30000hit企画フリリク・花音様へ






(その日、俺の携帯には一通の不思議なメールが送られてきた)



受信者はもちろんこの俺。まぁこれは当たり前だ。俺のケータイに送られてきてるんだからな。で、肝心の送信者は幼馴染みであり(俺の一方的な片想いであるが)好きな女でもある咲夏。まぁ好きな女と気軽にメールできるってことは、他の奴ら曰く珍しいことらしいが……生憎俺と咲夏のやり取りにそんな甘い雰囲気は皆無だ。

思い出したくもないが、一回映画にあいつを誘おうと思ってメールをしたことがあった。送ってから小一時間ずっとケータイの前でスタンバッってたっていうのにあいつの返信が送られてきたのは、それから12時間経った次の日のこと。しかも俺が勇気を出して誘ったっていうのに、咲夏は《あぁ、それ友達と見たことあるからヤだ》の一言。ちくしょーなんだよ。映画の種類とか正直どうでもいいんだよ!俺が違う映画に誘ってたら良かったのかよ!?ったく、馬鹿咲夏め。人の善意は素直に受け取りやがれ。


おっと話は逸れたが、ここまでは(悲しいことに)いつもと変わらない至って普通のメールだ。そう、ここまでは、だ――。

(普通じゃないのはその中身。つまり《本文》にある)


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2009/10/18 08:28
Subject 今日
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そっち行くからよろしく
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いつものごとくそっけない文章だ。が、今はこの短い文章に対して悲しんでいる暇はない。というのはさっきからいうように、この文章にはある不可解な点がある。

まず一つ目。それは送られてきた時間。俺と咲夏は幼稚園、小学校、中学校と同じ学校に通っていったのだが高校は別々の所へ進学した。別に同じところに行けなくもなかったのだが、俺はあえて咲夏に女子校を薦めた。あいつは共学ではかなりモテる。俺が目を離すとすぐに呼び出しだ。しかもあいつはそれを自覚してないのかほいほいと簡単に付いていきやがる。毎回毎回、俺がその手前で阻止しているからいいものの……共学では変な虫が多すぎるんだ。その点女子校は断然安全度が違う。本音は高校も咲夏と一緒に通いたかったのだが、あいつのことを考えるとそれがベストだと俺は考えた。

ん?どうやって咲夏を女子校に行くよう説得したかって?そんなもん《女子校の方が絶対にモテるぞ》の一言でオッケーだ。あいつは前々から彼氏を欲しがっていた。こんなに良いヤツがそばにいるというのに彼氏を欲しがる咲夏にはショックを受けたが、逆にそこを利用して俺は説得に成功した。


『えー!共学の方が彼氏できやすいってみんな言ってるじゃんっ』

「お前は分かってねぇなー。女子校にいるっていうだけで男っていうのは単純な生物だから《女らしい》って想像するんだよ」
『……だから?』
「だから今のお前にピッタリだろ。その女らしくない性格が彼氏の出来ない原因だからな」
『あぁ、なるほど!つまり女子校に通っているっていうだけで無条件に《女らしさ》がくっついてくるんだね!!』
「そーいうこった」
『よし!冬獅郎、私決めた!女子校に行く!!』
「おぉー。頑張れ、頑張れ。俺も応援してっから」


はん。咲夏を説得することなんて、ちょろいもんだぜ。なんたってあいつは物事を深く考えないからな。そのおかげで校則の比較的厳しい学校に入れることにも成功!だって短すぎるだろ?あのスカート丈は。電車の中とかで他の男にあいつの美脚を見られるのとか考えるだけで胸くそ悪いし。

で。校則が厳しいってことは当然校内での校則は一段と厳しいわけで…ケータイなんてもん校内で使ってたら即没収らしい。この前友達が見つかって取られた、とあいつは言っていた。つまりHRが始まる直前の08:28にメールを送るってことはかなり危険なことの筈だ。なのになんで送ってくる?ちなみに今は7限目の終わった後で部活前。

(分からねぇ)




次、2つ目。《そっち行くからよろしく》の《そっち》の示す場所。テストで指示語の内容を示しなさいって問題が出てきたら、その前の文章から答えを探すのがセオリーだ。だが、こいつのこの(短い)文の中ではそれが何なのか。全く示されていない。

俺の家のことか…と一瞬考えたが、その可能性はすぐに消え去った。なぜなら咲夏は平気で俺の家へ上がり込んでくる非常識なヤツだからだ。親しき仲にも礼儀ありって言葉をあいつは知らないんだよ。俺が部活が終わって帰ってくるころには十中八九あいつは俺のベットの上に(無断で)寝転がっている。


「ただい、ま……。」
『ん。お帰りとうしろー』
「おい、咲夏。お前、なんで無断で俺の部屋に入ってるんだよ」
『幼馴染みなんだからそれくらい良いじゃない。冬獅郎のケチんぼ』
「良くねぇよ!」
『おばちゃんが作った甘納豆を冬獅郎だけが独り占めするのはずるい!』
「ズルかねー!」


こんな会話が今までに何度繰り広げられてきただろうか……。そのたびに俺は男として意識されていないことを突きつけられてきた。だってTシャツに短パンの無防備なままで俺の部屋に入ってくるんだぞ?アウトオブ眼中もいいところだ。――まぁここまで話せば分かると思うが(非常に悲しいことに)あいつが俺の家に来る時に連絡してくることはありえない。よってこのメールの《そっち》は《俺ん家》じゃねぇ。

(じゃあどこのことだよ)







「はぁ……意味わかんねぇし」
「何が、だよ?」
「うわっ!ちょ、止めろ黒崎」


黒崎は俺の手からすばやくケータイを抜き取った。しかも「ふんふん、渡嘉敷からかー。なるほど」と勝手に貴重な咲夏からのメールを見やがる。俺は慌てて黒崎からケータイを取り返そうとするのだが所詮この身長差は埋まらない。中学の時よりかは随分と差は縮まったものの、未だに幾分か黒崎の方が俺より高い。

だからこの前「冬獅郎と一護って両方モテるけど、私的には身長の高い一護の方がタイプかな」とまで咲夏に言われた。それからというものの、俺の中では打倒黒崎を目標にしている。多分、というか絶対に黒崎はそんなこと知らない。


「おい!せこいぞっ。俺とお前の身長は違うだろ」
「なぁこの文の《そっち》ってどこのことなんだ?」

(こいつ…!軽く無視しやがった)

「あぁ、あれか?これ冬獅郎ん家のこと指してるのか?」
「……っ」
「でも渡嘉敷って冬獅郎に許可とるようなタマじゃなかったよな。――じゃあ、やっぱ違うか」

(性懲りもなく俺の気にしていることを次から次へと……!)


恨めしさを込めた視線に気づいたのか、黒崎はこっちを向いて「わりぃ、わりぃ」と謝ってきた。おい!遅ェぞ。つーか全然反省してないだろっお前。しかも頭撫でるな!!子供扱いしてんじゃねェ。ほらみろ、周りのやつらもヒソヒソと俺らのこと話してるだろうが!
知ってるか!?俺もお前も彼女がいなくて、やたらと仲が良いからホモ疑惑まで浮上してるんだぞッ。マジあり得なぇよ。俺は今も昔も咲夏一筋だ!


「でもよー、渡嘉敷の言う《そっち》ってマジでどこのことなんだろうな?」
「俺に聞くな、黒崎!」
「んん――。俺が思うに、多分それはウチの学校のことだな」
「はぁ!?」


なに訳の分からないこと言ってるんだ、こいつ。頭イカレてるんじゃねーの?咲夏がうちの学校に来る?!絶対無理だろ。それ。違う制服で入ったらすぐにバレてきっと教師達に指導室あたりに連行されるし、あいつはここの行き方も知らないし。第一あいつがこっちにくる理由がないだろ!?


「分かってねぇなぁ、冬獅郎は」

「……あん?」
「渡嘉敷は前々からずーっと彼氏を欲しがってるんだぜ?それなのに、出会いの少ない女子校にお前が入れて……」
「――。」
「彼氏が出来ないってずっと嘆いてたぞ」
「――。黒崎、お前どこでそれを知った」
「メール」


がーん。俺の中で何かがボロボロと崩れる音がした。

咲夏は黒崎とそんなに頻繁にメールするのか……。俺とは全くそんな話をしないくせに。くっそ。そんなこと俺はどちらからも聞いてないぞ。しかも黒崎!お前、俺が咲夏に惚れていることを知っているくせになに手ぇだしてんだ!!前に言ってたよな?!咲夏に興味はないって!


「で、格好いい人を見つけにウチの学校に遊びに来たいって愚痴ってたぞ」
「……ちっ」


確かに――。あいつはそんなことを言っていた気がする。だが、それは気がするだけであって、それを本当に実行するかは別だろ??さすがの咲夏でも他校に潜入するなんて無茶苦茶なことする訳ねーよ、な?

(何故だか、きっぱりと言い切れない俺がいた)


「おーい。日番谷、黒崎!お前ら来ねーなら先行くぞー」
「うわッもうこんな時間かよ。ほら、冬獅郎!そんな怖い顔してケータイ眺めてても何も分からないぞ」
「うっせー」
「部活にいって気でも紛らわせようぜ」


半ば強制的に黒崎らバスケ部のメンバーに引きずられ、俺は部活に向かった。ん?背が低いのになんでバスケなのかって?そんなのいいだろ、別に。これから成長すんだよ、こーれーかーら!それにな。これでも一応期待はされてるんだぞ、監督から。

――とはいうものの結局背が低いってのはバスケでは致命的なんだが。





ピピーッ

マネージャーの松本が吹いたこの音と共に俺たちはアップを終了した。課せられたメニューを黙々とこなしていく。キュッキュとバスケシューズの擦れる音が体育館に響く……。咲夏はこの音が嫌いであんまり試合に見に来てくれなっかたけれど、俺はこの音、好きだ。バスケやってるんだなぁって自覚できる。


ざわざわ

放課後のこの時間になると増え続けていくギャラリーの数。一向に減る気配がないのは気のせいじゃないだろう。黒崎達は見られてもなんとも思わないらしいが、俺は気が散って仕方がない。


(きゃー!黒崎くん今日もカッコ良い!!)
(いやいや。そこはやっぱり檜佐木くんでしょっ。あ、ほら。またスリーポイント決めた!)
(確かに。でもやっぱりあたしは阿散井くんかなぁ)
(いやいや。以外に日番谷くんも人気あるよ。背はあんまり高くないけど、可愛いじゃん)
(あぁ、それ分かるー!日番谷くんてちょっと可愛いよね。なんか黒崎くんにいつも撫でられてるし)


おい。今、俺のこと可愛いとか言ったやつ出てこい!ついでにチビって言ったヤツも!!
俺はチビでもなければ可愛くもねぇ。ってかお前らがこういうこと言うからホモ疑惑が浮上すんだよ。止めてくれ、マジで。


「あいつらマジうぜー」
「まぁまぁそう怒るなって。あいつらに悪気はねぇんだからよ」
「応援するんだったら、まず選手のことを第一に考えろよな。気が散って仕方ないんだよ」
「ふーん。確かにお前の気持ちも分からなくはないが……」


ざわざわ

練習の合間にそんな話をしていると、いつもよりなんだか周りの様子が騒がしいように感じた。黒崎もその変化を感じ取ったようで、俺の方を不思議そうに見てくる。他の奴らも同じだ。しきりに辺りを見渡しては様子を伺っている。


「なぁ冬獅郎……なんか、やけに騒がしくないか?」
「あぁ。俺もちょうどそう思ったところだ」


なんだ?なにか事故でも起こったのか?でもそれなら、もっと教師たちが騒ぐはずだよな。……どちらかというと、これは歓喜の声って感じがするんだが。

『わぁ〜!桃ちゃん、すごいっ。冬獅郎の学校ってめっちゃ広いんだね』
「そうかなぁ?咲夏ちゃんの学校ってそんなに狭いの?」
『狭い狭い。ついでに言えば格好いい人なんて一人もいない。先生達もおじさんばっかりだし』
「あはは……そうなんだ」
『うん。だからね、今日は絶対に格好いい人見つけて帰るの。桃ちゃん、協力してよね』
「分かってるってば!じゃあまずはバスケ部見に行こうよ。イケメンで有名な人達がいっぱいいるよ」
『うんうん。見に行く!』


(まさか――この声は!)

いやいや。そんな筈はない。俺は賢明に頭に浮かんできた可能性を取り除こう試みた。うん。あいつがここにいるはずがない。当たり前だ。当たり、前。


「なぁ……冬獅郎。この声ってもしかしてよぉ」
「雛森と、」
「――渡嘉敷じゃね?」
「チッ!」


黒崎のこの言葉が発せられると同時に俺は部活そっちのけで体育館を抜けだした。うわぁ、おい!待てよー!!という制止のの声なんかに構ってられるか。どういうことだよ、ちくちょう。あいつ、まさか本当に来たって言うのか!?そんなことが頭をよぎるが、必死に振り払う。どうか間違いでありますように。そう願いながら、俺は咲夏かどうかを確かめるために人混みの中をかき分けて騒ぎの中心へずんずんと入っていった。

(頼むから、そんな無茶なことしないでくれよ)


だが俺のそんな儚い願いも、咲夏特有の団子頭が見えたことによって消え失せた。あの頭は絶対に咲夏だ!隣の雛森のものであろうシニヨンもしっかりと確認できた。周りでは《あの美人は何者だ?》の疑問が既にあがっていて、早くしないとこいつがここの学校の生徒じゃないことがバレると思った。

(てか黒崎め。お前があんなこと言うから本当にこいつが来ちまったじゃねぇか!)


「おい!ここでなにしてんだ、咲夏!!」
『あっ、冬獅郎!っと、ちょ、冬獅郎どこ行くのよ!?私今から桃ちゃんと一緒に』
「いいからこっち来い!」


すぐさま咲夏の腕を取り、その場を離れる。俺は必死でこいつを庇ってやってるというのに、当の本人は危機感を全く持っていない。平気で「ちょっと!私今から一護たちバスケ部の練習見に行ーくのぉ!!」とかぶつぶつ文句言ってきやがった。あり得ねぇ。しかも俺がバスケ部だってこと、こいつ忘れてないか??

とりあえず、体育館の裏側で咲夏に説教をする。どうやってここにきたのか。どうやって制服を調達したのか。どうしてここに来たのか。聞きたいことは山ほどあった。


(えーっとね。桃ちゃんの彼氏の藍染先輩が車で送ってくれてね!)
(制服は桃ちゃんの予備のを貸して貰ったの。どう?似合ってるでしょ。サイズもピッタリだし)
(どうしてここに来たかって、そりゃ格好いい人を見つけるために決まってるじゃん)


あ゙ー!くそ。似合ってる。マジでうちの制服似合ってる。てか素直に可愛い。でも、ここで折れちゃ駄目だ。こいつは調子にのってまた遊びに来るとか言い出すだろう。ちゃんと、もう来るなときつく言わなければ。


「咲夏。今後二度と勝手にうちの学校に来るなよ」『……』
「お前がうちの学校の生徒じゃないってバレるのも時間の問題なんだからな。わかったか?」
『ブゥー!ケチ』


だが、元々人の意見を素直に聞き入れる性格じゃない咲夏は、なかなかうんと言わない。なにかとうちの学校はマンモス校だからバレないだのと屁理屈をつけてくる。そりゃな、確かに普通のやつだったら多分よっぽどのことがない限りばれないだろうけどな。お前は違うだろ?

さっきだって雛森とちょっと喋ってたくらいであんな大騒ぎになって…。自分で自分の容姿に気づけよ。だから共学じゃ悪い虫が付くからって女子校を薦めたんだぞ?お前がそんな様子じゃあ意味ないだろうが。


『あー!!一護!久しぶりっ。っていってもメールするからそんなに久しぶりじゃないか』


俺たちの言い合いがちょうどヒートアップしかけた頃。黒崎が様子を見に、こっちへ来た。どうやら練習が一区切りついたらしい。


「おう渡嘉敷。まぁ……久しぶり?」
「黒崎!お前なんでこっちに来た」
「なんでって言われても、お前らの会話聞いてると仲介者が必要だなって気分になるだろ」


うっ……。あのまま黒崎が来なかった時のことを想像してみる。きっと、いつもは仕方ないと譲る俺も今回ばかりは絶対に譲らなくって――もちろん頑固者の咲夏が俺の言うことを素直に聞き入れる筈もなくて。

(あのままだったら絶対に喧嘩になってた)


『ねぇねぇ、一護。あたしバスケ部見に行きたい!』
「あぁバスケ部な。別に良いんだが、今回だけにしとけよ?こんなことしてたらうちの教師達に怒られるからな」

(冬獅郎も心配するし)

「な?冬獅郎、今日くらい良いだろ?渡嘉敷だって偶には息抜きが必要だし」
『うんうん。分かった。今度からは絶対にこんなことしない!だから今日だけお願い、冬獅郎!』
「――。」
『次からはちゃんと冬獅郎のいうこと聞くから!』


「……ったく、仕方ねぇな。今日だけ特別だぞ」

(結局俺はこいつには甘いんだよなぁ)

『ヤッター!!ありがと、冬獅郎!だーいすきっ』
「うわァ、離れろ!抱きつくな咲夏」

(大好きとかそんな軽く言うなよ、ばか)







あれから俺たち(咲夏も含む)は体育館に戻った。咲夏の面倒はマネージャーの松本に頼んだ。あいつは咲夏が俺の幼馴染みだと知ると、案の定快く(何か企んでそうな気がしなくもないが)引き受けてくれた。松本が喋り相手になってくれたおかげで、今は咲夏も大人しくベンチに座ってる。

そして俺たちは今1on1の練習をしていた。これが一番、俺たちもギャラリーも盛り上がる。バスケはチームプレーっていうけれど、個人の能力が高いに越したことはない。1on1の場合、単純な力のぶつかり合いなのだから。


「冬獅郎そろそろいいだろ?」
「ん。黒崎、相手してくれよ」
「渡嘉敷がいるからって、手加減しないぜ?」
「はっ。望むところだ」


俺は勝手に練習を抜けたバツで途中参加。だが、そのおかげで黒崎を抜く姿を十分にイメージできた。イメージトレーニングって結構大事だからな。あとは、しっかりと集中することだ。咲夏の前だから、かっこつけようとかいう邪念を取り払って、俺は黒崎に向き合った。
(出来る。俺ならきっと、黒崎を抜ける。おし!――まずは、)


スピードを出して黒崎に近づく。そして俺が得意のバッグドリブルでスピードを落として……緩急をつけたドリブルで突、破

(しようと思った刹那、黒崎が耳元でこんな言葉を吐いてきた)


「おい、冬獅郎。恋次達が渡嘉敷の体を弄りまわしてんぞ」
「え?」

(まさぐりまわすだと!??)

「なーんてなっ」




コロコロコロ

気づいた時にはもう俺の手の中にボールはなくて……。かわりに降ってきたのは黒崎の馬鹿笑い。ゆっくりと咲夏の方を向けば、あいつは楽しそうに松本と盛り上がっていて。阿散井はその場にはいなかった。極めつけは、咲夏がこっちをふり向いた時の「うわぁ!冬獅郎、一護に負けたんだ」の一言。

(くっそ!嵌められたー!!)



「ぶははは!冬獅郎、お前ちょーダサイ!!」
「松本が周りにいるのにそんなこと渡嘉敷がされる訳ねぇじゃん」
「普段の冷静なお前なら、ちょっと考えればそんなことくらいすぐに分かるだろ?」
「それなのに、鳩が豆鉄砲を食らったようにキョトンとしやがって」

「黙れ!黒崎!」


うわ、こいつマジで最低だ。嘘でもあんな真剣な場面でそういうこと言うなよな。第一、俺でさえも咲夏の体とか触ったことないんだぞ!??それなのに阿散井に先越されるとか……!あり得ねぇよ。

(こら。松本!テメェもにやついてんじゃねぇ!!咲夏が不審がってるだろうが)


「はーい。じゃあ今日の練習はここまでよ!」
「チーッス」


俺の怒りが収まらぬまま、今日の練習が終了した。黒崎は未だに笑いが収まらないらしく、腹を抱えてうずくまっている。どれだけ笑えば気が済むんだよ、お前は!しかも最悪なことに、黒崎につられて松本や他の部員まで笑っている。これじゃあ俺、かなりかっこ悪いじゃねーかよ

(咲夏の前くらい格好いい俺で在りたいって言うのに……)








『ねぇ冬獅郎、今日の晩ご飯なにかなぁ?』


結局、何一つ良いところを見せられなかった俺は咲夏と一緒に下校している。落ち込む俺とは違い、咲夏はなにか収穫があったのだろうか。気分良さげに鼻歌を歌ったりしている。

どうしようか。今日ので、好きな人を見つけたとか咲夏に言われたら。しかもそいつが俺の知っているヤツだったとしたら。ごめん、咲夏。俺、ショックで当分相談に乗れそうにない。


「――俺がお前ん家の晩飯を知っていると思うのか?」
『そんなの推測に決まってるじゃん。あたしお腹減ってるの。なんかおいしそうなもの言って』

(また、無茶苦茶なことを)

「なぁ、咲夏……」

(聞いてみようか。この際)

『ん?なに、とうしろ』

(今日、気になるヤツできたか・って)

「うちの学校で格好いいヤツ見つけたか?」
『ん〜。格好いい人ねぇ。いたかもしんないけどねぇ』


むっ。なんだよこの微妙な反応。こっちはかなり真剣に、というか今後の人生にかなりの影響を及ぼすであろうことを聞いてるってのに。はぐらかすなよ。

そんなことを思っていた瞬間、左手に暖かい何かが絡まってきた。何か、が――。いや、これは咲夏の右手?


「ちょ、お前」


おいおいおい。手を繋ぐのなんて何年ぶりだよ…。確か幼稚園ん時くらいじゃなかったか?咲夏が卒園式で大泣きして慰めた時の。つ−か、これ、あれじゃないよな?あれっていうのは冬に寒くて暖を求める。ッて感じでカイロの代わりに俺の手……みたいな感じの。いやいや。落ち着け、俺。今は6月で全然寒くないぞ。むしろ暑いくらいだ。

(じゃあこれは一体どういう――)


『冬獅郎、私さぁ』


俺の手を握ったまま咲夏はくるりと身を翻し、にこりと笑って俺の額をつついた。はぁ?え゙??なんだよ、この甘い展開!

(そしたら咲夏は耳元でこう囁いたんだ)


『冬獅郎以上に格好いい人なんて、見たことないよ?』
「……ッ!!」





今日も今日とてキミに完敗

(と、いう訳で。今からパフェ食べに行くよ!)(はぁ?!なんでそうなるんだよ!)(一護にカップル割引券をさっき貰ったの)(冬獅郎と私じゃあカップルに見えるでしょ?)(チッ――そういう魂胆かよッ)










*あとがき*
花音ちゃん、お待たせしてごめんね!9月中に仕上げるのはやっぱり無理だった(苦笑;)スポーツねたってことだったんだけど、こんなんで良かったのかな??しかも勝手に日番谷くんヘタレにしちゃってゴメンね(>艸<*)小悪魔ヒロインちゃんを書きたかったんだけど、気づいたらこうなってた(爆)日番谷くんはパフェを食べに連れって行って欲しいからヒロインちゃんがあんなことを言って自分のご機嫌をとろうとしたと最後に思っているけど、多分ヒロインちゃんも日番谷くんのことを好きなんだと。だけど、別に恋人らしいことなんて、まだしなくていいかなぁみたいな(*´X`*)そんな微妙な感じかな?


お題サイト様→narcolepsy
2009/10/19