今日は久しぶりに任務ではなく明確な用のないまま現世に降り立った。といっても、俺の場合これといった知り合いが現世にいるわけでもなく、他の死神たちのように買い物をする趣味もない。仕方なく少しばかり周辺をふらりと散策していたところ、これでは任務で徘徊しているのと同じだと気付いた。所在なくその場で佇んでいると、ここからある人物の家まではそう遠くないということが判明した。無意識のうちに来てしまっていたらしい。そもそも俺は目的がないと言ったにも関わらず、現世に向かおうと気になった、その時点で意識下のなかでは既に会うことを決めていたのだろう。結局は数年前に初めて会話を交わしたとある少女の元へと足を運ぶこととなった。
(お久しぶりですね)
またか……と、こいつの隣に立って思う。家にいるかと予想したのだがどうやら学校に、それも教室のベランダにいるようだった。制服を着て、髪を靡かせて、いつものように冷めた瞳で。ただ今日は……来る前に松本に無理やり手渡された服を来る前に着たためか、半年ぶりに会ったあいつは物珍しげな表情をしていた。初めて出会ったときのようで、懐かしい。
『残念でーした。わたしもう卒業しちゃったから授業ないの。というか実は此処にわたしの居場所はないのです』
「ん?あぁなんか大きなテストがあるとか言ってたっけか」
『大学受験ね。一応受かりましたよ、わたしの欠陥頭でも』
「最後の一言は要らないだろ。素直に喜べよ」
『いやだってねぇー受験なんて一発勝負でしょ。わたし頭悪いけど、昔から運は良かったみたいですからね。まぐれです』
淡々と当たり前のように告げる。年相応の言動とはかけ離れていた。しかし、俺は嫌いではなかった。そうやって自分を含む何事をも客観視して、多角的な見方が出来る。それをこいつは短所だと思い込んでいるようだったが、捉え方によっては充分長所に成りうると思う。でないとあの日、前例にない現象で戸惑う俺を前にしても冷静に対応するなんて芸等、不可能だろうから。