「何をしてるんです!薙ぎ払いなさい!!!」
「…もう、貴方の好きにはさせません」
突如、お父さんの懐が白く光った。暖かくて心地いい光に視線が奪われる。
それが懐から飛び出したかと思うと、私の前をふよふよと浮いた。そしてゆっくりと中に入ってくる。
「霊封珠は、なまえの霊圧を封じ込めます。一度封じた霊圧は本人の意志でしか戻る事はありません」
「…貴様」
全てが中に入った瞬間、何かが吸い取られる感覚がした。それはきっとお父さん達が言ってる“霊圧”だろう。
長い様で短い時間、私の中にあった霊封珠は勢い良く飛び出した。さっきまでとは違い、紅く光っている。
霊圧が無くなった私から斬魄刀は消え、お父さんと共に下りてそこにいるもう1人の私へ戻った。それでもお父さんや桐生さんの姿ははっきりと見えていた。
「チッ、これではなまえを操れない」
「残念でしたね」
「…なぜ早くやらなかったんですか」
「これは、近くにいて尚且つ触れていないといけない」
「それであの時…」
お父さんは両手を広げてわざと斬られたんだ。
「これで、貴方に思う存分攻撃ができる」
「くっ」
顔を歪めて悔しそうにする桐生さんを見つめながら、お父さんは悲しそうに微笑んだ。
「縛道の六十三、鎖条鎖縛」
「しまっ…!」
お父さんが何か叫ぶと、太い鎖が蛇のように桐生さんに巻き付いて身体の自由を奪った。
「貴方はとても優秀な部下でした。それなのになぜ…」
「……っ、言う必要はありません」
「そうですか…」
残念そうに呟いたお父さんは、片手を桐生さんに向かって構える。そして口を開いた。
「破道の七十三、双蓮蒼火墜」
今度は爆炎が桐生さんを襲う。彼を炎が覆って焼き尽くす。
「やり、ましたか…」
彼がいた所は焦げ付いている。倒したのだろうか。
「ざーんねん、僕はここにいますよ」
どこからともなく桐生さんの声が聞こえてくる。周囲を見渡すがその姿を捕える事は出来なかった。
「貴方が衰弱してるおかげでなんとか抜け出せました。しかしダメージは大きいです。ここは一先ず退散しましょう」
「どこです!姿を現しなさい!」
「そうすれば貴方は私を消すでしょう?」
「当たり前ですっ」
「それは困るんですよ。あぁそうだなまえ。また遊びましょうね。今度は永遠に…」
高らかな笑いが響く。暫くして笑い声が止み、静かな空座町へ戻った。
どさっ
「お父さん…!」
倒れたお父さんを揺り動かす。血の気のない真っ青な顔で私に微笑む。
「なまえ…」
「ごめんなさいっ、お父さんごめんなさい!」
「あや、まらないで…狼焔」
お父さんの弱々しい声に狼焔が現れる。
「なまえの、記憶を封印できますね…?」
「…やってみる」
「頼みましたよ」
静かに頷いた狼焔に、お父さんは微笑んだ。
何をされるか分からなかったが、お父さんともう会えなくなるというのは理解していた。
そっと、頬に手が添えられる。
「この事は、忘れるんですよ。貴女は、何もしていない」
不意に視界がぐにゃりと歪んだ。大好きなお父さんの顔が分からなくなるほど。
「お父さ…っ」
「なまえ…」
それが、私が聞いた最後の言葉だった。
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