「……ハァ……ハァッ……くそが……っ(短時間に命を削り過ぎたせいか……)」

「………ユウ……」

「恭弥、か……?」

神田が片膝を付いていた目の前に立つのは先程、またあとで、と告げて向かうべき敵へと対峙すべく別れた雲雀の姿。少し先にはうつ伏せになったカルテが視界に入り神田は問う。彼もまたスキンを辛うじて倒し終えたばかりだった

「その様子じゃ、倒したのか……?」

「…………」

「恭弥……?」

「ユウ……逃げ、て……っ

雲雀の口が動くのと、風を切る音、金属音が鳴るのはほぼ同時だった。激戦の末、ボロボロになった六幻と交じっているのは間違いなく、雲雀自身の烈火で神田を狙っているのは正真正銘雲雀の姿

「恭、弥……どうしたんだよ。俺が分からないのか!」

「……ユウが生きている限りぼくは……」

「!!」

その言葉は紛れもなく、神田の過去の罪であり咎である、ある存在の言葉。それはその存在の言葉(のろい)であり、雲雀自身が紡ぐとは思えない言葉だった

「あーあ、ラースラのやつ、ボロボロじゃねぇかよォ」

「テメェ、は……!死んだんじゃねぇのか……!」

「面白いことなってんじゃねェ?どうよ、好きなやつに刺されるかもしれねぇ気分ってやつは」

「テメェの仕業か……!コイツを戻せ!!」

「嫌だなァ、勘違いすんなよォ……神田ユウ。俺は恭弥の《自我》と《自由》を剥奪しただけだぜェ?」

「剥奪だと?」

「《万物の剥奪》それが俺の能力。全てを奪う。勿論それが形のないものであっても、だァ。ただ、俺が操ってるわけじゃねェ。恭弥は《自我》を失えばそこにあるのは移植された記憶、そして《自由》を失えば記憶に基づいた行動

──つまり今目の前にいるソイツは《神田ユウ》だった頃の傀儡だ」

「ちっ……めんどくせぇことしやがって……!恭弥……戻ってこい」

「何言っても無駄だと思うけどなァ……」

「無駄かどうかは……やらなきゃ分からねェよ……!」

神田が六幻を振るい烈火と交じる音が響く。連戦のせいか、呪符のせいか意識が朦朧としてくる神田は時折、体が崩れ落ちそうになるのを耐えながら雲雀の攻撃を防いでいたが、ポタリ。と音を立てながら滴る赤黒い血を確認し僅かながら目を見開く。先程まで抑えていた脇腹だけでなく、体の至る所から出血をしており、前髪で見えていなかった瞳が下から見上げる形になったおかげで、赤い瞳を確認する。それが意味する理由を神田は当然知っていた

「!お、い……まさか……!

「気づいたァ?俺と勝負している時に第四制御まで解除したんだァ。ソレって痛覚と引き換えにイノセンスの力を高めるんだろォ?」

烈火の第四制御、神田の三幻式と同じように自身の命を吸う代わりに高めるというもので……。雲雀の場合は痛覚を差し出すことでさらに高めるものだけでなく、自身の寿命も削るものだった。これ以上戦えば間違いなく恭弥の体は限界を迎えてしまうことを察し、神田が舌打ちをする

「ちっ……!」

「さぁ、どーするよォ。つっても俺はこれから高みの見物させてもらうけどなァ。ここもそう長くないみたいだしよォ」

カルテ・フォーロの姿が揺らぎ、気配が消えたその刹那、言葉通り、部屋の崩壊が始まり、地震や周辺の景色が崩れていく

「ますますチンタラしてられねェな……」

「…………っ、死んでよ、ねぇ……。じゃないと、」

その言葉の先を聞くよりも早く神田は雲雀との間合いを詰め、六幻から手を離す。地面に落ちる六幻を気にすることなく襲い来る烈火の突きを横腹に受けながらも神田は雲雀の体を壊れ物のようにそっと抱きしめる

「……恭弥、……俺はいつでもお前と一緒にいる。そんな泣きそうな顔すんじゃねェ、よ……」

「…………ユ、ウ……?」

「恭弥の好きな寿司食って……、その目の前で俺は……ジェリーの蕎麦を食って……、森に行ってから手合わせして……それから一緒に風呂に入って、疲れたっつって、同じベッドで寝て……、んで、また朝になったら飯食って……コムイの奴からの任務言われたり、元帥のめんどくせぇ絡みから逃げたり……、いつも無茶するお前を止めて……マリからお前引き剥がしたり……。教団に、帰らねぇと何も出来ねぇ、ぞ……っ」

「………っ、……な、に……」

「俺は!……あの人よりも、今みてぇに、無茶するお前の為に……!死ぬわけにはいかねェんだよ……!お前は俺じゃねぇし、お前は我儘なんだろ、自我くらいさっさと取り戻してこい……!!!」

「……っ、ユ、ウ……っ!ぁ、ぁぁあぁ……っ!ユウ……!嫌だ……!殺したくない。ほんとは殺したくない……!死なないで……死なないでよ……!!まだ生きたい……ッ!!!」

目が徐々に光を取り戻して、涙を溢れさせていく雲雀に神田は体重を預けながら微笑む。

「戻ってくるのが、遅ェんだよ……泣き虫。だから俺とは、違うんだよ」

「ユウ……っ」

「俺は、死なねェよ……。俺が死んだらお前の無茶を誰が止めんだ……」

「全く、だよ……っ。そんなお節介、ユウだけなのに……っ」

「当たり前だ……。他の奴等にさせて、たまるかよ……。つーか、いい加減泣き止め……テメェの泣き顔って嫌いなんだ、よ……」

「……う、ん……っ。ごめん、ごめん……僕、ユウを……刺し……っ」

雲雀が涙を堪えるように身体を震わせながらも、烈火の刺さっていた部分に雲雀が手を翳すと呪符の効果が出るよりも早く神田の傷が徐々に治っていく。普段なら制止をかける神田も今は何を言っても無駄だろうと、無言でされるがままだった。刺傷が治ったのを確認すると雲雀の腕を掴むと、残っていた涙を乱暴に拭った

「もういい。使いすぎるな。……それよりも、覚えてるんだな……」

「意識が消えて、体が勝手に動いた。カルテが本当の能力は剥奪だって言って……っ、気がついたらユウを殺そうとした……」

「……そうか。とにかくここから脱出……」

「奴を……許すな……」


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