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「リナのイノセンスが?」
「うん。リナリーは寄生型ではないことがわかった。でも、その前に…………ちょっとそこ、耳隠してくれるかな?真面目な話だから」
「僕ら真面目に聞いてます」
「気にしないで続けて……」
耳を押さえる雲雀の隣で苛々している神田など全員に共通していたのは右耳が大きく腫れていた。1つ咳払いしてからコムイはそのまま解析結果を伝えていく
「寄生型は人体とイノセンスが細胞レベルで結合し肉体を《対アクマ武器》に造り変える。つまり、イノセンスによる人体改造が行われた者のことなんだ。たとえば……アレンくんの左腕やクロウリーの牙、それから恭弥くんに新しく適合したと思われるイノセンスなら脳は発動していない時は人の体と同じ形態でいるが、その中身は人体とは別物の細胞組織でできている」
「まわりくどく言うな室長。要するに化物になるってことだろ」
「……っ、……(確かにそうだ。細胞自体が人間じゃない。そもそも僕は)」
「貴様は言葉を選べんのか、ソカロ」
「気にするな」
「……平気」
ソカロの一言に雲雀が顔を俯かせるのを見て神田は言葉をかける。同じやり取りをアレンとミランダも行っていたがコムイは言葉を続ける
「でもリナリーの足は検査したところ、そういった変化はみられませんでした。体内にイノセンスの反応もありません。ただこの足に残った《結晶》……これは元はリナリーの血液だったものですが、今ではまったく別の金属組織に変わっているんです」
「ヘブラスカもイノセンスの反応はここからすると言ってる」
「!なるほど……《血》か。適合者の体の一部……」
「これは装備型の進化型だ。適合者の血液と引き替えにそこからイノセンス自体が武器を生成するタイプ」
「元来装備型はイノセンスの制御が難しく、科学班による《武器化》で力を抑えなければなりませんが、この型は血が両者の媒介になってより強い力を制御できるものになったものと思われます。おそらく武器が損傷した場合も適合者の血液さえあれば修復も可能でしょう」
「血ねぇ……」
「グロいなぁぁ……」
「そんな顔しないで。言ってるこっちも同じ気持ちなんだから」
どんより、という雰囲気が漂う空気でコムイは真剣な眼差しに戻る
「一応ボクらでこれは《結晶型》と名付けた」
「結晶型……」
「ねぇ、コムイ。その結晶型ってリナだからこそって理由?」
「いや……まだ断定はできないが、おそらく他の装備型適合者にも起こる可能性は高いだろう」
「神さまは僕らを強くしたいってことか」
ティエドールの言葉に続いたコムイの言葉にその場にいたエクソシスト全員が思案するように沈黙する。雲雀はその言葉だけでなく先程までの説明を反芻しながら噛み締めるように目を閉じた
「……仕方ありません。先日の襲撃……江戸からの帰還直後でスキがあったとはいえ、元帥がいなければ本部は壊滅でした。これは弱気になって言うのではありませんが……私には伯爵が我々などいつでも殺せると、そう言ってるように感じました」
「(先の戦闘だけじゃない……最近稀に記憶が途切れることが増えてきた……。この前のレベル4との襲撃の時もアレは……)」
「恭弥くん、後でヘブラスカの元に行こうか」
「!あ、そうか……。頼むよ」
「それにしても2種のイノセンスが適合ってのも珍しい話だね。リナリーの結晶型だけじゃなく、アレン君のイノセンス、そして恭弥の2種のイノセンス……。恭弥に関しては何となく察しはつくけれど」
「師匠……」
「まぁ心配することはないさ。しばらく中央庁はマリアンの方に意識が向くだろうしね。君はしっかり休むといい。寄生型が発動してから何か変わったことは無いかい?」
「特に。アレンみたいに大食いになったらどうしようとか思ったけど、そんなこともないし……寄生型発動する少し前から身体能力が少し上がった気は……」
「実際そうだろ。組み手でもお前の動きが段違いに上がってる。特に跳躍力と反射神経……お前、昔は反射もクソもなかっただろ」
「痛覚がないと反射って起こりにくいからな。そこもまたウチら化学班が調べていかねぇと」
「さて、とりあえずこの話はここまでにしようか」
コムイの言葉に各々が散り散りに去っていくと雲雀とコムイだけが室長室に残る形となる。神田も何か言いたげだったが雲雀が後でと声をかけたことによりそのまま部屋を後にしたのだった
「さて、恭弥くん」
「……ヘブラスカのとこに行く前に、別件でしょ」
「流石だね。さっきはああ言っていたけど他になにか引っかかってることがあるんじゃないかい?」
「ユウにはまだ言ってないけど……最近たまに記憶が途切れる事がある。特に支障をきたしているわけではないけど、夢遊病とかじゃなくて、たまに自分の意識が消えて躯だけが動いてる、そんな感じ」
「……君は特殊なケースだ。異世界のこともあるけど、それ以前に躯と記憶が別人のものという時点でもそうだ。証明されている訳では無いけど、記憶転移という可能性もあるし、正解は分からない。でも、僕には君のその記憶が途切れる現象は、その躯の持ち主に酷く関わっている。そう思うんだ
ちなみに気がついた時はどう言った場所にいるんだい?」
「最近、気がついたらアレンの部屋の前とか、食堂とか……さっきはユウが組み手をする少し前にアレンに話しかけてて、結果ユウもきたからそのまま組み手になったけど。なんか、アレンの背中を追ってるみたいで、その」
「……でもアレン君はまだ若いし、君の躯との関わりはわからない……か。クロス元帥ならもう少し詳しいんだろうけど
わかった、できるだけこっちでも調べてみよう」
「うん……お願い。あと、この話は師匠やユウには」
「言わないよ。心配かけたくないんだろう?」
「ありがとう」
「……最近よくその言葉を聞くようになったね。嬉しいよ」
「そこまで不義理なつもりもないし」
ぷい、とそっぽ向くようにしてコムイから視線を外す雲雀とそんな姿の彼を微笑ましくコムイは見ていた。その眼差しは本当の兄のように注がれていたが雲雀は気が付かなかった
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