FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 50 望まぬ戦い

   シンと静まり返る様に違和感を覚えたのは、館内に足を踏み入れてすぐの事だった。ここに住んでいるモーグリ達も皆、一様に以前より表情を暗くしている。それは主であるドーガが危険な場所へ向かってしまった事による危惧からくるものなのか、病魔に蝕まれている身体を案じての事なのか。


「待っておったぞ…わしとウネでおまえ達に用意したものを授けよう」


   唐突に響いてきたドーガの声に少々驚愕しながらも、まだ命を繋いでいてくれた事にほっと胸をなで下ろした。

   だが周囲に二人の姿は見えない。一体どこに、と問い掛けようと口を開きかけた時、足元に魔力で形成された丸い陣が浮かび上がった。


「その魔法陣の先の洞窟を抜けて、わしとウネの元へ来てくれ…」


   声の気配が消える。どうやら別の場所にいる二人の元へ続く道を開いてくれたようだ。なぜだろう、妙な胸騒ぎがする。急いで彼等の元へ行かなければならないような、しかし取り返しのつかない事態を起こしてしまいそうな…

   だが考えていても仕方がない。ドーガに言われた通り、ウネを呼び起こし土の牙を手に入れここに戻って来た。もう今更、後に引き返すわけにはいかないのだ。

   ルーネスとイングズが魔剣士から戦士、赤魔導師へとそれぞれジョブを戻し、辿り着いた最深部。変わらず杖を支えにしているドーガと、腰が曲がっていても元気に笑みを浮かべているウネ。二人はこちらの姿に気が付くと、祭壇に置かれたものを指しその口を開いた。


「よく来た。さあ、エウレカの鍵を完全なものにするぞ」


   鍵を、完全なものに?ドーガが探し出したそれは未完成の物だったのだろうか?理解が追い付かず疑問符を浮かべると、しかし次に放たれた言葉は───耐え難く、残酷なもので。

   私達と戦うのだ、と。そんな、まさか。聞き間違いだと思いたかった。だが確かにウネは、正面からこちらを見据えてそう言ったのだ。

   一体、なぜ。混乱と驚愕のあまり何も言えず、ただ目を見開いて固まってしまうこちらを他所に話は進んでいってしまう。


「よく聞くのだ。昔…人にはその力が大きすぎて扱えなかった武器がエウレカに封印された。今こそ、それが必要なのだ」

「そしてエウレカへの鍵を完成させるには、私達の戦いのエネルギーが必要なんだよ」


   ドーガの言葉に、ウネが頷きながら続ける。ちょっと待ってくれ。冗談だろう。二人と戦うだなんて、そんな事をしたら…そんな、事は、


「…出来ない!!」


   焼け付いたような喉からやっと絞り出したそれは、苦しさと、悲しさと、混濁した感情を乗せて周囲に反響した。

   大魔導師ノアの弟子。二人の力はとても強大で、光の戦士である五人と本気でぶつかり合えばそこにはとてつもない力が引き起こされるだろう。魔力だけではなく、そこに乗せられた様々な想い、全てがエネルギーとなって吸収されていくのだ。

   それこそがエウレカへの鍵を完成させるために必要なのだと二人は言う。それは理解した。しかしだからと言って、それを戦う理由にこじつける事など…出来るわけが、ない。

   鍵の完成に、あまりにも強い力を必要とするのならば。本気で、命懸けで戦って、そして…その後は、どうなる?


「戦わなければこの鍵は完成しない。エウレカに眠る武具を手に入れなければ、増大した闇の力に打ち勝つなど不可能に近いのだ」

「それは分かってる、でも…!!」


   諭すようにそう告げられても、心が強い拒否反応を起こす。もう誰も失いたくない。仲間も、大切な人も、誰一人として傷付けたくないのに。

   二人から覗く決意の覚悟は、己の運命を受け入れているように思える。それは、最後に立っているのはおまえ達なのだと、そう伝えているような気さえして。


「いいかい、よくお聞き。私達はなにも殺めてくれと言っているわけじゃないんだ。結果がどうなるのであれ、これは避けて通れないんだよ」


   どうしてそんなに残酷な事を、優しい顔で言ってくるんだ。とてもじゃないが、受け入れられる話ではない。目の前の二人をこの手で傷付ける覚悟を決められないまま、やはり出てくる答えは何度だって同じだった。


「なんと言われても…ドーガ、ウネ…あんた達とは戦えない!」


   ルーネスの必死な叫びがぶつかるが、それを受けた二人は顔を見合わせ静かに頷き…そしてドーガは杖を構えると、突如として球体の臓器のような…異形の姿へと、変貌した。


「わからずやめ!それならこれでどうだ!わしを倒さねばおまえが死ぬぞ!!」


   ドーガが声を荒げたのと同時、凄まじい熱を纏う閃光が物凄い速度で迫って来た。物質を分子レベルから破壊する、高位黒魔法のフレアだ。ルーネスは隣にいたユウリを咄嗟に庇い、己も避けようと防御態勢を取りながら身体を捩るが、武器も構えていない状態で不意打ちに近いそれを完全に防ぐ事は出来ず、脇腹に重い衝撃が突き刺さった。

   今までに経験した事のない、豪火で焼かれながら体内まで抉られるような鋭い痛みが走る。痛いのは傷を負った身体か、それとも───


「ルーネス!!」


   ぐ、と呻き多量の血液が流れ出る腹を押さえ膝を付くルーネスにユウリが癒やしの魔法を施しながら、尚も次なる手を繰り出そうとするドーガを見て…本気なのだ、と。本当にやらなければならないのだ、と。現実を受け止めるしかない事実を、嫌でも理解させられた。

   フレアは戯れで放つ魔法ではない。クリスタルの加護がなければ、一番近くにいたルーネスはもちろん、直後に起きた爆発の衝撃で吹っ飛ばされ勢いよく地面や壁に叩き付けられた仲間達も皆、今のたった一撃で確実に命を落としていただろう。

   やるしか、ないのか。

   ルーネスは傷口を塞いでくれたユウリに礼を言うと、己の血に塗れた震える手を拭い双剣の柄を握った。覚悟を決めろ。ドーガの言った通り、本気でやらなければこちらがやられてしまう。

   冷静になれ。考えるんだ。ここで自分達が倒れたら、誰が光を取り戻すのだ。今以上の犠牲を払い、闇に覆われた世界を放っておくなんて、望んでいない。デッシュやエリアが繋いでくれた、この世界に生きる全ての未来を。生命の平和を、幸せを奪い去るわけにはいかない。

   そうさせないためには、今ここで───


「…それで良い」


   立ち上がり、両の手に強く握られた二振りの剣。真っ直ぐに見据えた瞳。武器を構えた彼の姿に、ドーガの目が優しく微笑ったように見えた。

   それを確認したウネも、同じく異形へと姿を変える。魔力で巨大な竜巻を形成しながら穏やかに、だが力強く声を上げた。


「大丈夫。体は無くなっても、魂は滅びはしない… さあ行くよ!」


   ウネの手から竜巻が放たれるのと同時。ルーネスに続き、皆もそれぞれ武器を構える。中には未だ迷いのある者もいるだろう。苦しかったら下がって、皆へそう告げて素早く二人の元へ斬り込んでいく彼に障壁魔法のプロテスを重ね掛け、すぐさま回復魔法の詠唱を始めたユウリの手に、イングズの手が重なった。

   皆を導くリーダーが、決死の覚悟で決断したんだ。私はそれに応える。

   イングズはしっかりと前を向きそう言うと、重ねた手に魔力を込めた。二人分の魔力が乗せられた癒やしの光は辺りを包み、ドーガが放ったフレアの爆発とウネが放った竜巻魔法のトルネドで切り刻まれた傷をたちまち塞いでいく。

   今にも泣き出してしまいそうな程にショックを受けていたレフィアも、ひとつ深呼吸をして短剣を握り直すと、その瞳に力を宿し地を蹴った。

   そしてアルクゥも、いつか高位魔法を享受願いたいと仰いだ大魔導師と戦う事を選択し、集中力を高めて詠唱態勢に入る。研ぎ澄まされた感覚で繰り出された魔法は、精度の高い、それこそドーガが操るそれにも劣らぬ威力で放たれた。

   びりびりと、洞窟内が振動する程の衝撃。祭壇に置かれた鍵が、生じるエネルギーを吸収していく。刃が剥き出しの身体を裂く生々しい不快音も、衝突した魔力同士による劈(つんざ)くような轟音も。その全てが、望まぬ別離への足音だった。






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