シンパシー | ナノ

ONE

京治に出会ったのは大学1年の夏だった。その日、私はバイト先で知り合った雀田かおりさんに誘われてバーベキューに参加した。かおりさんの出身校の梟谷学園OBや、交流のある他校が幅広く呼ばれているらしいが、かおりさんしか知り合いが居ない私が浮くことは無かった。大学生が多いからなのか、幹事がいる訳でもないその空間は適当に好きな物を持ち寄って網に乗せて焼く人がいたり、同時進行で片付けをする人がいたり。とにかく自由。それぞれ好きなことをしているだけだから、誰の負担も生じない。私に至っては、自分が何をせずとも場が回る。美味しい物もお皿に盛られていく。ソフトドリンクとはいえ飲み放題。一言で表現すると、まあ快適。

網奉行の子がよそってくれた肉と野菜を頬張りながら、クラフトビールを飲むかおりさんとまったり過ごす。ふと、私はとある人を視界に入れる。先程バーベキューに合流した男子だ。飲み物を取りに行く際にすれ違った。高めの身長で、癖毛風の黒髪と涼し気な目元。黒いジップパーカーとインディゴのストレートジーンズを着こなす彼。これといった特徴は、ないと言えばない。強いて言うなら、佇まいが私の好みである。無駄にヘラヘラしてなくて、かと言って無愛想なわけではなく気遣いはできる。言いたいことはっきり言いそう。

うん、どタイプだわ。恋に一直線な女じゃないけれど、私は今フリーだからそれなりに彼のことが気になっている。最後に彼氏居たの高2だしね。せっかく大学生になったわけだし、タイプの人を見つけたら顔見知りくらいにはなりたいよね。

「かおりさん、あの人誰だか分かりますか?」
「どれ?……ああ、赤葦ね。高校の部活の後輩。蒼とタメだよ」
「知り合いなんですね。かおりさんバレー部のマネージャーでしたっけ」
「そうそう。赤葦はセッターやってたよ。なになに蒼、赤葦のこと気になる?」
「んー。まあちょっと好みだなって…」
「おーい!赤葦ちょっとー!」
「ヒイッかおりさん?!」

たったこれだけの会話だというのに、かおりさんは大声で彼を呼んだ。彼女は普段はしっかり者で親切な頼れる先輩だけど、アルコールが入ると途端に向こう見ずになる。しまった、まだ1杯目だと思って油断した。彼女は結構酔っているらしい。よくよく話を聞くとこれでもう3杯目とのこと。いつの間に?!先程の彼が私達の元へ近付いてくる。顔の詳細が認識できる距離まで近づくと、思わずじっくり観察してしまう。だいぶ顔が好みだった。うーん、緊張してきた。

「雀田先輩ちわす。なんすか」
「赤葦1ヶ月振り〜。元気してた?」
「まあ、普通ですね」

バイト先でも思っていたけど、かおりさんは喋りが上手い。酔っていても会話は自然と流れを作る。しかし、所詮酔っ払いに変わりはない。かおりさんは矢継ぎ早に、彼へ私のことを雑に紹介した。

「この子ね、私のバイト先の後輩なんだ〜あんたと同い年」
「はあ。どうも」
「こ、こんにちは。倉嶋蒼です」
「赤葦京治です」

赤葦京治。なんかめちゃくちゃ頭良さそうな名前じゃない?いや気のせいか。気にし過ぎなのか。なんかテンパってきた。余計なこと喋って変な子だと思われたくないな。でも、会話もせず沈黙してつまらない子だと思われるのも嫌だ。一体どうすれば。

「赤葦くーん」

「……すんません、呼ばれたので戻ります」
「ああ、どうぞどうぞ」
「まったね〜」

結局、赤葦くんとまともに話せないままファーストインプレッションが過ぎ去ってしまった。なんて情けない。大学生にもなって奥手かよ。そんなの私の柄じゃないのに。好きになったらいつも押せ押せなのに。分かりやすく肩を落とすと、酔っ払いのかおりさんが絡みついてきた。

「蒼〜、赤葦ってモテんの。ライバル多いぞ〜?」
「でしょうね……」

そりゃそうだろうよ。ちょっと話しただけで分かる。大人っぽくて対応がスマートで、そこそこ愛嬌もあって、何よりかっこいい。男女関係なく親切っぽいし。こりゃ望み薄だな。かおりさんがビールもう一杯と言うので、私が取ってきますと言って席を立つ。あーあ、バーベキューやってるうちに偶然もう一回出会えないかな。赤葦くん。今日これで終わりだったら完全に終了だよ。何も始まらなかった一目惚れ的な。残念……

「ひゃ、」
「あーっ?!!ごめん倉嶋ちゃん!!」

突然、肩ほどの高さから何やら冷たい液体を全身に浴びた。目の前でごめんと言っているのは、誰だったっけ。名前覚えてくれてるのに私は覚えてない。申し訳ない。でも思い出せん。慌てながら謝る目の前の男の人は両手にそれぞれ大きなピッチャーを持っていた。なるほどあの中身が私にかかったのか。フラフラ歩いていた私も悪いな。

「まじで申し訳ない!今タオルとか持ってくるから!」
「いやいや、私も周りよく見てなかった。ごめん。これビール?」
「いやっ水だよ…!でもマジでごめん!!」
「水かあ。平気平気。暑いしすぐ乾くよ」

びしょびしょになりながら私は笑って申し訳なさそうにする男の人をフォローした。そんなに申し訳ないと思っているのか、彼はいつまでも慌てふためいている。気にしなくていいよ、と言いかけたところで、私の体はガクンと後方に引かれた。

「……っわ?!」

またしても私の体は何かによって動揺させられる。突然誰かに背後から腕を掴まれたのだ。振り向くと、そこにはさっき挨拶をした彼がいた。
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