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「行け、恭弥!」
「……イノセンス、発動──《朱雀》!!」
雲雀は目を閉じて凛と告げると一本の蒼い刀が出来上がる、その様子にその場にいたクロス以外の全員が目を見開く
「あれは、一体……!」
「恭弥の体に眠っていたイノセンスだ。……ようやくお目覚めってところだな」
「まだ使いなれないから、今は動きを止めるだけでいい」
退魔の剣から足を離し落下するようにレベル4に近づいて新たなイノセンスである《朱雀》を降り下ろす。それを防ぐようにレベル4も抵抗していく
「こんなもの、すぐにおってあげます」
「クロス!」
「あぁ。初めての発動にしては、上出来だ」
雲雀がアレン達から距離をとり、身を屈めるとその背後ではクロスは断罪者を構えていた。タバコをふかしながらいつものようにクロスは笑っている
「お前がブッ壊れる理由を教えてやろうか」
────バンッ
「ぎ、ぎぎぎぎぎっ……!ふ……っ、あまく……みられたものですね…っ!こんなもの!!」
「見えたのは、一発だけか?」
クロスの放った弾丸を弾くようにレベル4は嗤っているが、クロスもまた余裕の笑みを零している。そして断罪者から落とした落とした弾発は一発ではなく六発だった
「えっ」
「(相変わらず弾丸は見えなかった……ほんと、一番食えない元帥)」
撃たれたのは頭と右肩、胸と腹に両太もも、そこからレベル4は膨らみはじめる
「……うそ」
「おっとそうだ理由だったな。一発は教団(ココ)の連中の分ってことにしてやろう……一応な。オレだってそこまで酷い人間じゃない。んで一発は恭弥の安眠を妨害した分。あいつの居眠りを邪魔するとうるせェんだよ」
「分かってるじゃない」
「で、残りは──オレの服を台無しにした分だ」
クロスは高らかに笑っていたことに雲雀は顔をひきつらせていたがいつものことだと諦め半分のため息もつく。
「はーっはっはっはっはっ!!」
「クロスらしいっちゃ、クロスらしいか……」
「おおおおおおおおおっ!」
イノセンスの攻撃を受けながらもレベル4は爆発する前に上に逃げようと飛びあがる。そのしぶとさに雲雀は感嘆を示す一方でルベリエが声を上げていた
「上に逃れるつもりだっ!シャッターを閉めろ!ヘブラスカ!」
「ダメだ、間に合わな……」
「道化ノ帯!」
上へ飛び続けるレベル4のボディにアレンの伸ばした帯が巻きつく。
「行、かっ、せる、か!お前はここで破壊する!」
「うごおおおっ……!!」
「ほら、ガンバレガンバレ。来いよ……たぁっっぷり遊んでやるぜぇ」
手すりのところで待機しているのはソカロとクラウド、その姿を見たレベル4は動きを止める。そして下からは雲雀が朱雀を構えていた
「逃がすつもりはないよ。──風音(かざおと)」
雲雀が朱雀を振り回すと辺りに突風が吹きレベル4の体に無数の傷をつけていく。その間にアレンとリナリーがレベル4へと突っ込み、体を貫いていく
「ちくしょう…くやしいなぁ。でも、いっぱいころしてやったよ、はくしゃくさま…」
ドオオオン、と大きな音を立ててレベル4はシャッターを目前にそこで爆発する。上から落ちてきたのはレベル4の頭。頭だけになっても嗤いつづけていた
「くくく…くはははははっ!いいきにならないでくださいね。ぼくていどをはかいしたくらいで……おまえたちなんていつでもほろぼせるっ!おまえもめざめた!かつのは、われわれなのだ」
「ぶぇっくしょい」
「おっと、サンプルにするつもりだったのに。(恭弥の目覚めは吉と出るか凶と出るか)」
明らかに棒読みと分かるくしゃみと共にレベル4の頭は破壊される。クロスの考えもつゆ知らず、雲雀は神田の元に降り立っていくと先程まで構えられていた朱雀は手元から消えた
「……ふぅ…」
「それは、恭弥のイノセンスか?」
「っぽい。《寄生型》のイノセンスで《朱雀》ってことまでは覚えてる。元々この躯にあったらしいけど、無意識に封じてたみたいだし。さっき起きた時に思い出した」
「今まで知らなかったのは俺が封じたからだ。あの頃のお前じゃ、アレは使いこなせねぇ。自分を殺すかもしれねぇイノセンスを使わせるわけにはいかねぇだろ」
雲雀の隣にやってきたクロスの言葉に2人は《自分を殺すかもしれない》、その言葉に疑問符を浮かべる
「……どういうこと?」
「アレはお前の脳に寄生しているイノセンス。想像さえすりゃ、何でも作れるはずだ。力量の足りねぇ適合者だと、自分の神経を蝕み、我を忘れて咎落ちしてもおかしくねぇ厄介なイノセンスだが……方舟の一件を終えたお前だからこそ扱えるイノセンスだ」
「僕の新しいイノセンス……。だから、すぐに頭に思い浮かんだ烈火のような形状になったんだ……」
「だが、多用はするな。元々寄生型は短命だが、そのイノセンスは使えば使うほど身体能力を上げ、お前の体を蝕む。お前の体とは相性が悪い。寿命が縮むぞ」
「!!」
「……そう。……疲労感が凄い。《寄生型》、こんな感じなんだ……」
そう呟くと同時に雲雀は地面へと崩れ落ちる。立ち上がろうと脚を立てたり、体を動かそうと身を捩るが動く気配はない
「……力が、入らない」
「初めはそんなもんだ。おぶってやろうか?」
「やだ。ユウがいい」
「ほら」
神田が腰を下ろして雲雀を背負うとクロスはタバコを踏みつけながら身を翻す。その背中越しに雲雀へと言葉を投げかける
「恭弥、ティムの録音機能に俺からの伝言を他にも録音している。パスワードを言っておくから、それを聞いておけ」
「クロス……?」
「中央の奴らと話してくる。アレンだけじゃない。お前もこれから狙われるかもしれねぇ、ってことは覚えてろ」
「なんで、僕まで」
今は話せない、それだけを告げてクロスはルベリエの元に向かう。その背中を見ながら雲雀は神田の背中で更に疑問符を増やしていく
「「何なんだ、あの人は」」
「ぷっ、」
「なに笑ってんだよ」
「終わったんだな、と思って。…ごめん……」
「あ?」
「……たくさん、ユウに酷いこと言っちゃったから。ユウが悪いわけじゃないのに……」
「別に。アレはお前の所為じゃねぇよ。……俺もちゃんと話さなかったしな。それより、早く行くぞ」
「うん」
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