次の日
案の定バスが遅れた

そのせいで咲夏との待ち合わせの時間にも遅れてしまった


バスが遅れている時点で
何回も『先に行っててくれ』と
メールを送ったのにも関わらず
返信は返って来なかった


…よっぽど昨日の事、怒ってるんだな

しかもいつもの時間に遅刻。
バスが遅れたなんて言い訳、咲夏にはきくはずもない


どうやって咲夏の機嫌を直そうか考えていると

遠くに人影が見えた



「咲夏っ!!」

「…とうしろ」


それが咲夏だと分かり
走って近寄ると、頬を真っ赤にしながら俺に抱き着いた


「先に行ってろって言っただろ、……寒かったろ」


そう言っても
咲夏は首を大きく横に振るばかりだった


「咲夏…、昨日は…「ごめんね」

「は?」


咲夏から謝る事なんて
今まで一度たりともなかった
だからおもいっきり拍子抜けしてしまった


「冬獅郎…、私の事嫌いにならないで」

「…何言ってんだよ」

「冬獅郎に、嫌われたと思った…」

「咲夏……、…ばか」


咲夏の頬を触ると、
思ったよりもずっと冷たかった


「…冷てえな」

「そんなことより……怒ってる?」

「んなわけねえだろ…、だから泣くな」

「…私の事、好き?」

「ああ、好きだ」


そういうと、いつものように
咲夏の涙はぴたっと止まった


「よかった…」


咲夏は下を向きながら、笑った
俺はそんな咲夏の安堵感に満ちた表情が1番綺麗に見える


「これから、どこ行くか」

「え??」


俺を映す大きな目がまだ、赤くなっていた


「そんな顔じゃ、学校行けねえだろ?どちみち遅刻だ、どっか寄ってこうぜ」

「うんっ!」


咲夏の頭に乗っていた
雪をほろって、顔を見合わせる

俺の口元が自然と緩んだ


咲夏は俺の手を握って走り出した



「おい、走んなよ」

「寒いもん!誰かさんのせいでね」

「…………はいはい」



……いつもの咲夏に戻った

まあ…安心というところか



近くの大型ショッピングセンターに着くと
目的はないが、咲夏とぶらぶらした

咲夏とこういう風に過ごすのも
実はけっこう好きだったりする



咲夏の顔も最初に見た時より
明らかに"泣いた"って感じの顔でも
なくなってきたので、そろそろ学校に行こうとした時

俺の携帯が鳴った
見たことがない番号からで、出るのを躊躇ったが
とりあえず出てみると、病院からだった

雛森が倒れたらしい


「……はい、わかりました。すぐ行きます」


電話を切り、ちらっと咲夏を見ると
俺の顔をじっと見ていた


「………咲夏…、悪…「やだ」

「頼む、…先に行っててくれ」

「…やだ、冬獅郎と一緒じゃなきゃ行かない」

「咲夏……、急いでるんだ」

「病院に行くんでしょ?誰のために?」


答えに困った
雛森だと言えば、絶対行かせてくれない


「……親戚」

「親戚って?」

「親戚は親戚だろ」

「いとこ、とかおばさんとかあるでしょ?」

「なんでそこまで言わなきゃならねえんだよ」

「…そんなに焦ってるなら、大事な人なんでしょ?誰?」

「咲夏…行かせてくれ」

「私よりも大事な人なんでしょ?!誰?!言ってくれなきゃ安心出来ない!」


咲夏の目にはまた涙が溜まっていた


「…親戚は親戚だって言ってんだろ、いい加減にしてくれ」

「やだ!行かないで!冬獅郎が学校行かないなら私も行かない!」

「咲夏…」

「やだあ…、行かないで…、とうしろ…、一人にしないで…」

「咲夏、悪いが今回は我が儘に付き合ってられねえ」

「じゃあ私も連れてって…」

「なんでそうなるんだよ…」


咲夏は大泣きしながら俺の腕を掴み、地べたに座り込んで動こうとしない


「………連れてってくれないなら、ここから動かない」

「…もう、好きにしろ」

「冬獅郎!…やだよ、行っちゃやだ」


一刻でも早く雛森の元へ行きたかった

それが出来ない事が俺をイラつかせた


「…すぐ帰る」

「だめ、やだ…」

「咲夏、いい加減にしろよ」

「私の事好きじゃないの?」

「はあ………、………」


咲夏が掴んでいる腕を払い
その場を後にした

一度でも振り向くと
咲夏の元に戻っていってしまうような気がして
振り向く事は決してなかった