青空と白い雲




「うーん、まさかこの年で迷子になるとは」

江古田高校の修学旅行でやってきた京都府。2日目の今日は班に別れての自由行動だ。快斗とは残念ながら同じ班になれなかったが青子と同じなので嬉しい。

他の友達と合わせて私達は5人の班だ。みんなで次の目的地に向かってる最中、可愛い雑貨が目に飛び込んでつい足を止めてしまった。家族や佐伯へ何を買っていこうか夢中になって考えていると、いつの間にか青子達がいなくなっていて。慌てて追いかけたのだけどどうやら道を間違えたらしく、よく分からない通りに出てしまった。

「携帯もホテルだしなぁ」

充電したまま忘れてきてしまった。なんてタイミングが悪いのだろう。

「まぁいいや。いざとなったらタクシーでホテルに戻ればいいし」

青子達には後で謝っておけば平気だろう。

とりあえず歩き疲れた私はどこかに座りたくてぐるりと辺りを見渡した。すると少し先に茶屋があって、そこで休憩する事に決めた。

「ん?」

ゆっくりと歩みを進めていると、その途中にある雑貨屋さんが目に入った。どうせならお土産も買ってしまおう、と中に入って商品を見て回る。

「何かお探しですか?」

奥から聞こえた声にそちらを見ると、物腰柔らかそうに笑みを浮かべているおばあさんがいた。

「家族へのお土産を」

「そうですか」

おばあさんはにこにこと私を見ている。その視線を受けながらもう一度店内を見渡した。

「このかんざし…」

並んである1本のかんざしを手に取る。決して派手ではないが質素でもない。そんな赤いかんざしはお母さんに合うかもしれない。

「これはお父さんかな。こっちは佐伯にあげよう」

それぞれのお土産を手にして視線を横にずらした。そこには小さなガラス玉で出来たブレスレットがいくつも並んでいる。

「それは魔除けです」

「魔除け?」

「はい。どんな災厄からも護ってくれはるんですよ」

「災厄…」

過ったのは、キッドとしての快斗だ。気休めかもしれないし、そもそも普段と同じものを付けるなんて正体をさらけ出してるのと一緒だ。でも私は自然とそれを手に取っていた。

「これも下さい」

「はい」

お会計を済ませ、おばあさんにお礼を言って先ほど見つけた茶屋にやって来た。お抹茶と生八ツ橋を頼んで、外の赤い椅子に座って頂く事にした。

「快斗、今頃どこら辺にいるのかな」

ふぅ、と息を吐いて空を見上げ、そこに浮かぶ白い雲が流れていく様を見つめた。

「なまえっ!!!」

私を呼ぶ声に反射的にそちらを向いた。

「快斗!!?」

なぜかそこにいる快斗は肩で息をしている。彼の頬を流れる大粒の汗が地面に染みを作った。

「え!!?何で快斗がいるの!!?」

「青子から、なまえがいなくなったって連絡貰って…」

「さ、探してくれたの!!?」

「当たり前だろっ!!!」

はぁはぁ、と息を整えてからゆっくりと私に近付いて手を伸ばした。

ふわり、と強く抱き締められる。

「…心配させるな、バカ」

「…ごめん」

快斗は頭を私の肩に預ける。そんな彼に私は腕を回した。

「あ、そうだ。ちょうどいいから今渡すね」

「…お前の変わりようには敬服するよ」

快斗から身体を離して先程おばあさんに包んでもらった袋を渡す。

「なんだ?」

「魔除けのブレスレット。災厄から護ってくれるんだって。あっ、ちなみにこの場合の災厄というのは警察ってことで」

「…なるほど」

ガラス玉で出来たブレスレットをさっそく付けてくれ、嬉しそうに微笑んでいた。

「ってか重いな」

「だってガラス玉だもん」

「………腱鞘炎になりそう」

隣に座った快斗はお店の人を呼んで私と同じものを頼んだ。

「みんなの所に戻らないの?」

「方向が逆だからな。わざわざ戻るのも面倒だし。ってなわけで、俺に心配かけさせた罰としてこの後付き合え」

「え…?」

「まぁそんなの理由付けなんだけどよ…一緒に回ろうぜ」

迷子になって良かったと、今日ほど思ったことはないかもしれない。

笑う快斗につられて、私もにっこり笑った。



青空と白い雲

(…よし、青子に連絡したし…どこに行く?)
(銀閣寺行きたい!)
(おうっ)

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