!』


繋がれている手が、急に熱くなりました。そう言った日番谷くんの顔は先ほどとは打って変わり真剣そのもので…何か反論しようと思っていたのに、出来ませんでした。馬鹿だと思われるかもしれませんが。私はその時初めて、大胆で人の意見を全く取り入れようとしない自己中心的な、この人をカッコいいと思ったのです。

ふ、っとそんなことを思えば、だんだん自分の状況がいかに可笑しなものなのか、ようやく理解してきました。


「咲夏先輩?」


私のような……大して恋愛に興味がなく、活字ばかりをみつめている人でさえも、日番谷くんを素敵だと思ってしまうのです。普通の女の子がそう思わないわけありません――。それほどまでに日番谷くんは魅力のある男の子なのです。

そんな人がどうして私にこんなことをするのか?

そんなこと愚問愚答です。言うまでもありません。ですが、その答えを導き出した時。私の眼からは熱いものが零れていきました。


「ちょっと先輩!どうしたんですか!?俺、なんか悪いことしました……?」


いきなり泣き出した私を彼は優しさで包んでくれます。自分に非はあったのか。知らないうちに何か、嫌なことをしてしまったのか。ゆっくりと、そしてとびきり丁寧に質問してくれるのですが、私には、もうそんなことに答えられる余裕がありませんでした。

だって、彼は私をからかってるんですから。


「咲夏先輩、俺ほんとうに」
『さわら、ないでっください』
「え?」
『さわらないで、くださいって言ってるんです』


本当は、この涙の正体がなになのか。私は知っています。だけどそれを口にしてしますと、それが現実になってしまいそうで酷く怖いのです。




−−−−−





曲が終了し、みなが後夜祭の準備をし始めた頃、私たちは校舎裏にいました。あそこは人目につきすぎます。


「俺が変なことをしたのなら、謝ります。だけど、俺の気持ちだけは真剣に受け取ってください」
『どういう、意味』
「……こんなこと、何とも思っていない女にすると思うんですか」


そう言った日番谷くんの声には少し怒気が含まれていました。少しの間、お互い何も喋りませんでした。目では日番谷くんが私に訴えかけてきましたが、それでも私は口を開きませんでした。

――だって、私は彼のことが好きなのですから。

今思えば、私が苦手な男の子の、それも学年の違う人の、名前を知っていること事体普通ではあり得ないことです。他人がどう動こうが、私には関係のないことだと無関心を装っていました。それなのに今回は、ごく自然に、日番谷くんの名前が頭に浮かび上がってきたのです。

私は自覚がないまま、いつの間にか日番谷くんのことが好きになっていたのです。


『私のこと、からかっているのならこんなことしないで下さい。迷惑です、』
「だから、俺は!」
『日番谷くんはどういうつもりなのか、分かりませんが、私は嫌なん……ん!?ちょっ!』


ガシっと手を握られたかと思うと、唇を塞がれました。もっともそれを理解したのは、彼の顔がすぐ前にあって、私の唇には生暖かい何かが触れた感覚がしたからで…。ぱちぱちっと瞬きをすると、終わりに、ぺろりと目元の涙を舐められました。吃驚し過ぎた私は、言葉がまともに出てきませんでした。
ですが、その様子は私だけでなく日番谷くんも同じようで、いつもの余裕顔ではなく、額にうっすらと汗を掻いていました。


「これで分かりましたか」
『何を、ですかっ』
「……俺が、あんたを、好きなこと」
『そんな嘘、信じられるわけない』


好きな人にキスされて嬉しくない人なんていないでしょう。だけど、それは両想いという大条件で成り立つ感情です。私が今感じているものとは、絶対に違います。

(だって、そんなこと、あり得ないです)


「咲夏先輩にとって、所詮俺はその程度の存在ってことですか……」
『ッ、』


ぐにゃりと日番谷くんの顔が歪みました。なんだか……とても悪いことをしてしまったみたいで、堪らず、また私の涙腺は緩んでいきました。

(私は、信じても……いいのですか?)


『私はっ、日番谷くんのこと!』
「俺は本気です。初めて見たときから、初めて、入学式で見たときから、咲夏先輩のこと、好きでした」
『入学式……?』
「はい。先輩は、覚えてないかもしれないけど」


(それからポツリポツリと搾り出すように、日番谷くんは話し出しました)

俺ほその頃、教師たちに目を付けられるのが嫌で、コンプレックスであるこの髪と瞳を隠していました。髪はわざわざ黒に染めて、カラコンも入れてました。だけど、入学式の日。あの日、俺はうっかりコンタクトを入れ忘れたんです。焦りましたよ。俺は新入生代表に選ばれていましたから、唯でさえ目立ちますし。中学のときみたいに、それで悪目立ちしたくはありませんでしたから。だけど、そこにカラコンなんてもの持っている人なんて居るはずないし、結局俺はこの碧色の瞳で入学式に出席しました。案の定、周りの反応は予想していたとおり、俺を白眼視し、一緒のクラスにはなりたくないと気味悪がられました。

(くっそ)

教室に戻るときに祖母が持ってきてくれたので、急いでカラコンを入れましたが
、俺の気分は最悪でした。また、繰り返し――だと。これから3年間、また腫れ物を扱うような視線に耐えなければならないと。
だけど、その時……

(あっごめんなさい。大丈夫ですか?)

教室に戻るときに不貞腐れていて、前を見てずにぶつかった相手がいました。それが先輩です。

『あっ』
「先輩その時いいましたよね?俺に」


(何か困ったことでもありましたか?)
(……いえ、別に)
(そうですか。それならすみません。私の勘違いです。ですが――)
(?)
(人というのは自分とは違う部分を持ったヒトを見つけることが得意です。ですが、無理に周りに合わせる必要はないと、私は思います。一人でも、自分の事を本当に理解してくれる人がいるからです)
(それは……っ)
(貴方なら、きっとすぐにお友達も出来ますよ。安心して教室に向かってください。では)




「先輩は俺がクラスに馴染めるか不安であんな顔をしたんだと思って、あの言葉を言ってくれたんですよね。先輩にとっては、忘れてしまうような些細なことだったのかもしれませんけど、俺はあの言葉に救われました。初めて、この髪の色も瞳の色も、まぁいいか、と思えました」
『覚えて、います』
「え?」
『3階の踊り場でぶつかりましたよね?私、覚えています、日番谷くんのこと。あのときは、今にも泣き出しそうだったので、どんな言葉を掛けて良いのか分からなかったんですけど――』


昔の私もちょうどあんな感じだったな、と思ったのです。クラスに馴染めるか、とっても不安で、ほんとのところ教室へ行きたくありませんでした。式だけで十分。どうせすぐに顔を合わせなければならないのですから、別に今する必要はないとまで思っていました。



「あんた、どうしたの?教室入らないわけ??」
『あ、すいません』
「ん?なんで謝るの。入りたくないなら、入らなくて良いじゃない。誰に迷惑掛けるわけでもないし」
『……はぁ』
「言いたいことははっきりと言う!それで嫌われるようなら、そんな奴ほっとけばいい。本当の友達っていうのは、少々のことがあっても、大丈夫よ。信じなさい」



まだその頃は名前も知らなかった乱菊にそう教わりました。確かに他人に気を遣って、歩調を合わせることは大切なことです。ですが、無理をし過ぎてはいけないのです。自分らしさを殺さないで付き合える友達。そんな人が本当のトモダチと言うのだそうです。

見たところ、日番谷くんは普通の人だと私は思っていました。だけどその表情は何かを必死で堪えている様な、悲しみ色に染まっていました。その顔は今でもしっかり覚えています。入学した後にも、時々思い出して一年生の顔をすれ違いざまに確認したりもしました。


『そうだったんですか……あの時の人が、日番谷くんだったのですね』
「あれから、髪の色も直して、カラコンを入れるのも止めました。全部、先輩のあの言葉があったからです」


まさかあの時の人が日番谷くんだったとは、思いもしませんでした。もともと銀髪だったんですね……。だから見つからなかったのでしょう。
改めて日番谷くんの顔を覗き込むと、その顔は赤みを帯びていました。おそらく私も似たようなものです。そう思うとなんだかくすぐったいような、うれしいような、そんな不思議な気持ちになりました。


「これで俺の気持ちが本当だって、信じてくれましたか?」
『っ――は、い』


私がそう答えると、じゃあこれくらいいいですよね?と。さっきの無理やりのキスではなく、優しいキスを贈ってくれました。ですが、私まだそれに対する返事も、根本的な告白の返事もしていないのです――。やっぱり強引です、日番谷くんは。


「そういう大事なことを、早く言わない先輩が悪いんでしょ?」
『わ、私は!』
「でも俺結構傷つきましたからね。信じてもらえなくて」
『それは、日番谷くんがっ』
「俺が?」
『日番谷くんが、すごく人気のある人でっ』
「それで?」


意地悪くにこりと微笑む彼に、私は再確認しました。日番谷くんは、相当意地の悪い人だと。






キス百回で許してやる

(咲夏が俺にキスしてくれるんなら、許してやらないこともないけど?)(何言ってるんですかっ!?!そんなの無理に決まってます!)(俺がやり方全部教えてやるから大丈夫だ)(やり方って、そんな!)







*あとがき*
ハイジ様、遅くなって申し訳ありませんっっ!!(土下座)しかもえらく意味不明な設定から始めてしまいました(汗)取りあえず、学校でやったフォークダンスが頭に浮かんできまして…あれって超メンドイなぁと。あれ?渡嘉敷だけ??とか思いつつ書いていたら、しまりのないグダグダした文章になってしまいました(>_<;)すごい個人的な意見ですが、日番谷くんの黒髪、黒瞳は見てみたいです(爆)気に入ってくだされば、幸いです(´艸`)あと敬語キャラってのも一度やってみたかったので、出来、不出来関係なく、楽しかったです←
最後に日番谷くんの敬語が抜けるのは、そっちの方が彼氏らしいかと、思いまして…vV新年早々趣味丸出しで本当にごめんなさい。


お題サイト様→narcolepsy
2010/01/16