「なまえちゃん!」
「なまえ姉!」
黒崎家に行くと遊子と夏梨が出迎えてくれた。
「遊子、一護は?」
「お部屋だよ」
「ありがと」
「なまえ姉!お昼は食べていくでしょ?」
「うん。今日は私が作るよ」
「やりっ!」
「夕飯はみんなでうちにおいで」
戻ってきたお父さんや桐生さんの事情を2人は知らない。一心さんは桐生さんを知っている…のかもしれない。彼を見た一心さんの表情が一瞬だけ険しくなったから。
2人と少し話をしてから一護の部屋に向かう。コンコンとノックすると小さい返事が聞こえた。
「お邪魔します」
「あぁ、なまえか」
「よっ!」
ベッドに横になっている一護の近くにはコンがいて、恐らくどこかで拾ってきたお姉さんが載ってる雑誌を見ていた。
「ルキアは?」
「出掛けてる。たぶん浦原さんとこ」
行き違い、か。
まぁいいや、と私は床に座り込む。
あの日以来、私達はなんだか奇妙な関係になってしまった。友達以上恋人未満という言葉が当てはまるかもしれない。
いや、それは前からか。
「一護」
「あー?」
「色々とありがとう」
「……なにがだよ」
「だから、色々とだよ」
一護は訳が分からないといったように首を捻る。
「お父さんの事とか、桐生さんの事とか。それに一護の後押しがなかったら友達だって出来なかったもの」
「…それは自分で頑張ったからだろ?俺じゃねーよ」
「ううん、一護のおかげ」
彼はゆっくりと身体を起こし、私をじっと見ている。
「本当にありがとう」
「いや、別に…」
面と向かってのお礼が恥ずかしいのか、一護はほんのり顔を赤くして頬を掻いている。
「……おい、ぬいぐるみ。ちょっと付き合え」
「誰がぬいぐるみだっ!!…って、持ち上げるな!!!」
狼焔は急に立ち上がったかと思うとコンの足を人差し指と親指でつまみ上げた。
「すぐ戻る」
「うわーん!特盛お姉さんがぁぁぁ!!!」
窓を開け、彼らはどこかに消えてしまった。心なしか遠くでコンが泣き叫んでるような。
「……どうしたんだ?」
「……さぁ?」
突然の狼焔の行動に、私達は首を捻った。
「…とにかく、これからもこんな私ですが、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。すると頭に暖かいものが置かれた。
「んなの、当たり前だろ」
ゆっくりと撫でられる感覚。あぁ、一護の手だったんだと理解したと同時に熱が集まってくる。
「やっぱり好きだなぁ」
ピタリと一護の手が止まる。そして私もはっと口元に手を当てた。
え、今なんて言った!!?
恐る恐る一護の顔を覗き込む。彼はさっきよりも顔を真っ赤にさせてフリーズしていた。
「…………っ!」
私は勢いよく立ち上がり、ぎゅっと拳を握った。
「し、下に行ってくる!!!」
右手と右足が一緒に出ても気にする余裕なんてない。私はドアに向かって歩き出した。だが一護に手を掴まれ、それ以上進む事は叶わなかった。
「言い逃げすんな」
そう言った一護の顔はほんのり赤いけど真剣で、私は彼から目をそらす事が出来なかった。
「……俺、お前の事が」
ごくり、と唾を飲み込む音がやたらと響いた。
「す…」
「「「「「わぁぁっ!!!」」」」」
複数の声が聞こえ、私達はびくりと反応した。見ると私の足元に、遊子と夏梨を初め、ルキアや織姫、チャドや雨竜くんやその他諸々が伏していた。
「な、なんでお前らがここに!!?」
「狼焔が、今一護の家に行けば面白いものが見れるって教えてくれてな」
「「………はっ?」」
じゃあさっき出ていったのって、みんなを呼ぶ事!!?
「ささっ、あっしらの事は気にしないで続きをどうぞどうぞ」
ひらひらと扇子を扇いでいる喜助さんや、楽しそうにしているみんなに頭が痛くなってきた。
「一護…」
「あぁ…」
私達は揃って深く息を吐いたのだった。
きみがいてくれたから今の私がいる。
きみのこえが私を導いてくれたんだ。
大好きな一護。大好きなみんな。
これからもよろしくね。
END
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