FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 47 大魔導師ドーガ

   大魔導師ノア。かつてこの世界に存在していた、比類無き魔力を持つ古の賢者。その強大な力はありとあらゆる事象を操り、底知れぬ知性を用いて数々の魔法を編み出したと伝えられている。

   魔法の力が込められたオーブの作成方法も、大元を辿れば全てノアから伝授されたものだという。一行は今、古い文献で見た偉大なる大魔導師、その弟子ドーガと道中を共にしている。運命とは実に奇なるものだ。

   ノアの弟子ドーガによると、この世界に暗闇をもたらそうとしている者の名はザンデ。メデューサ、そしてクラーケンが言っていた者と、やはり同じ名だ。驚いた事に、彼もまた大魔導師ノアを師と仰ぎ学んでいた者だったという。

   ノアはその命が消える時、三人の弟子にそれぞれ自らの力を分け与えた。ドーガにはその強大な魔力を、ウネという者には夢の世界を、そしてザンデには“人間としての命”を。

   ドーガが言うに、ザンデはそれが気に食わず、闇の力を使いこの世界と自分の時間を止めた。限りある人間の命から解放されるために。なぜ自分にはこんなものを。こんなつまらないものを───そう言って、姿を消した。

   限りある命だからこそ、人は些細な事でも喜び、怒り、哀しみ、楽しいと感じる事が出来るのだ。おそらくノアはその素晴らしさを教えるために与えたのだろうが、突然余命のリミットが本来よりも遥か短く設けられたとしたら。

   …ザンデが暴走を起こしてしまったのも、少しだけ理解出来てしまうかもしれない。魔力、夢の世界、人間としての命。それらを天秤に掛けた時、望むものはそれではなかった。生きられる時間を短くされただけだ、と。だからといって世界を巻き込むのは当然許される事ではないのだが。

   だから、とドーガは言った。ザンデを止めてほしい、と。時が動き出した今、同じく自らの時を停止していた彼も目を覚ました。そして再びこの世界を封印しようとしている。

   それを止められるのは光の戦士達だけなのだ、と。

   闇の力が暴走した時に切り離された星の一部。それこそが浮遊大陸だった。そこで育ちクリスタルに選ばれた、眩い光を湛える戦士達。闇を打ち払う者達。これを運命と呼ばずとして、なんと呼ぶのか。

   気が遠くなる程に規模が大きい話だ。大魔導師ノアの弟子ザンデ、彼もまたドーガと同じく大魔導師である。元々持っている魔力はそれこそ強大なものだったに違いない。でなければ世界を封印するなど出来る筈がなかった。

   譲り受けた飛空艇ノーチラスで強風吹き荒ぶ岬を抜け、ダルグ大陸の中心に辿り着いた一行が足を踏み入れた、一軒の古い洋館。そこには老いた大魔導師ドーガと、沢山のモーグリ達が暮らしていた。

   その館の奥、小人にならなければ通り抜けられない程の入口の先にある洞窟。中には魔物が住み着いており、モーグリ達が危険だと引き止めるのも納得出来た。しかしこの最奥にある魔法陣へ連れて行ってくれとドーガは言う。

   数は多くないとは言え、襲い来る魔物は中々に手強い。五人がまだ扱う事の出来ない強力な魔法で蹴散らしていくドーガだが、やはり病を患った老体の身。一人では辛いものがあるのだろう。


「ごほっ…ごほっ…!」

「ドーガ、大丈夫か?」

「少々きついが、まだ大丈夫じゃ…」

「無理するなよ、戦闘はオレ達が引き受けるから」

「すまぬ…そなたはルーネスと言ったか。その胸の内にある、ひときわ眩い光…」

「それ、前にも言われた事があるんだけど…自分じゃ見えないし分からないんだよな。オレ達の中に光があるのか?」

「そうじゃ。クリスタルが己の意思で選び、その心に光の力を与える…」

「それが“見える”のか…なんだか不思議な気分だ…」

「誇って良い。その力は、必ずやそなたらを強くする。肉体面だけでなく、精神面でも…な」


   これまでの強敵との戦闘や、何かを失う事で初めて抱いた深い哀しみの感情。それは確かに肉体面を鍛えたが、精神面ではどうだろうか。皆、表向きは気丈に努めようとしているが、傷付いた心はそう簡単に癒えたりしない。

   いつか、分かる時が来るだろう。ドーガはそう言葉を付け加え、最深部へ向けて歩みを進めた。

   そうして辿り着いた洞窟の最奥。ドーガはそこにある魔法陣へ近付くと、独り言のように小さく呟く。


「急がねば…わしの命もそんなに長くないようじゃ」


   その言葉に、皆がはっとする。ここまで来るのに何度か魔物と対峙したが、戦闘後には決まって息を荒げていた。身の丈ほどもある杖を支えにして、しかし支えきれず片膝を付いてしまう事もあった。

   それは老齢と、病から来る疲労なのではないかと考えていた。しかし実際は…


「命が長くないって…冗談ですよね…?」

「…自分の身の事は自分が一番分かっておる」

「そんなっ…勝手かもしれないけれど、僕はあなたに魔法の事を…力の使い方を、教えてもらいたいと…!」

「アルクゥよ…そなた自身はまだ気が付いておらぬかもしれんが、内に秘めるその魔力…とても力強く感じる。わしの生み出した魔法もきっとすぐに使いこなせるようになる程にな…」

「ドーガ…」

「さあ、まずおまえ達の艇に魔法をかけ、海の底に行けるようにしよう…」


   今までに聞き覚えのない魔法の羅列。空を飛ぶ事を目的として作られた飛空艇に潜水機能を付加させるとは、さすが大魔導師といったところなのだろう。

   だが今は、暢気に感嘆している心境ではない。出会い、道中を共にした仲間に迫る死を防ぐ事は、やはり出来ないのだろうか。寿命、それならば納得がいくが、病ならば治せるのではないか、と。癒やしを得意とする白の魔法の使い手ならば、或いは。

   だが生憎そこまでの強力な魔法を、今はまだ知らない。やり取りを見ていたユウリは、自分の知識不足を悔やみ下唇を噛んだ。


「サロニアの南…二本角岬の海底に眠る時の神殿に行くのじゃ…そこにノアのリュートがあるはず」

「ノアの…リュート?」

「夢の世界にも響き渡る魔法のリュートじゃ。それを使って夢の世界からウネを連れて来るのだ…」

「ウネって…あなたやザンデと同じく、大魔導師ノアの弟子だったという方ですか?」

「そうじゃ。わしは今から魔法陣より異次元に跳び、エウレカへのカギを取って来る。おまえ達はウネを起こし、巨大船インビンシブルを手に入れるのだ」

「…分かった。ドーガ、オレ達が全部こなすまで、ちゃんと命繋いでいてくれよ?」

「無論。ザンデを止める手立てが見付かるまでは死んでも死にきれぬ…おまえ達を外にワープさせてやろう。ウネによろしくな。また会おう、光の戦士達よ!」


   ああ、この光に包まれるのは何度目だろうか。クリスタルの間から地上へ戻る時、オーエンの塔から船上へ戻る時。水の洞窟から脱出する時。

   歪む景色、滲む視界。次に意識するとそこはすでに館の外。転移魔法で空間移動をした後には、言い知れぬ焦燥感が付き纏う。

   いつも、その前後に待ち受けていたのは悲しい展開だった。だから不安になってしまうのだ。しかし今回こそは、せめて…慈悲深いものであるようにと、願った。






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