▼ 0 プロローグ
耳をつんざくような轟音と、身体が裂けてしまうのではないかと思うほどの衝撃。
燃え上がる炎を視認しながら、たった今、起こった事を理解する。それはあまりにも残酷で、思わず目を背け現実逃避したくなるほどの、最悪な…
そう、最悪な、それ以外の言葉は思いつかぬほどの、事態だった。
「誰か機体を!なんとしてでもこのまま墜落だけは阻止するんだ!」
「何をやっている!早く持ち直さないと木っ端微塵だぞ!」
「やってるよ!舵がきかないんだ!」
「火が!反対側からも上がって…!」
誰かの必死な叫び声が聞こえる。なんとかして機体を持ち上げようと皆で尽くそうにも、噴き上げた炎は徐々に全てを飲み込んでゆく。
気流に飲まれ、物凄いスピードで大地が近付く。いつもなら美しく見える木々の緑が、やけにくすんで見えた。同時に、なんて恐ろしいのだと。
「もうだめかもしれない、せめてこの子達だけでもなんとか脱出できないだろうか…」
大人たちの阿鼻叫喚を知ってか知らずか、五人の赤子はそれぞれ泣いていたり、何が起きているのか分からないと言うように、きょとんとしている。
未来ある赤子を、こんな所で天に還してなるものかと。強くそう思っても、この状況で無力な人間に何が出来るというのか。
否、最も無力なのはこの赤子達か。意志を持ち自分で動ける大人達よりも、よっぽど。
激しく揺れる機体に必死で耐えている中、ふと、一人の赤子が寝返りを打った。この状況で、よく器用に寝返られるものだなと感心する。
ふわり、赤子の小さい腕が、隣で泣いている赤子に重ねられた。それはまるで、温もりで安心させるかのように。この災厄から、守ろうとするように。
泣いていた赤子が、次第に落ち着いていく。ぐずる程度になったかと思えば、まるで安心したかのように、微笑んだのだ。
息を飲んだ。ああ、偶然か奇跡か、どちらなのかはわからない。しかし、赤子ですら誰かを守ろうとしているのに。その尊い命を大人が守れなくてどうする。
「何か柔らかい、毛布なようなものを集めてくれ、できるだけ沢山」
冷静な声だった。
元よりこのまま身を任せていれば消える命。それならば、いっそ掛けてみよう。諦めるのは自らがやれる事に手を尽くし、それでも叶わなかった時で良い。それからでも遅くはないのだ。
「それと誰か一人、手を貸してほしい」
大地はもう、すぐそこまで迫っていた。
凄まじい轟音をうねらせ大地と接触するのと、祈るように機体から飛び降りたのは、殆ど同時だった。
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