「なまえちゃんだ!!!」


街中を歩いていると、後ろから大声で名前を呼ばれた。振り返って確認するとやっぱりジローで。彼は腕を引き千切れんばかりに振りながら此方に駆けてきた。


「わっ、と」


ボフッという効果音が付く勢いで抱き付かれる。私は後ろに倒れないように足に力を入れた。


「何でジローが空座町にいるの?」


「みんなで自主練しようと思って!で、ついでになまえちゃんちに行ってドッキリを敢行しようと!」


「ふふっ、何それ」


抱き付いたまま離れないジローの頭を優しく撫でてやる。すると彼は嬉しそうに『へへっ』と笑った。


「おーい、俺らがいる事忘れてへんかー?」


侑士の声に私達は『あっ』と声を揃える。それを聞いた彼らは笑った。


「ほんま、自分らお互いの事大好きやな」


「そう言ったってなまえちゃんは渡さないからね!!!」


「いやいや、そういう流れやないやん」


相変わらず天然なジローに笑みが零れる。


「なまえ先輩は何してるんですか?」


「んー、お散歩みたいなものかな。ね、狼焔」


「…………」


同意を求めようと狼焔を見たのだが、彼は眉根を寄せてジローを見ていた。


「狼焔…?」


「…なまえは俺のだ!」


「何よその対抗心」


ジローとは反対に後ろから抱き付かれ、私は苦笑するしかなかった。すると私達の隣に黒塗りの高級車が止まった。何事かと思っていると窓が開けられ、そこには景吾がいた。


さすが、金持ちは違いますね。


「お前ら、こんな所で何やってる?あーん?」


「ジローがなまえに抱き付いてる」


正しい亮の言葉にみんなが頷く。ただ景吾だけが眉間にシワを寄せた。


「時間の無駄だろーが」


「無駄じゃないCー!!!俺の充電方法なの!」


「はぁ…いいから行くぞ。練習時間が減る」


だけどジローは私から離れようとしない。


「なまえちゃんも一緒に行こうよ」


私は頭を撫でながら口を開いた。


「ごめんね、これから用事があるの」


「むー…」


渋々といった様子で彼は離れた。しかしほっぺたは膨らませたままだ。


「みんなもごめん。マネージャーなのに自主練に行けなくて」


「気にするな。自主練は仕事の範囲外なんだからな」


それでも申し訳ない。特にジローには。


「お前ら乗れ。このままだと始まるのが遅くなる」


「やりっ!」


岳人は嬉しそうに跳び跳ねて真っ先に車に乗り込んだ。それに続いてみんなも車に乗る。ジロー以外。


「なまえちゃん!」


「なに?」


「俺、なまえちゃんが大好きだよ!初めは怖いと思ったけど今はそんな事ない!優しくて可愛くて、俺の大切な友達だからっ」


「ジロー…」


彼の言葉に胸が暖かくなる。


「だから、跡部がなまえちゃんに意地悪してきても、忍足が変な事してきても、俺がなまえちゃんを護るから!絶対絶対護るから!!!」


「………うん」


私はこんなにも素敵な友達がいる。それがすごく嬉しくて嬉しくて。つい泣きそうになった。


「私もジローが、みんなが大好きだよ」


「えへへっ。じゃあまた明日ね!」


「うん。ばいばい」


ジローは恥ずかしそうにして車に乗り込んだ。そして静かに発進し、その姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。





「偉いでジロー。よう泣かんかったな」


「………っ、うん」


隣に座っている忍足に背中を叩かれる。


「なまえちゃんには、好きな人がいるから」


「おん」


「だから俺は、友達でいいんだ」


初めて人を好きになった。でも彼女には1番がいる。どう頑張ったって俺が1番になれる事はないんだと知ってるから。


「友達としてだったら、隣にいてもいいよね」


「もちろんや」


大好きななまえちゃん。それはこれからも変わらない。


君が幸せになってくれるなら俺はそれでいいんだ。


友達になってくれてありがとう。


俺は目を閉じて眠ったフリをした。





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