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「マテールの亡霊がただの人形だなんて……」
「イノセンスを使って造られたのなら、ありえない話じゃない」
──ゾクッと怖気と共にマテールの地を見下ろしながら雲雀はこの街はもう駄目だと呟くと神田は同意したのち舌打ちをする
「ちっ、トマの無線が通じなかったんで急いでみたが……殺られたな」
「…………」
「おい、お前。始まる前に言っとく。
お前が敵に殺されそうになっても、任務随行の邪魔だと判断したら、俺は、お前を見殺しにするぜ!」
「これは戦争なんだ。犠牲は当然。変な仲間意識を持たないことだね
神田以外は僕にとってどうでもいいし」
「嫌な言い方」
「神田、レベル2が2体、それからレベル1が10体ほど
……どうする?」
大きな音を立てて現れたアクマたちを見回しながら雲雀は神田に意見を求めると同時に武器であるイノセンスを構える
そんな彼に背中を預けながら雲雀も自身の武器を握る
「最優先はイノセンスだ」
「だね。……ん?ねぇ、あの新入りは?姿が見えないけど」
「やめろ!」
少し離れた位置でアクマに対して武器を発動していたアレンの声が雲雀の耳に届き、小さく呟くがすぐに興味なさげに自分の眼前にいるアクマへと向き直る
「……レベル2はまだ君には倒せない」
「(馬鹿が……考えナシに突っ込みやがって。恭弥の話なら、レベル2に進化したアクマ……初期レベル時より格段に強くなってる上、自我を持っている
能力も未知数だ──)」
「あそこにいるのが人形だろうね」
「あの結界も4つではそう長くはもたないな……」
「ユウ……僕はレベル2と邪魔なレベル1を破壊する
その間に解除コードとイノセンスを頼んだよ」
「分かった。無茶はするなよ」
「僕がこんな雑魚に負けると?」
「微塵も思ってないがな。いくぞ、六幻!」
「いこうか、烈火」
「(──抜刀!)」
口角を上げて雲雀は自身の対アクマ武器、《烈火》と呼ばれるトンファーを両腕に構え、その背後で神田が黒がかった刀身を指でなぞると神田の対アクマ武器である《六幻》が発動する
「「(イノセンス──発動!!)」」
《ギャアアアアァアァアア!》
「「!?」」
「烈火、第一制御解除……」
「六幻、災厄招来!」
「──煉獄!」
「──界蟲《一幻》!!」
2人によって次々と破壊されていくアクマ。レベル1はあっけなく破壊されていき、残るはレベル2のみとなる。そんな光景にレベル2は雲雀たちへと対峙する
「玩具を壊しやがってー。お前、エクソシストだろ!」
「それがどうしたんだい」
「だったら、壊すだげだぁ゛!」
「それはこっちの台詞だよ。アクマは全て咬み殺してあげる」
両腕に構えた烈火に付いたアクマの血を振り払いながら雲雀は楽しげに笑って地面を蹴りあげる。その背後へとアクマが近づき叫びながらも襲いかかる
「……いちいち煩いな。煩いの……嫌いなんだ」
雲雀が鬱陶しそうに言い放つと同時にアクマの目の前に雲雀の顔が近づき、踵を落とし空中で身を翻しながら烈火で殴りつけるとあっさりとレベル2は破壊される
「よっ、と……。それが、イノセンスを持つ人形?(……あれ?人間の臭い……?)」
「どうした、恭弥」
少し離れた位置で人形と呼ばれるものたちの対応をしていた神田の元に駆け寄ると二人の人物を一瞥した後、怪訝そうな表情を見せた雲雀。そんな彼に神田は訊ねるが雲雀は多分気のせいだと首を横に振った
「そうか。おい、お前
俺達は助けないぜ。感情で動いたお前が悪いんだからな。一人で何とかしな」
「いいよ、置いてって。イノセンスがキミ達の元にあるなら安心です
僕はこのアクマを破壊してから行きます」
「(本当にクロスの弟子……?性格が全然似てないじゃないか)……神田、行く?」
「ああ」
雲雀と神田はその場にアレンを残して人形を連れ、その場から退くと人形を連れながら地下通路を歩いていく
「この町には強い日差しから逃れるための地下住居があるの
迷路みたいに入り組んでて、知らずに入ると迷うけれど、出口のひとつに谷を抜けて海岸線に出られるのがある」
「アクマは空を飛ぶから隠れるなら地下ってことか……」
雲雀の確認に少女はこくりと頷いたその時、ゴーレムが鳴り響き通信を繋ぐと通信先はトマ。そんな彼から状況報告がされていく
《別の廃屋から伺っておりましたが、先ほど激しい衝撃があって、ウォーカー殿の安否は不明です。あ、今、アクマだけ屋内から出ていきました。ゴーレムを襲っています》
「わかった。今、俺のゴーレムを案内役に向かわせるから、ティムだけ連れてこっちへ来い」
《はい》
「恭弥、あいつの居場所……分かるか」
「今、探してるけど……何だかおかしい。なぜか居場所を探せない。なんか、似た気配が2つあるんだ」
「2つだと?」
「うん。でも見た目の割りにしぶとそうだから、心配はいらないと思うけど」
「……恭弥はレベル2と何回破壊したことがある」
「えっと……この前のラビとの任務で2体、それから単独の任務で1体かな。でも、さっきのアクマは進化したばかりみたいだったから案外簡単だったけど」
「そうか。なら、心配はいらねぇな」
「当然。で、地下に入るんでしょ?道は知ってるの?」
「知って……いる」
「グゾル……」
「私は……ここに五百年いる。知らぬ道は無い」
グゾルは帽子をはずすとその容貌が露になった。決して美しいとは言えないその風貌に2人は目を見開く。そんな彼らに対してグゾルは嘲笑する
「お前が人形か?話せるとは驚きだな」
「そうだ……お前達は私の心臓を奪いに来たのだろう」
「できれば今すぐ頂きたい」
「!!」
「デカイ人形のまま運ぶのは手間がかかる」
「ち、地下の道はグゾルしか知らない!グゾルがいないと迷うだけだよ!」
「君は、何?」
「私は……グゾルの……」
「人間に捨てられていた子供……だ!
ゲホ……ッ、私が……拾ったから側に……置いでいだ……!」
「グ、グゾル……っ」
ゲホゲホと咳き込みながら告げた言葉に雲雀は顔を俯かせながら拳を握る。
「(捨てられていた、ね……)」
「…………」
「神田殿、雲雀殿」
「!」
「(今考えるべきはそんなことじゃない。僕は、エクソシストだ)……悪いけど、僕たちも引き下がれないんだ。あのアクマたちに君の心臓を取られるわけにはいかないからね」
「今はいいが、最後には必ず心臓をもらう。巻き込んですまない」
やがてトマが合流し、持っていた粉々にされたものがティム・キャンピーであることを告げられると、粉々の状態から少しずつティムが本来のゴーレムの姿へと戻っていく
「お前が見たアクマの情報を見せてくれ、ティム」
神田の言葉に呼応してティムは映像を見せ始める。それを横並びになりながら雲雀と神田はじっとみた後雲雀が静かに鏡のようだと告げる。そんな彼にトマは疑問符をうかべる
「逆さまなんだよ、このアクマ……」
「見てみろ。奴がモヤシに化けた時の姿……服とか武器とか……左右、逆になってる」
「モヤシ?」
「あの新人のこと。あ、この切られた奴も逆だね」
「しかも偽者は中身はカラで360度外見だけのもの。ただ単に《化ける》能力じゃない……」
「まるで対象物を何かで写し取ってるみたいだね」
「しかも写し取ったそれを装備すると、その能力を自分のものにできるようだ。モヤシの左腕を変形させて攻撃をしてるところを見るとな……」
「……やっかいなものを取られて……ったく、面倒くさい……」
推測を述べていく二人が揃って舌打ちをした後ろでトマはしゅん、としょげた。アレンを先に探すべきだったと後悔しながら、次にであった時本物かどうかがわからないと告げるがその言葉に対しては神田が否定を述べる
「それは大丈夫だろ。左右、逆になってるんだから、すぐわかる
もし、そんな姿でノコノコ現れたらよほどの馬鹿だな」
「うん。これで2つの気配の理由が腑に落ちた。今は探知が使い物にならなくても、左右逆になってるなら出会った時には問題ないね……」
「探知、とは?」
「僕は一度会った人の場所が8割の確率で分かるんだよ。まぁ、あまり頼りにならないけど。……ってあれ?」
「ふたりがいない!!に゛っ逃げやがった!!くそ、あいつらどこに……っ」
「!神田殿、後ろ……」
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