「もう待つだけの人生は疲れたよ……」

静かな部屋に瓦礫の崩れる音と共に響いたのは一つの声に、その場にいた神田とラビ、コムイの3人はここにいるはずのない人物を目の前に驚愕の表情を見せた

「こんなに煩くしたの、誰?」

「恭弥、くん………。どうしてここに」

「遅くなってごめんね」

「……遅すぎるんだよ、馬鹿恭弥」

「うん、ごめん」

「恭弥くん、君まで……!君も今は武器がないんだ……!」

「コムイ、今だけは無茶を許して。無謀だってのも分かってる……。それでも、ここは僕の居場所なんだ。受け入れてくれた時からそれだけは変わらない。それに──僕は大丈夫」

穏やかな表情から真剣な眼差しになりコムイへと近づいていくと雲雀は辺りが所々崩れている教団の様子に顔をしかめたその時、頭上の壁にアレンが吹き飛ばされてきた

「アレンくん……っ」

「はぁ、は……」

コムイの側に打ち付けられたアレンの体は痛々しいほどに傷だらけで動くのも難しいほどだった状態にコムイが目を見開いた

「このキズ……こんな状態でどうやって動いて……!?」

「…………なるほどね」

ガクンとアレンの体が立ち上がるのを見て雲雀は違和感を感じる。それは、まるで操られる人形のような姿。不自然な動きのままアレンの手が退魔の剣に伸びる様子まで確認したあと雲雀は納得したように声を漏らした。

「アレンの体は無理矢理イノセンスで動かしてるんだ。僕も同じ状況を何度か経験してるから言っておくけど……彼の体、そろそろ限界に近いよ」

「なんだって……!?やめるんだ、アレンくん!!」

コムイの制止もアレンには届かず、彼はレベル4のアクマへと向かっていくのを見た後、しばらくしてからリナリーのイノセンスが発する激しい光が雲雀達の視界に届いた

「リナ……?リナはイノセンスとのシンクロを解除したんじゃ……」

「ルベリエのやつが言いくるめて……リナリーにまたシンクロをさせようとしてるんさ」

「!……それで、リナを拒絶したら」

「行ってやれ……コムイ。あいつはお前の為に生きてる…わかってんだろ…そばにいてやれよ、兄貴だろ」

「………ッ、……ボクはどうしてやればいいのか……わからないんだよ」

「「何を……今さら……言って(やがる/んだい)、このシスコン!!」」

ドカッとコムイの背中を蹴り飛ばしたのは神田と雲雀。その2人にコムイは蹲る。そんな姿にも容赦なく

「側で聞いてたらうだうだうだうだ!」

「テメー、何のために教団に入ったんだよ」

2人に言われてコムイはハッと気づいた様子に雲雀は矢継ぎ早に言葉を続ける。その言葉はコムイの背中を押し、突き動かすには十分すぎる効力だった

「リナが前に言ってた。兄さんのためにエクソシストになったって。彼女が毎回ここに帰って来れるのはコムイがいるからだって。そんな、たった一人の家族の為に入ったんでしょ。リナだけの想い?君は違うわけ?ここで立ち止まってる暇があるの?」

「!!」

コムイはその場から駆け出す。教団に入った理由であり、最愛で唯一の家族であるリナリーの元へと走る。その背中を見送りながら雲雀は小さくため息を着くとそんな彼にも声がかかる

「手のかかるシスコンだね、まったく」

「恭弥、なぜこっちに来た」

「……夢を見た。笑ってる夢……でも、周りに誰もいない。独りで笑ってた……ただ狂った人形のように。……独りじゃ、笑えないのに。それを現実にしたくない、それだけ。研究室や他のみんなは?」

「婦長達は地下に集まってるさ。俺とリナリーは匿われてたんだけど、ルベリエのやつが来ちまってな……。研究室は……」

「……そう。僕がレベル4の動きを遅くする」

「無茶さ!そんなの、恭弥が敵うようなやつじゃ……」

「分かってる。でもお願い……戦わせて。それが今僕に出来る最大のことだから」

「止めるべきだと、頭では分かってる……だが、今の状況じゃ何を言っても無駄なんだろうな、お前には。……行ってこい、恭弥」

「ありがとう。行ってきます、ユウ」

雲雀は微笑んでから地面を思いきり蹴ると、レベル4の目の前に現れる。

「あらてですか?」

「気持ち悪いヤツ。……君の相手は僕だよ」

「わたしにかてると?」

「さぁね。でもアクマは、壊す」

「えくそしすとなら、ころしてあげます」

「やってごらんよ。──僕の安眠を妨害した罪は重いんだ」

雲雀は体を回転させて踵落としをレベル4へと繰り出す。レベル4はそのまま地面へと叩きつけられる

「なかなかやりますね。なまみのこうげきをわたしにあてるとは」

「(ほとんど効いてない、か……。別に、倒せなくていい。時間を稼ぐだけでいい……体に馴染むまで稼げればそれでいい)」

「なにをかんがえているんです?」

「……っ!」

レベル4が同じく蹴りの攻撃をすると今度は反応が遅れた雲雀は勢いよく壁へと打ち付けられる。打ち付けられた雲雀はレベル4を睨みつける

「……っのやろ……」

「いたみをかんじていない……?なるほど。あなたがはくしゃくさまのいっていた、ひばりきょうやですね」

「それが何?まだ、終わってないよ」

身を屈めて雲雀はレベル4との間合いを詰めてから体術で戦闘を再開する。その様子を見ながら神田は違和感を感じていた

「(イノセンスを持っている訳でもない。何であんなに動ける……。おかしい)」

「ユウも気づいてるさ?」

「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇ、バカ兎。……恭弥のやつ、イノセンスがあるわけでない、まるで寄生型だったかのような動きをしてやがる」

「(やっぱり、今までの奴等とは桁違いだ……どうやっても力負けする)」

「これでおわりです」

「クスクス……」

レベル4の攻撃を雲雀が間一髪で避けるその表情には笑みが浮かんでいた。その様子にレベル4は首を傾げている。その様子は人間とは思えない状態で

「なにがおかしいのです?」

「《すぐにまた会えるよ、千年公……》」

「なにをいっているのです?」

「!……なに、いまの……(今、一瞬意識が……)」

避けた攻撃は背後にいたアレン達の元に向かっていた。その様子に雲雀は舌打ちをしていたが、やがて退魔の剣で受け止めるアレンの後ろから、神田とラビがアレンの体と剣を支えているのが視界に入る

「ふんばりやがれ……っ」

「今はお前と恭弥しかいねーんさ……っ」

「ぐ…っ、おぉぉおおお!」


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