FINAL FANTASY V | ナノ
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   黄金に輝くクリスタルが、無残にも粉々に砕け散った。

   強く眩い光が感じられなかった事から、それがどのようなクリスタルだったのかは分からない。少なくとも今までに力を授かってきた風、火、水のクリスタルとは違う特異な輝きは、光の戦士達にとっても重要なものだったのかどうか。今では判別する手立ても無く。

   黄金に彩られた館に潜む、黄金の鎧を纏ったゴールドルと名乗った男。彼は一体何者だったのだろうか。エンタープライズに強固な鎖を繋げ進路を妨害してきた事を考えると、魔の手の者だったのだろうか。

   しかしそれも無駄な策だったと言えよう。クラーケン程タフでもなく、力も弱い。充分な休息を取り、また充分な啓示を受けた五人からしたら最早苦戦する相手でも無かった。館の前に底なしの沼を配置しているのを見るあたり、根は臆病者の可能性も捨てきれない。

   もしかしたら館の黄金を狙う輩だと思われていただけなのかもしれない。地上からの侵略は防げても、空からやって来られたらひとたまりもない。だから飛空艇を飛ばせないように鎖を繋げたのだろうか。結果としてそれが光の戦士達を招き入れる事となってしまった。皮肉なものである。

   五人が世話になっていたアムルの村で、自分達こそ光の戦士だと言って憚らない四人組の老人達と出会った。飛空艇が使えない以上、ゴールドルの館に入るためには底なし沼を越えられる浮遊草の靴と呼ばれるものが必要だったのだが、アムルの下水道に住む老女にそれを譲ってもらえないか訪ねた時、張られた罠から助けてくれたのがこのじいさん達だった。

   直前には魔物に囲まれている彼らを見て、少し心配と呆れが入り混じった感情が湧いてしまったが、危険を顧みず助けを入れてくれるその勇敢さは本物だ。彼らもまた、心に輝きを持つ戦士達に違いない。

   エンタープライズを繋いでいた鎖を解き再び上空する飛空艇から見える景色は、初めてこの世界を視界に入れた時とはまるで違う景観をしていた。これが、世界。エリアが目にする事の出来なかった、祈りの先。

   次の目的地が定まっていない一行は、とりあえず情報を集めようと、比較的大きい街を目指す事にしていた。聞くところによると、アムルから北西にサロニアと呼ばれるこの世界唯一の城があるらしい。成程、そこならば何かしらの情報が手に入るかもしれない。

   舵を向け、軌道を安定させた所で時間に余裕が生まれた。到着まではもう暫し。甲板の柵に手を掛け、流れる景色を眺めていたユウリに声を掛けたのはレフィアだった。


「身体の調子はどう?」

「もうすっかり大丈夫。心配掛けちゃってごめんね、レフィア」

「本当よ、あのまま目が覚めなかったらどうしようかと思ったんだから」

「うぅ…本当に申し訳ない…」


   まったくもう、と腰に手をあて不満を口にしたレフィアだが、その表情には微笑みが浮かんでいた。本気で怒っている訳ではない事が分かり、ユウリも安堵の表情が浮かぶ。


「…でも、本当に良かった。イングズも表情には出さないけど、とても心配していたのよ」

「みんな、交代で私の事を看病…で良いのかな?してくれていたんだよね?」

「そうね、殆どルーネスが付いていたけれど。でも身体を拭いたり、髪をドライシャンプーしたりはわたしと宿のおかみさんでやっていたわ」

「それ!ほんっとうに助かりました…!!私、十日間もあの状態だったって知って…臭かったらどうしようかと…」

「女の子はそういうのも気になるわよね。わたしも同じ状況だったらそうしてもらいたいと思うわ。ふふ、だから、ね?」

「ありがとうレフィア〜…!!」


   宿の女将に深々と頭を下げた時、今のレフィアと同じような事を言われた。女の子は身だしなみを気にして良いのだと。

   いくら旅をしている者に汚れはつきものとはいっても、年頃の娘が泥にまみれて何日もそのまま、という状況はあまりにも酷に思えたのだろう。レフィアが意識を取り戻す前にも、身体を綺麗にしてもらっていたらしい。

   これは他の皆もそうなのだが、魔法では癒やしきれなかった傷の手当もしてくれたみたいで、本当に至れり尽くせりだった。


「アムルの宿屋さんにはなんだかとってもお世話になっちゃったね。四人組のおじいさん達も助けてくれたし、暖かい村だったな」

「そうね、本当に。あのじいさん達も最初は何事かと思ったけれど」

「あはは、いきなり光の戦士を名乗るんだもん、びっくりしちゃったよね」


   困った時はわしらを頼れ、体力は若いモンに負けるが知識なら誰よりも豊富じゃ!伊達に年食っとらんぞい!

   村を出立する時に言われた事を思い出し、自然と笑みが浮かんだ。老人がいきいきと元気でいられるあの村が、とても良い所であるのが感じ取れる。

   そうでなければ傷だらけで行き倒れている旅人を五人も運び入れ、打算無しで看病などしてもらえなかっただろう。あのまま魔物の餌食になり、すでに命を落としていてもおかしくなかった。

   そして既に息を引き取っていたエリアを、綺麗に死化粧をして手厚く埋葬してくれた事も。村を出る前に立ち寄った彼女の墓前には美しい花が添えられていて、管理と供養は任せろと言ってくれた。

   とても運が良かったと思う。これも光の加護なのか、それともただの偶然だったのかは分からないが、これでまた前に進めるのだ。


「ユウリ、その…聞いても良いのか分からないのだけど…」

「ん、何を?」

「最近ずっと付けてるネックレス、って…誰かからの贈り物だったりするの?あ、言いたくなかったら良いのよ、詮索するつもりは無いの!ただ勝手に気になっちゃっただけだから…!」


   ───この子は愛されているんだね

   ───愛されて…?

   ───このネックレスに嵌めてある石、アメジストっていうんだよ。いくつかある意味の中のひとつに、真実の愛っていうのがあってね

   ───真実の…

   ───自分で選んだのかもしれないから分からないけどね、もし誰かから贈られた物だったとしたら…

   ───その人は、ユウリの事を愛してるって事ですか?

   ───可能性があるってだけの話さ。その方がロマンティックで素敵だろう?



   宿屋での、女将との会話。それをふと思い出したレフィアは思わず問い掛けてしまったが、突然そんな事を聞かれて嫌な気分にさせてしまっただろうかと気を揉んだ。

   しかしそんな不安は杞憂に終わり、ユウリはきょとんと目を瞬かせた後、照れたようにはにかんで、


「これはね、ルーネスに…」


   そう、答えた。愛おしそうにネックレストップを優しく握り、頬を染めるユウリが可愛らしいと思うのと同時に、ああ、やはり、と。どこか確信めいた予想はしていたが、本当にその通りだった事に驚きは無かった。

   アーガス城でアルクゥが、二人は恋人同士みたいに見えるでしょうと問うていたが、一緒に旅に出て今までに何度もそう感じた事があった。けれど本当に恋人同士というわけではないと聞かされ不思議に思っていたのだが。

   ルーネスは、石の持つ意味を知っていたのだろうか。これまでのユウリの様子を見る限り、彼女が彼の事を想っているのはなんとなく分かる。そしてきっと、ルーネスも。

   彼女の髪や頬に触れる仕草は優しく、目覚めないユウリの傍でひたすらに祈る姿は記憶に新しい。アルクゥもそうだったと言えばそれも確かにそうなのだが、ルーネスのそれとは少し色が違って見えていたのだ。

   異性の幼なじみ、か。そのような存在が居たのなら、もっと男性に素直になれたのだろうか。レフィアは胸中で思い、なぜだか浮かんだデッシュの姿を振り払った。


「そういえばレフィア、この石の意味って分かるかな?」

「え?」

「誠実と…あと何だっけ、平和だったかな?他にも意味があるってお店の人に言われたんだけど、ルーネスにそれを聞いても今はまだ教えないって言われちゃって…」


   他の意味は今初めて知ったが、やはりルーネスは女将の言っていた意味も知っていたのだろう。そしてそれを教えていないと言う事は、即ち。それならば一層の事、本人がそう言っているのならば、こちらから教えるなんて無粋な真似は出来ない。


「…ごめんね、わたしもよく知らないの」

「そっかぁ…」

「時が来たら教えてくれるって言うのなら、それまでのお楽しみにしておけば良いんじゃない?」

「うん、そうだよね、変に詮索して知っちゃったら勿体無いもんね」


   少し離れた所にいる男性陣にちらりと視線をやり、彼の───ルーネスの姿をその瞳に映した時。ユウリの目元が暖かく柔らかい眼差しに色を変えた。

   そうやって素直に表情を映せる事が、レフィアには少し羨ましく感じられた。無感情でも無表情でもない、むしろどちらかと言えば顔に出るタイプだとは思うが、まだ恋という感情を把握しきれていないためか、戸惑いが先に来てしまうのだ。

   デッシュに向けていたのは確かにカズスの街の人や、一緒に旅をしているルーネスやイングズに対するそれとは違った感情だった。だが、それが何だったのか分からないまま、宙ぶらりんの状態で彼は目の前からいなくなってしまった。

   ではアルクゥに対しては、どうだろうか。泣いても良いと許しを得て、彼の腕と優しさに包まれながら感じたあの心地好さは?アーガス城で祭りに誘ってくれた時、素直に嬉しいと感じた想いは?

   思考を巡らせてみても今はまだ、分からない。何かをきっかけとして理解する時が来るのだろうか。これがそうなのだ、と。或いは違ったのだ、と。

   こんな事をここで悩んでいても仕方がない。時間が経てばなるようになるだろうと切り替え水平線を見やると、まだ遠くにだがぼんやりと建物の形が見えた。

   あれがサロニアだろうか。そこで収穫が無いと、いよいよ行く宛も限られてしまう。どんな小さな事でも何らかの情報を得られると良いのだが。


「…エリアとね、」


   レフィアと同じように水平線を眺めていたユウリが、視線はそのままにふと口を開いた。


「下の…この世界の時が動き出したら、一緒にウルへ行ってたくさんお話しようって、約束してたの」

「…っ、」


   なんと答えたら良いのか分からず言葉に詰まる。しかしその約束はもう二度と…


「叶わなく、なっちゃった…すごく悔しくて、悲しくて…でも…」

「…うん」

「今こうして生きている私達が…ちゃんと前を向かなきゃだめだよね」


   墓前で祈りを捧げた時、頬を濡らすレフィアと相反するようにユウリは涙を見せなかった。それは気丈に振る舞っていただけなのだとすぐに気付いたのは、その後人目につかない所で地面に膝を付き、両手で顔を覆い肩を震わせていたのを見てしまったからだ。


「もう誰も失いたくないの…だから、レフィア。絶対に皆で一緒に帰ろうね」

「…ええ、わたしも同じ気持ち。オーエンの塔でメデューサが言っていた、魔王ザンデ…どこにいるのか、どんなやつだか分からないけど…必ず倒して帰りましょう」


   悲しい思いなんてしたくない。そんなのは誰もが思っている。なんとしてでも、ほんの些細な情報でも逃さず掴まなければ。

   先程から遠くに見えていた影が近付いてきた。そろそろ目的地に着く頃だろう。皆の元へ戻ろうと声を掛けるよりも先に、アルクゥがこちらを呼ぶ声が聞こえた。






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