…初めて言われた

咲夏の口から
"大嫌い"という言葉を

今まで何回も咲夏を怒らせてきたが

そんな事は一度も言われた事がなかった


胸がずきんと痛んだ




駅の改札に着くと
周りに人は誰もいなかったが
隅の方のベンチに座っている人影を見つけた




「…また転んだのか」


咲夏のコートには不自然に雪がついていた
それを見た俺は、すぐ咲夏が転んだ事がわかった


「……………」

「あんな雪道走るからだろ」

「………………」


咲夏は
ずっと黙り込んだまま、顔も上げなかった


「はあ………咲夏…「ずっと気づいてた」

「……何をだ」

「本当は、ずっと気づいてた
冬獅郎がここ最近ずっと私に嘘ついてるの」

「……………」

「…でも、知らないふりしてた」


咲夏が気づいていたなんて
思いもしなかった

…だから、咲夏はこの前
後悔してるかなんて事を聞いたのか


「私、重いって言われてるけど
冬獅郎だけは信じれたから、冬獅郎だけは…」

「…………」

「なのに…ひどいよ…」

「……悪かった」

「悪かったってなにが?嘘ついてごめんなさいって事?女の人と会っててごめんなさいって事?……浮気しててごめんなさいって事?」

「あれは誤解だ」


俺がそう言った時
咲夏は初めて顔をあげた


「そんなの信じられるわけないよ!!」


咲夏の声が駅に響いた


「…生理なんかも来てない…っ!」


咲夏の目には涙が溜まっていた


「咲夏…」


咲夏に触れようとした瞬間

咲夏は俺の手を振り払った


「触んないで、…もういいから」

「何言ってんだよ…」

「それはこっちのセリフだよ、意味わかんない、早く戻ってよ」

「…とりあえず話聞け」


電車が着いたらしく
改札にはどんどん人が流れていた
咲夏はそれでも座ったまま
動こうとはしなかった


「何を聞くことがあるの?」

「だから、さっきのは…「その話は聞きたくない」

「咲夏…」

「どうせ別れたいって言うんでしょ?だったら聞きたくない」

「そんなわけねえだろ…」

「そういうことでしょ?もう慣れてるからいいよ、気使わなくて
………いつもこんな感じでフラれてるし」


そう咲夏が言った瞬間、抱きしめられずにはいられなかった


「誰が別れるなんて言った、俺は咲夏と別れようと思ったことなんて一度もねえ
…付き合うときに言った言葉、覚えてるか?」

「…"お前の全てが好きだ"でしょ?」

「そうだ、…それは今も変わってねえよ
咲夏の泣いてる顔も、怒ってる顔も、笑ってる顔も全部好きだ
咲夏の嫉妬も我が儘だって好きだ
それじゃあまだ信じられねえか?」


俺がそう言うと
咲夏は俺の首に腕を回した

「…冬獅郎に嫌われたと思ってた」

「………バカ
咲夏が不安がると思って、言わなかった。ごめんな」

「もう嘘はつかないで」

「…わかった」


俺がそういうと咲夏は


「これで仲直りにしてあげる」


笑ってそう言った


「…咲夏、道にばらまいた物拾っていかなかったから
予備校も行けなかったろ」

「………あのね、冬獅郎…、えっと…」


……咲夏がこう言い出すときは
とんでもないことを言うときだ
俺はかなり嫌な予感がした


「…なんだ」

「……怒らない?」

「……………ああ」

「定期と財布落としちゃったみたいで、電車乗れないの。…一緒に探して?」

「…………………」


その日は一日中
咲夏の財布と定期探しだった

しかし、その間
繋いだ手が離れる事はなかった


そして日が沈んできた頃

「…………あ」

「今度はなんだよ」

「………制服のポケットに入ってた」

「………………」

「…ごめん」




きっとこの先も
俺はこいつに振り回されていくんだと感じた


でも、そんな咲夏を
これからも愛しいと思うんだろう




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花音ちゃん、素敵な小説頂きます!こういうヒロインちゃんあたしも書いてみたいけど、無理なんだろうなぁ;とか思いつつ←
読んでからビビビってきたので思わず、貰っちゃいました。困ってる日番谷くんも魅力的///(←変態)


2010/03/11