30000hit企画フリリク・遼季様へ





オレの幼馴染さんは、かんなりスゲー奴だ。超を何個つけても良いくらいの美形には、男子からも文句なしの眉目秀麗だし。運動のほうでも県の大会で活躍するくらいの実力。その上先生もお墨付きの賢さを兼ね揃えた好青年。

あぁなんで、冬獅郎はそんなに完璧なんだよ!?

唸ってしまうほどの完璧な男だ。親友の桃や勇音なんかも目をハートにして眺めやてやがる。オレだって冬獅郎までとはいかねーけど、そこそこモテるんだぞ。って言い返してやるんだがな。あ。もちろんオンナからな。男にモテたって何も嬉しくねぇし。つーか、逆にきもい。


「もう!咲夏ちゃん、足広げて座っちゃダメだって言ってるでしょ!?」
『めんどい』
「女の子なんだから、恥じらいを持たなきゃっ」


まぁた桃の説教が始まった。スカートの時は下穿いてても足閉じろとか、少しは化粧しろだとか。いちいち煩いんだよな。そういうのは女らしい桃たちがしておけば良い話で、オレとはからっきし無縁なことだ。

いつもと変わらず悪態をつくオレに、桃はこれまたいつも通りの呆れ顔。仕方ない。オレは昔っから男っぽい性格だし。変える必要はねぇし、変える気もねぇ。実は結構気に入ってんだよ、今の自分。

(とか――言いつつも)


「日番谷くんはきっと咲夏ちゃんに女の子らしくして欲しいと思ってるよ?」
『ううるせえ!桃!テメエなんか前から勘違いしてっだろ!?』


動揺を悟られないように、声を荒げる。平常心と深呼吸。桃にはこれ以上厄介なことを知られたくねぇ。ここは何が何でも死守しなければ!今後の死活問題に関わりかねない。

どくん、どくん、


「あ、来た来た!日番谷くん」


ニタリと微笑んで桃が冬獅郎に手を振った。くそ!こいつわざとやったな。覚えてろ。後で上手いパフェおごらせてやる。

めらめらと怒りの炎を燃やしていると、突然首筋に、びびびと何かが走った。冷った!敏速に手を使い、ブツを退ける。たどった先にはアイツの左手。とせせら笑いをする本人。


『とうしろおぉぉおぉ!テメエ喧嘩うってんのか!?あぁん?』
「オマエほんに色気のねぇ座り方」
『うっせ!冬獅郎には関係ねーことだ!てか全てオレの自由だ!』
「へいへい。そんな色気より男気のある渡嘉敷サンに差し入れ」
『え?マジ?』


ほいと投げられたのは、オレの大好物であるカルピスの缶。なんだ?気前いいなぁ冬獅郎のやつ。裏でもあんのか?ん……!?よく見りゃこの缶、凹んでる。て!これ、ウチの店のじゃん!
今朝仕入れた缶類の中に確かこれ、あったぞ。バカ親父が落として売りもんに出来なくなったやつがもしかしてこれか?

――にしてもなんでコイツが持ってんだ。しかも差し入れじゃねぇし。元々ウチのだし。


『おい、これウチの店のじゃねぇのかよ』
「さっすが!やっぱ分かるのか。今朝学校行く途中に寄ったらくれたんだよ、お前の親父さんが」
『はぁ!?何でオレにはくれなくて冬獅郎にはやるんだよ。意味わかんねぇ』


タブに思い切り力を入れて、缶を開けた。良い音が鳴ってちょっぴりオレのご機嫌も回復。パチンと両指も鳴るからさらに機嫌は右肩上がり。小せぇことでウジウジすんな。心は海のように広く、だ!特に細かいことまで気にする奴は心も体も未発達だ。見てみろ。冬獅郎のやつ。かろうじてオレより背は高いが、男ん中じゃ小っさい方だ。

(まぁちょっと。は……)

男らしくなったのかもしれねぇけど?
まっ!女たちにチヤホヤされてっとすぐに軟弱になるんじゃねぇのか、オレは心配してるがな。


「じゃ咲夏またな」
「ばいばーい日番谷くん」
「雛森さんもコイツのお守り大変だと思うが、頼むな」
『おい、聞き捨てならねぇぞシロ』


なんやかんや言いながらも、オレと冬獅郎は上手くやってる。性格が男っぽいオレにあいつは女扱いしねぇが、幼馴染としては結構大切にしてくれる。らしい。自覚はあるけれど、素直に認めるのは癪だ。

机に置いたカルピスに手を伸ばし、少量口へ含んだ。甘酸っぱさが口内へ広がっていく。この味が堪んねぇんだわ。超うめー!カルピス作った人天才。ユーアージーニャス!
ん?でも今朝親父に貰ったんなら、こんな冷えてるわけないよな。冬獅郎のやつ、部室の冷蔵庫にでも入れてのか?まぁどっちにしろオレはラッキー。けけけ。儲けもんだ。帰ったら親父に話してやろう。


「あぁあ!もう咲夏ちゃん!せっかく日番谷くんと話す機会だったのに」
『だったのに。って、桃だってバイバイって言ったじゃねぇか』
「仕方ないでしょ。あたしは只、同中出身てだけなんだもん。今はクラスも違うし。咲夏ちゃんくらいだよ。女の子で気軽に日番谷くんと喋れるの」
『ふーん。でも別に大したことねぇだろ』


たかがアイツと喋ったくらいで、何が変わるでもない。どっちかつーと、冬獅郎の異常なモテぶりオレは意味なく苛苛するだけだ。最近このイライラ度合いが高くなった。媚態を示して冬獅郎も近づく女も、それに気づかず対応するアイツも、むかつく。

(偶にだけどな)

機嫌の悪いときはうっとおしく思うが、普段はいい奴だ。という認識。桃はそれをどこで勘違いしたのか、オレが冬獅郎に惚れてると思い込んでやがる。


「それは、ずばり恋だよ!」


恋だとか、愛だとか。最近の女は好きだよなぁ。たかが高校生の恋愛なんて知れてるって。親父の受け売りだけど、間違っちゃあいないと思う。自分で飯食っていけるようになってからでじゃねぇと、結婚とか無理だろ。非現実的なこと考えるより、現実を見ろ!


「じゃあ日番谷くんが咲夏ちゃんとこの酒屋さん継げばいいじゃない」


しれっと発言した桃に、流石のオレも唖然とした。どうやったらこんな事を考えられる頭になるんだ?夏休みとかはバイトに来ることも何回かはあったけど、有り得ねぇだろ。こんなオトコ女と一緒になる?無理無理。アイツも嫌だろうけど、オレも嫌だ。頼まれてねぇけど、願い下げ。

なおも恋だ恋だと騒ぐ桃にオレは呆れて物が言えなかった。


だがっ!それから冬獅冬の名前を聞くたびに、心臓が異常に脈打つ。気持ち、体温が1℃上昇してる気がする。なんなんだよ。こいつは。これじゃあオレが冬獅郎のこと好きみたいじゃねぇか。バカ桃のやつが、変なこと言うからこんなことになったんだよ。くっそ。断じてない。絶対ない。オレがアイツに惚れてる?ないないないない。有り得ない!


「はぁ……咲夏ちゃんも黙っていれば可愛いのに」
『悪かったな、可愛くなくて!オレは生まれたときからずっとこの口調なんだよ』
「だって胸だって咲夏ちゃん以外と大きいじゃない!」
『なぁッ!??桃、テメェなにぬかして!』
「勇音ちゃんとまではいかないけど、少なくともあたしよりは大きいでしょ!」


勇音なんか、上半身の1/4はあのでけぇ胸だろ。そんな奴と比べるな。あと桃!お前が貧乳過ぎるんだよ。誰と比較したって桃の方が小さいに決まってる。

教室で胸の話とかすんなよな。ほら、エロい目で男共がこっち見てやがる。こうなると絶対矛先はオレなんだよなぁ。ああメンドイ。

(だから嫌だったんだよ)


「なぁなぁ雛森さん!まじで渡嘉敷って雛森さんより胸でかいの?」
『おいお前ら、桃にセクハラで訴えられてもしんねぇぞ』「じゃあ渡嘉敷に聞けばいいだろ?お前女だけど、ほとんど男だし」
「ちょっと杉原くん!それどういうこと!咲夏ちゃんは立派な女の子なんだから。失礼なこと言わないで!」


ふぅ……やっぱこうなったか。予想通りの展開に脱力感がハンパねぇ。真面目な桃は親友を悪く言われるのが我慢ならねーんだろうけど。オレにとっちゃあ勝手に言わせとけ、程度。

熱くなるなよ、桃。所詮男ってそんな程度だろ。自分でオトコ女って言うのと、他人に言われるのはかなり違うけどな。あぁ胸糞悪い。ギロリとそいつらに睨みを利かせる。これ以上、桃に要らねぇこと言うなよ。桃を泣かせたりでもしたら、容赦しない。


「お、おい!本気にするなって渡嘉敷。冗談に決まってんだろ?」
『分かったんなら、とっととどっか行け!あと桃泣かせたりしたら許さねーから』


オレの喧嘩口調にオロオロしている桃がようやく安堵の胸をなでおろした。悪かったな、桃。でもさすがに教室内で乱闘はねぇから。周りに多大な迷惑掛ける行為はオレ一応控えてるから。親父にも言われってし。

(実は、冬獅郎にも)

と。アイツの顔が浮かんだとき、ちょうど頭上からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。僅かだが息が乱れてる。


「咲夏!また、なんかやらかしたのかっ!?」
『は?』
「ファンの子達が血相変えて俺んとこ来たぞ。教室で咲ちゃん先輩が喧嘩してる!って」
『いや、別にしてねぇけど。なぁ桃?』
「日番谷くん!それ本当のことなの!あたしがね、咲夏ちゃんの……」


げ!!桃の奴何をぺらぺらと!どんどん話がややこしくなっていくじゃねぇかおい。全てを話し終えた桃にサンキューとお礼を言った冬獅郎は、まずオレの頭を叩いた。それから揉めた奴らのとこに、オレを引っ張っていく。ずるずると引きずられて行く体で、オレは必死に抵抗したが敵いそうになかった。こうなったら冬獅郎は頑固だ。

教室の隅で固まってる、杉原たちの名を呼んだ。てっきりオレに謝らせるのかと思ってたら。違うのか。拍子抜け。元々オレが悪いわけじゃねーからいいんだけど。


訝しげな目つきであいつ等はオレと冬獅郎を見比べた。そりゃそうだよな。超美男子にオトコ女のオレが並んでるんだし。不釣合い。場違い。これでも一応幼馴染なんですよね。驚くことに。まぁいい。その反応にはとうの昔に慣れちまった。

(オレに冬獅郎は勿体無いんだ)

嫌々連れてこられたオレは取りあえず、何も言わずに口を閉じておく。弁解ならいくらでも後で出来る。


「確かにな、咲夏は性格も男っぽいし、がさつだし、女とは思えないけどなぁ」

(おいおい。ここまで来て結局オレの悪口言うのかよ……)

「俺にとちゃあれっきとした女なんだ。今後一切、咲夏にちょっかい掛けんじゃねぇぞ」


きゃぁぁああ!日番谷先輩と咲ちゃん先輩って付き合ってたの!?女特有の甲高い声が鼓膜に響いた。うげ。オレ、この声苦手。とゆーかちょっと待て。冬獅郎いま何つった……?その発言可笑しくね?冬獅郎にとってオレは女?まさか。寝言は寝て言え。女扱いしたことないくせに。どの口がンな、でまかせを。しかも周りの奴ら、お前らもそんな簡単に冬獅郎の言葉を鵜呑みにするんじゃねぇ。正常な脳で考えりゃ一瞬で嘘だって分かるだろ。

冬獅郎の言葉を微塵も信じていないオレは動じない。ポカンと大口を開けて、間抜けな面してる杉原たちの顔を拝んでやった。ナイス!これ超ウケるわ。


「咲夏、さっき俺の言ったことマジだからな」
『んー?なにが?』


杉原たちの余韻に浸っているオレに冬獅郎は意味不明発言をしだした。マジってなにが?日番谷サン、ちやほやされ過ぎで少々頭イカレちまいましたか。

(冗談、だよな……)

目線の高さが違う冬獅郎の瞳。翡翠色。オレは子供んころから、この瞳に映されるとどこか吸い込まれそうな不思議な感覚が体に走る。あ――っ、ヤバイ。呑まれる。


両肩にアイツの手が触れた。やつの顔は明らかに正常でない赤色。この状況下でオレは事体を整理できず、どんどんその場のペースに流されていく。桃。隣で観戦してないで、この雰囲気を壊してくれ。


「だから、俺は咲夏に惚れてんだよ」






(……)(黙るなよ。なんか言え)(幼馴染)(としての好きじゃねぇから)



うわぁあ、なんかいきなり恥ずかしくなってきた。この冬獅郎の顔…冗談なんかじゃないよな。どうするんだ、オレ?冬獅郎のこと好きか?それとも嫌いか?嫌いじゃないけど――男として好きかって言われりゃあ、どうなんだ。ガキの頃からずっと一緒に、男友達のように育ってきて、それでもって、いきなり冬獅郎の背が伸びてから女にモテだして……それをオレはあんまり良い様に思ってなくて。でも好きかっていうと違う気がして。あぁ、もう!これじゃ堂々巡りしてるだけ。

(ここは取りあえず)


『悪い冬獅郎!すまねぇが保留ってことで!』


オレのファンの子達からはえぇー!と文句の声が上がったが、仕方ない。ちらりと横目でアイツと視線を合わせる。まぁ咲夏らしいか、とご納得の模様。残ったカルピスを飲み干したオレは空き缶をゴミ箱へほった。ガシャンといい音がして、すっぽり収まる。うん!今日も良い感じ。


「でもあんまり待たねぇから」


小さな呟きに、オレが微笑んだことを知っているのは、きっと――冬獅郎だけだ。


2009/04/02