花音様から・フリー小説






「毎日必ず好きって言って!」

「毎日必ず電話して!」

「毎日必ず私に会いに来て!」

「あと……」

「…まだなんかあんのか」


「絶対…私を嫌いにならないで」


「………」





数えきれない、「愛してる」







今日は雪も降らず、過ごしやすい気温だ

…なかなか良い天気だ

昼寝でもしてえな

……いや、それはしばらく後になりそうだ

もう、あいつが来る頃だ



「とうしろー!」

「おう」


あいつ…咲夏が
手をふりながらこっちに走ってきた


「おうって何よ、冷たい」

「いつもと同じだろ」

「…ねえ、それで本当に私の事好き?」

「ああ」


軽く流すと、咲夏はたちまち
不機嫌な顔になった


「ねえ!聞いてるでしょ?!」

「あー、はいはい、好きです」

「…………本当に?」
「当たり前だろ、ほら行くぞ」


そう言って咲夏の手に指を絡めると、咲夏は嬉しそうに笑う


「冬獅郎、私も大好き」

「…ああ」


いつもこのやり取りはめんどくせえけど、そんな毎日が実は楽しかったりする



咲夏は俗に言うと
かなり"重い"

約束の時間に遅れようものなら
もうその日の機嫌は最悪
そのくせ自分は平気で遅れる

メールを放置しようものなら
30分後には着信履歴が大変な事になっている

"好き"を言わないものなら
キレるか、なりふり構わず大泣きする


他にもたくさんあるが
思い出したらキリがない


とにかく、それくらい厄介なやつだ


「冬獅郎?」

「あ?」

「何考えてたの?」


それに俺の少しの変化も見逃さない


「…特になにも」

「言わないと怒るよ」


これもいつものパターン


「お前と付き合った時の事だ」

「…お前って言った」

「…………咲夏と付き合った時の事」

「ふーん」


"お前"と言うと必ず訂正しなければならない


「後悔してる?」

「…は?」

「私と付き合った事、後悔してる?」

「………そんなわけねえだろ」

「…………………うん…」


咲夏が俺の手を強く握った

それから咲夏の家の前に着くまで
一言も話す事はなかった



「じゃあ、また明日ね」

「ああ、じゃあな」


咲夏が家の中に入っていったのを確認して
俺も帰ろうとした瞬間、


「待って!!」


振り返った時には
既に咲夏の顔が目の前にあった

咲夏が俺にキスをした事がわかった


「どうしたんだよ」

「…冬獅郎、……ううん、なんでもない、ばいばい」

「……」


ばいばいと言っておきながらも、咲夏は俺の裾を握ったままだった


「はあ……、咲夏」

「…なに?」

「愛してる」

「ほんと?」

「わざわざこんな嘘言うかよ、馬鹿」


そう言うと、咲夏はたちまち笑顔になった


「………うん、ありがと」

「咲夏さ…、生理近いだろ」

「へっ?!?!」

「生理近くなると、咲夏はいつにも増して心配性になる」

「違うもん!馬鹿!!」

「ま、残念ながら一週間ばかりおあずけって事だな」

「〜っ、もう!早く帰って!!」

「そんなに元気なら、もう余計な心配なんてしねえだろ」


"今晩メールする"と付け加えて
咲夏の家を後にした





「……生理は終わったばっかりだよ…」






後ろから咲夏の声が聞こえた気がしたが
気のせいだと思い、振り向かずにそのまま咲夏の家を後にした