FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 55 土のクリスタル

   風、火、水、そして土。各地に散らばるクリスタルは四つの力を纏い、それぞれが世界の均衡を保っている。ゴールドルが破壊してしまった黄金のクリスタルは、金を生み出すという目的で作られたものだったので摂理とは無関係だ。もしもあれが土のクリスタルだったとしたら…世界は今頃そのバランスを崩し、確実に破滅へと歩みを進めていただろう。

   古代の民の迷宮、その入口からすぐの所に奉られていた、本物の土のクリスタル。光の戦士達が求めていた、最後の力。更なる光の啓示を受けた一行は、ここまで就いていたジョブを変更するか否か相談していた。


   白魔導師よりも高位の魔法を扱える白魔法のエキスパート、導師

   黒魔導師よりも高位の魔法を扱える黒魔法のエキスパート、魔人

   強大な力で召喚獣を喚び出す事の出来る召喚のエキスパート、魔界幻士

   己の力を溜める事により全てを破壊せんとする肉弾戦のエキスパート、空手家

   あらゆる武器を操りその身軽さで接近戦のみならず投擲の扱いにも長ける古代の称号、忍者

   あらゆる魔法を操りその豊富な知識で数多の文献に偉大さが記されている古代の称号、賢者


   さすが最後のクリスタルといったところか、受け取った称号は全てがとてつもない比類無き力を秘めているだろう。

   五人は談義していた。これから先に待ち受ける強大な力へ挑むには、今就いているジョブのままで大丈夫なのか、それとも土のクリスタルから授かった力に変更した方が良いのか。

   アルクゥとユウリは現在の黒、白魔導師よりも高位の魔法を扱える魔人、導師へとのジョブチェンジも考えたが、召喚獣達の力を借りるには幻術士か魔界幻士、もしくは賢者の心でなければならない。

   賢者ならば、今現在の魔法も全て扱える上に更なる力を得る事が出来る。だがそれぞれの威力は、そのエキスパートには敵わない。例えば治癒魔法ならば賢者のジョブで唱えるよりも、導師のジョブで唱えた方が回復力が高いのだ。

   となると、これから先の被ダメージを考えるとユウリは白魔法専門でいた方が良いのだろう。今までよりも尊く、精神を高めることの出来る導師。それはなくてはならない、回復の要になる存在。

   だが一人に回復の全てを担わせるには負担も大きい。イングズは赤魔道師ゆえにどちらの魔法も心得があるが、高位のものは扱えない。重い一撃を即座に立て直すのは不可能だった。

   それならば彼が賢者の心を持つべきなのだろうか。いや、サスーンで鍛えられた剣術にも長けるイングズを魔法専門職にしてしまうには些か惜しい。かと言って、ルーネスとレフィアは攻撃の要だ。今更魔法職というのは…それならば…。

   ───ずっと、憧れていた。あらゆる魔法を自在に操り、時には人ならざる強大な力を喚び寄せる程の圧倒的な魔力を持つ、賢者という存在に。だが旅立った直後、白の魔法が込められたオーブはその力を授けてはくれなかった。

   その代わりに、ドーガやノアが編み出した絶大な魔法を扱えるくらいには、黒の魔法に才があった。ここに来るまで随分と成長したし、魔法の心得は熟知出来ているはずだ。もうあの頃とは違う。今の自分ならば、もしかしたら。いや、きっと。


「…僕は、賢者の力を借りる」


   白の魔法だって、召喚の魔法だって。なんだって、唱えられる。自分にも出来る事の範囲を広げられるのならば、それが未来を守ることに繋がるのだと、そう信じて。

   賢者を選んだアルクゥ、そして更なる癒しを求めて導師を選んだユウリの心に、クリスタルから強い光が授けられた。身体の奥、中心から全身へ溢れ出す程の力に驚愕した。

   これが、新しい力。バハムートのオーブを手に取ったアルクゥに、呼応するように淡く光を纏うそれは、己を喚び出す者として認めてくれたようだった。

   同時に、こちらはどうかとユウリから手渡された白のオーブにも、あの時には無かった反応が示された。そうか、良かった。これで…これならば、しっかりと全ての魔法を扱う事が出来るのだろう。書物の中でしか存在しないと思っていた賢者。いつしかそれはアルクゥの憧れとなり、そして長い旅ののちに、自分が。

   …こんな事が、現実に起こり得るなんて、以前ならば考えられなかっただろう。クリスタルが選んだ五人、その五人が選んだ力。幾重にも織り交ぜられたそれはまさに、奇跡と呼ぶに等しい。


「レフィア」


   他の皆とは少し離れた所で、アルクゥが小さく声を掛けた。それに気付いたレフィアが歩み寄ると、何かを思案していた様子の彼が問う。


「君は、どうする?」

「どう、…」


   何が、と問おうとして気が付いた。昨夜、皆を失いたくないと胸の内を明かした事、そして同時に、前衛に出る事に恐怖を感じてしまっていると零した事を。

   ここまでずっとシーフのジョブから変わらず、両の手に短剣をひとつずつ握り、敵の懐へ潜り込み手数の多さで勝負して来た。だがそれは当然ながら敵の目前まで迫ると言うこと。もっと、安全圏で戦えるジョブに変更しても良いのではないかと。アルクゥは、そう言いたいのだろう。

   彼の気遣いは素直に嬉しいと思う。しかしここでレフィアが後衛職に就いてしまったら、前衛がルーネス一人になってしまう。それでは戦力のバランスが偏り、今までのような戦略を立てるのが難しくなってしまう。何よりも、レフィア自身が魔法を不得意としている以上、ユウリのような後衛が基本のジョブに変わる事は不可能だ。

   つまり魔人、導師、魔界幻師、賢者。その四つは元より候補に挙がらない。空手家も己の肉体を武器にする特性上、今まで以上に接近する必要がある。となると、残るは。


「わたしは…」


   今までのように、比較的軽量の武器を扱える事が出来、素早い身のこなしと狙いを定める正確さ、器用さ。そして前衛職ながら投擲武器で後方からも攻める事が可能な、古の心。


「…“忍者”」


   そうだ、これならば。忍者の心を授かれば、ルーネス一人に前衛を任せてしまう事もなく、必要とあらば接近戦をこなしながらも基本的には距離を取って一撃を叩き込む事が出来る。

   その考えに至ってからは早かった。他の皆を呼び忍者への心を希望する旨を伝えると、レフィアにぴったりだと。賛同してくれた事に嬉しさと安堵を覚え、戦士、賢者、忍者、赤魔導師、導師の心を携えた光の戦士達はその歩みを進めた。

   古代の民の迷宮を抜け、より間近に聳え立つクリスタルタワー。そして地下に広がる禁断の地エウレカ。ドーガとウネが命を賭して活路を拓いてくれたそれに願いを込め、まずは強力な武器を手にすべくエウレカへと向かった。

   最深部に辿り着く道中で強敵と戦いながらも、ひとつずつ入手していく祭壇に奉られし古代の力。それぞれが放つ力に圧倒されながらも手に取り構えてみると、それは驚く程に違和感なく馴染んだ。

   同時に、新しいジョブへ変更した三人の肩慣らしも粗方済んだのであろう、今までよりも強大な力を持て余すことなく魔物と対峙している。

   エウレカの奥深くに湧いていた清らかな回復の泉で英気を養い、一度エウレカから脱した後。身震いするほどに美しく、そして冷たい輝きを放つシルクスの塔───クリスタルタワーの上階へと、ついに足を踏み入れた。






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