「そして私は黒崎クリニックで目を覚まし、記憶を無くしていた」


話し終わると、静寂が辺りを包み込んだ。誰も口を開こうとしない。


「…お父さんがどうなったか、正直なところ分からない。生死さえ。それについて狼焔は話してくれないから」


「すまない…忠弘との最後の約束なんだ」


「うん、分かってる」


別に狼焔を責めてるわけじゃない。誰にだって話せない事はあるんだから。


そして私はお母さんに向かい合い、頭を下げた。


「ごめんなさい。私のせいで大切な人を奪ってしまって…」


お父さんは出ていったのだと思ってた。私とお母さんを見捨てて。だからお母さんは大変な思いをして女手一つで育ててくれてるのだと。


実際は違った。私がお父さんを奪ったからお母さんは大変な思いをしてるんだ。


私のせいで…。


「何言ってるの」


優しい声が胸に染み入った。顔を上げると微笑んでいるお母さんと目が合った。


「なまえ、私はね知っていたの。あの日起こった事全て」


「え…?」


「狼焔が話してくれた」


ちらっと狼焔を見ると何だか苦しそうにしていた。


「私はなまえを責めるつもりなんてない。お父さんはね、命を懸けてなまえを護ったんだよ」


「お母さん…」


零れそうな涙を、お母さんは拭き取ってくれる。


「…さぁなまえ、いつまでも暗い顔をしてないでこれからの事を考えましょう」


「そうじゃ。あやつはまたなまえを狙ってくるだろう。その対策を練らんとな」


そう、桐生さんは必ずやってくる。


私を狙って。


「でもなんで、アイツは彼女を狙ってるんだろう」


ぽつりと石田くんが呟く。みんなの視線が彼に集まった。


「世界を手に入れたいなんてそんなあからさまな…」


「確かに単純すぎるよねー。いかにもマンガに出てくる悪者って感じ」


織姫はうーんと考える。


言われてみればそうかもしれない。私を使って世界を手に入れたいなんて単純すぎる。


「本当はもっと違う理由があるのかも…」


「んなの関係ないだろ」


低く唸るような一護の声に、私は視線をずらした。彼は拳を震わせている。それは明らかに怒りを顕にしていた。


「なまえを使って世界を手に入れたいとか、ふざけんじゃねー!!!なまえはモノじゃねーんだ!!!」


「一護…」


「俺はアイツが許せねぇ!なまえの家族をバラバラにして幸せを奪ったんだ。また襲ってきたらぶっ倒してやる!」


こんな事思うのは不謹慎だけど、すごくすごく嬉しい。私の為に怒ってくれる一護が。


「私も!なまえちゃんを護るよ!」


「織姫…」


「仕方ない、手を貸すよ」


「石田くん…」


「なまえは心配しなくていい」


「チャド…」


零れそうになる涙を拭って、私は精一杯笑った。すると、隣にいた狼焔に頭を撫でられた。



END



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