護られたいんじゃない私は貴方の負担じゃなくて支えになりたいの。そう言うと彼は決まってクスりと口元を綻ばせる。滅多にない現れない表情に、私はいつも熱に当てられてしまう。真剣な話をしているのにそれ以上何も繋げなくなる。口を閉ざすのが彼の特技とも云えるかもしれない。おまけに私の唇も。こうやって私が彼にどうして?と視線を送ると、彼はやっぱり決まってキスをする。それ以上何も言わなくても俺は分かってるというように。愛しむように頬を撫で、優しい瞳に真っ赤な私を映すの。はぐらかされているように感じるのは、気のせいじゃない。そして私はいつも気づかされる。《怖い》という感情が彼を脅かしていることに。


『日番谷くんの……ばか。意気地なし』


彼は堅実だから将来についてはしっかり計画を立てて、といった人だと思っていた。でも付き合ってから3ケタの年月が経った今でも、日番谷くんは私との未来を想像してくれないみたいだった。決して口には出さない。明日は何したい?の返事は大抵、その《明日》が来てからだ。一週間後の予定なんて立てられたもんじゃない。彼は守れない、かもしれない、約束はしない、とでも言うように頑なに私との未来を拒む。私を残して死ぬのが怖いんだ。ん?ちょっと違うかな。自分の存在があやふやになって、忘却されて、終いには跡形もなく消えさってしまうのが。怖いんだ。きっと私がそこから動けなくなるまで縛られ続けると勘違いしてるから。信用されてないんだ、私は。こういう死と隣合わせの職業だから、日番谷くんは全部を私に預けさせてはくれない。守れない約束は最初からするべきではない。確かに正論。でも、守れるかもしれない約束さえも拒むのは正論?私は違うと思うよ日番谷くん。今までだって何度も危険にさらされて、命の一つや二つ失ってもおかしくない状態に陥ったことがあったけれど、貴方はこうして最後には私の元へ生きて帰ってきてくれるじゃない。もしその間した約束があったならば、貴方はきっと律儀な人だから守ってくれるでしょう?あっそれもちょっと違う。別に約束なんて絶対に守ってくれなくたっていいよ。貴方には何か約束を守れない理由があった、んだって私は信じていられるから。私は貴方のそういう部分も全て理解しているから。だから余計勿体無いの。私と日番谷くんが一緒にいられる時間は絶対に有限だから。確実に来る、だけどそれは今じゃない。その事ばかりに不安がって恐れをなしていては、今ある幸せが疎かになってしまう。永遠に続いていかない。だからこそ、私は貴方との今も未来も楽しみたいの。それって欲張り?我が侭?そう感じてしまうのは私だけなのかな。


『私はお荷物じゃないんだよ』
「知ってる」
『私は日番谷くんに護られる存在じゃないの』
「解ってる」
『判ってない』
「解ってる」
『判ってないよ……いい加減はぐらかさないで、ちゃんと私と向き合って』
「俺は」


庇われて護られて囲われて。それってやっぱりおかしいよ。私は貴方が思ってる以上に護られることに苦を感じているの。気づいてよ、日番谷くん。私だってさ、貴方のことを護りたいんだよ。護られたいんじゃなくて、護りたいの。貴方が大切だから、失いたくないから。残されるのも残してしまうのも《怖い》もの。ずっと一緒になんていられないことくらい解り切ってる。今更永遠なんて信じられるような幼稚な精神は持ってない。厭になるくらい見てきたでしょ。好き合っていても一緒にいられない人たちを。片方が消えちゃったら、終わりなんだよ。私たちが今、この時を、同じ気持ちで、過ごせる。それって本当に幸せなことなんだよ日番谷くん。だからね?限りがあるから、だからこそ、私たちは今を大切に生きようとするんでしょ。ずっと無限に時間があったら、きっとこんな考えには至らないよ。
彼の胸に頬をすり寄せてみた。いい匂いがする。私を安心させる香り。日番谷くんの髪は、昨日の雨で湿り気を帯びているのか、若干しなっとしていた。言いたいことを言い終えて、すっきりした私は何食わぬ顔で、今度は自分から彼の唇を塞ぐ。いつも日番谷くんがするように。日番谷くんが、逃げやすいように――。






「明日……仮に松本が朝から出勤して来てよ」
『えっ?』
「どっかに逃亡せず、珍しく真面目に働いたとして」
『あっ、うん』
「それで他隊からの確認書類が少なかったらな」
『たら?』
「……飯でも食いに行くか?」


だけど予想に反して日番谷くんは、はぐらかさなかった。私が怯むくらい真っ直ぐように視線を向けて、決して逃げようとしなかった。なんだからややこしい条件がたくさん付いているけれども、これは、明日のお誘いと思っていいんだよね?明日ご飯に行こう。それだけでいいのに、貴方にとってはその一言を言うのが大変なんだね。ふっふふ。私はね、貴方と別れるときは毎回、明日が待ち遠しくて仕方ないんだよ。だから「また明日ね」って笑顔で挨拶したかった。だけどそれは日番谷くんにとって出来ない約束に当たってしまうかもしれないでしょ。だから言えなかった。代わりに「さよなら」を使うの。だけどサヨナラって言うと本当に会えなくなっちゃうじゃないかって、心配になる。でももう使っても大丈夫だよね。








サヨナラするまで
「また明日」

日番谷くん私はずっと待ってたんだよ





*あとがき*
最近似たようなお話ばっかりだ。マンネリ化?休止する前に、お蔵入りしてた中途半端なやつの続きを書いてみたけれど、あんまり変わり映えせんな(笑)確か中3の頃に考えたはずだ。歴史教えてくれた先生が「信じてたのに!って言葉を友達に使うのはおかしい。友達ならば例え約束を破られたとしても、守れない理由があったと自分が納得するからだ。守れない可能性があることも承知で結ぶ、そういう部分全てを理解できるのが友達だ」みたいな事を言われたんですね。確か私がなんかテスト範囲の伝達をミスったんです。それで友達が酷いよ〜信じてたのに!(笑)って冗談で言ったところに介入されました。それ聞いたとき成る程なぁと。この理論でいくと藍染隊長の、僕を理解していなかっただけだ、発言も納得してしまうんだよね。


20110821