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「よし!これで全部設置完了!お疲れ〜〜」
「明日、みんなが来るの楽しみだね」
「ねー、朝までチェスしない?」
「こんばんは〜〜と」
「ふーん……ここが新本部、ね」
「よ〜〜っす、オツカレVv」
「なんじゃい、冷えるのぉ、ここ」
「見晴らしは悪くないね」
「!?」
方舟から顔を出す雲雀、ラビ、そしてブックマンを次々と見渡しながらジョニーやアレンが口々に尋ねていく
「出発は明日だよ、ラビ。恭弥も」
「二人揃って寝ボケてんですか?」
「ンなワケあるかーい」
「ちょいと本業のほうでな」
「ほんぎょう?」
「恭弥は?」
「さぁ?クロスに呼ばれて鴉に連れられて、
途中で偶然会ったラビとブックマンがこっちに来るって言ったから一緒に来ただけ」
「ご苦労でした、ハワード監査官」
「!」
「キミも任務ご苦労、アレン・ウォーカーくん。雲雀恭弥もよく来てくれました」
「……ッ、ルベリエ……ッ?!(押さえろ……こいつは、僕のいたところじゃない。あの地獄にいたあの悪魔じゃない……押さえ、ろ………っ)」
「(恭弥?)」
自分の体を抱え込むように腕を回しながら小刻みに震える様子に異常に感じたものの深く問うことははばかられたのかアレンはその様子の理由を知ることはなく、【ルベリエ】と呼ばれた男に声をかけられる
「来たまえ。今からキミ達には私の指示に従ってもらいますので、よろしく」
「体が少々重いでしょうが、害はありません。左手を拘束するためだけの術ですので」
「着替えがあるなら、その後にかけても……」
左手を術によって拘束されながらぜぇぜぇ、と息を切らすアレンと、一方で警戒を解く様子のない剣呑な眼差しを向ける雲雀を他所にルベリエはお茶を飲んでいた
「できんことはないでしょう」
「(仲間なのに、ここまでするなんて。イヤ……違うのか。仲間かどうか、この人達には疑われてるんだった)」
「アレンに関してはこれが目的か……。僕に対して拘束具がないところをみると、尋問、拷問…詰責、どれかな……」
雲雀は嘲笑しながらある過去を思い出していた。自分では無い【誰か】の記憶、体躯か精神か定かでは無いもののそれは朧気に脳裏に焼き付く言葉
──ずっと一緒よ、マナ。彼はきっと、戻ってくるもの。信じてる。ずっと、待ってる……
「……マナが、おかしくなったのはあの時だ……。覚えてくれていたのかな……」
「クロス・マリアン元帥がこの扉の先におられます。入られよ」
「……随分と厳重な見張りだね。飲んだくれ一人に対して随分と大仰じゃないか」
「……マナは、【14番目】と関わりがあったんですね」
「ああ。【14番目】には血を分けた実の兄と、寄り添い続けた恋人がいた。【14番目】がノアを裏切り、千年伯爵に殺される瞬間までずっと側にいた、たった二人の人物。それが──マナ・ウォーカーとリリィだ」
「!」
「兄弟……マナと、【14番目】が。師匠は、ずっと前から知ってたんだ……?」
「知ってたさ、ずっと。そこで黙ってる恭弥もな」
「……っ」
「恭弥、も……?」
「オレ達は【14番目】が死ぬ時、マナを見守り続けることを奴と約束した。そうしていれば、いつか必ず、マナとリリィの元に帰ってくると、お前がオレ達に約束したからだ、アレン
いや?【14番目】。なぁ、【リリィ】」
クロスは振り返り雲雀とアレンを順番に見るとアレンは目を見開き、雲雀はバツが悪そうに顔を俯かせてしばらく間を置いてから顔を上げるとその顔には嘲笑
「知って、たんだ……僕の元の器が、あの人だってこと……」
「(今、何て言いやがった)」
「恭弥の寄生型のイノセンスはリリィのものだ。それが扱えるようになったということは、記憶が戻りつつあるんだろう?」
「…………」
「無言は肯定と見なされるぞ、恭弥」
「お前に至っては、覚醒はまだだろうが、自分の内に【14番目】の存在を感じ始めてるんじゃないのか、アレン」
「は?何をいって……」
「とぼけんな。お前は奏者の唄を知っていた。それは奴の記憶だ。お前は、【14番目】の《記憶(メモリー)》を移植された人間
──「14番目」が現世に復活するための宿主だ」
「やっ、ぱり……。《彼》の……」
「方舟で奏者の唄を知っていたのも、弾けないはずのピアノが弾けたのも、【アレン(おまえ)】じゃない。全部、【14番目】の《記憶(メモリー)》だ。
・・
お前あン時、あそこで何か見ただろ」
「……?アレン……?」
クロスの問いに反応のないアレンへと雲雀がゆっくりと視線を向けると衝撃的な事実の連続にアレンは固まっていた。そんな彼へと容赦なくクロスは歩み寄り、手を空へと挙げる。オイ、という一言ともに、アレンがはっと気づくのも一足遅く
バチィン!!と大きな音を立てて平手打ちを繰り出される。
「とまんじゃねェよ。話が進まんだろうが」
「イッ、ッタ!い、移植って……いつ……」
「あ?あ───……ワルイがそこはまったく知らん」
「はぁあッ?」
「まて、大体はわかる。多分アレだ、【14番目(やっこさん)】が死ぬ前だ」
「それ、わかんないんじゃん!!恭弥は分かりますか!?」
「とりあえず、死ぬ前でしょ」
「恭弥も師匠と同じこと言ってんじゃないですか!」
「ああ?ンだテメェ、ワルイつっつんだろうが、トバせッ、そこは!」
「(アッバウト……)」
「フン……俺だって半信半疑だったんだ。お前が現れるまではな。リリィの奴はずっと信じてたが。
伯爵を殺そうとした奴の有様は地獄だった。マナとリリィの3人でノアの一族と殺し合いの逃亡生活。
【14番目(奴)】にとって《いつ》《ダレ》になんて構っちゃいられなかったんだろ。チャンスがあったときにたまたま手近にいた奴を宿主に選んだ。テメェの手で伯爵を殺したい一心でな」
「それが……僕……?」
「運がなかったな。移植された《記憶(メモリー)》は徐々に宿主を侵食し、お前を【14番目】に変えるだろう。兆しはあっただろ?
恭弥、これに関してはお前にとっては他人事じゃねェ」
唐突に話を振られる雲雀は素っ頓狂な声を上げる。アレンとクロスの会話の内容を理解はしつつも、雲雀にとっては過去の話、ただそれだけのはずだった。
「は……?クロス、それはどういう……意味」
「ノアじゃないが、無理矢理移植された脳はお前の自我をも奪う。奴を慕うあまりに、主導権を握ろうとリリィも必死なんだ」
「!!そういう、こと……何なんだよ、それって……ユウの為に生きてきた僕が馬鹿みたいじゃない……っ。結局僕は、どこにいっても居場所なんか……」
「マナが、愛してるっていったのは僕か、それとも。どっちに……」
唇を噛み膝を付いた雲雀と、隣で顔を俯かせて視線をただただ床に向けるしかないアレンにクロスが近くに寄って腰を下ろす。半分しか見えない顔からは表情を汲み取ることが出来なかった
「マナは【14番目】が死んだ日におかしくなった。リリィは行方を眩ました。過去を覚えていたかどうかもわからん。ただ外野で見てた俺にはな。……皮肉だな
(こんな子供(ガキ)どもだったとは)
宿主や、移植なんざ、もっとくだらない奴らがなってりゃよかったのに」
クロスは項垂れる2人を抱き寄せて顔を胸へと埋めさせたあと自嘲気味に笑う。片方の網羅一人の師であり、自身と同じ元帥である彼を思い浮かべながら。
「ティエドールのことも笑えんな、まったく……
【自我が奪われたり、【14番目】に為ったら、お前らは大事な人間を殺さなきゃならなくなる】……って、言ったら、どうする……?」
「まて……ま、てよ……」
雲雀達から離れて部屋を出ていこうとするクロスを引き留めようとする二人は間に入った鴉により術で拘束をされ、それ以上追いかけることが出来ずただ声を粗げていた
「僕達が大事な人を殺すって、どういう意味ですかッ!!」
「クロス、答えなよ!!言いたいことだけ言ってはい終わり、って馬っ鹿じゃない!?」
「師匠ぉッ」
「【14番目(じぶん)】と記憶にきけ」
「!?」
「この戦争にゃ、裏がある。今度は途中で死ぬんじゃねェぞ」
「時間です。ご退室を」
「うるせェな。わかってら」
「待ちなよ、飲んだくれ野郎!!」
「面会は終了です」
「はぁ!?物騒な捨て台詞残していくな────!!
ッのぉ、まってって……」
「言ってんでしょ、バカ(師/マリアン)──ッ!!」
アレンがティムキャンピーの背後で思いきり頭を降り下ろし、拘束を自力で解いた雲雀はイノセンスで作り出したトンファーを思いきり投げつける。それらは見事にクロスの後頭部へと命中し、次に起こったのは一時的な静寂
「「「「…………」」」」
カッ───
「ご退室を!元帥」
「ん?ナニ?よく聞こえない」
アレンに黒い眼差しを向けたクロスが鴉を押し退け今にも飛び掛かる勢いだったが、そんな彼に物怖じすることなく、未だにゼエゼエと息を切らしながらもアレンは叫ぶ
「こ……っ、教団(ここ)に入団した日……っ、何があっても立ち止まらない、命が尽きるまで歩き続けるってマナに誓った。誓ったのは僕だ!」
「!」
「自分が……【14番目】の《記憶(メモリー)》にどこまで操られてたのかなんてわかんないし、マナのことも、正直どう受け止めたらいいのか迷ってる。でも僕は今でもマナが大好きだ。このキモチだけは絶対……ッ、本物の僕の心だと思うから、だから僕は僕の意志でマナへの誓いを果たす。そう今、決めた!
【14番目】なんか知るもんかッ!それだけは絶ッッ対、譲りませんから!!」
「……僕はもう、大切なものを失いたくない。今まで色々な記憶を見てきたからハッキリ言う。
僕はユウが一番大切だ。それは今でも揺らがない、僕自身の気持ちだ。彼の恋人が僕の元の器であろうと、記憶の一部に【14番目】を慕う人が残っていても、全っ然関係ない。今、僕が好きなのはユウだ。この気持ちは誰にも譲らないし、絶対にユウを殺させるものか!」
はっきりと意志を告げた二人は一瞬顔を見合わせてからクロスへと向き直り、口を揃えて再び叫んだ
「「(師匠/クロス)の馬鹿──ッッ」」
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