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「あぁ、胸糞悪いの思い出した。……礼代わりに誠心誠意戦うって言ったっけ」
「……思い出しやがったか。そのまま水底に置き忘れてくれりゃいいのによォ」
「よく言うよ。……やはり君は人間らしいね、前に僕に助言したこと後悔させてあげるよ」
「へぇ……人間、ねェ」
「君は僕が咬み殺して破壊してあげるよ」
目の前にいるカルテ・フォーロを睨み付けながら雲雀は烈火を振り回しながら構える。その言葉を聞きながらも神田は同じように金色の鎧を纏ったスキン・ボリックへと問う
「……。戦えるんだな、お前。何度か、アクマ共に紛れて来てたのは知ってたが、いつもただオレ達を見てるだけだったから戦えないのかと思ったぜ」
「ああ。だって……お前ら、三人いただろ」
「(三人?マリと元帥にユウだとしたら、デイシャは?そういえば見てない)」
「……デイシャは殺られた。イエーガー元帥と同じやつに、だ」
「!……そう……。年、近かったから色々話したかったのにな」
「お前は俺達が三人で行動していた。それがどうした」
「1番目、2番目、3番目。一対一で殺る順番をずっと考えていたんだ」
「ふーん、で?決まったのか?」
「(見かけ通り、アホっぽい……)」
「お前と今、一対一できそうだからお前が1番だな!その次は、お前だ」
「「「成り行きかよ(ォ)」」」
「(しれっと僕まで巻き添えなんだけど)」
突っ込みながらも笑みを絶やさないでいたカルテが無表情になり殺気を立ててスキンを睨む。しかしスキンは気が付かず笑いながら言葉を続けた
「己はノア一族、スキン・ボリックだ。お前らはティエドール部隊のなんて奴だ」
「神田だ」
「……雲雀」
「スキン、俺の獲物捕ったら食らうからなァ」
「そうか。──甘いのは好きか?」
カルテに至っては無視されたことが更に癪に障ったのか表情を更に歪めており、苛立ちを隠すこともしなかった。そんなカルテからやがて視線を外し、背後にいるスキンへと首だけ振り向いた雲雀と対峙する神田は口角を上げる
「「大っ嫌いだ(な/よ)」」
「六幻、発動」
「烈火、発動。ユウ、また後でね」
その言葉を皮切りに雲雀が右足を蹴りあげカルテが氷柱剣戟によって作られた槍と烈火がぶつかり金属音が鳴り響く。一方、神田とスキンの戦闘も始まる
「あぁ。絶対に戻ってこい」
「当然」
「ふぅん、船の時よりも強くなってんじゃねぇのォ。面白くなりそォ」
「楽しむつもりは無いよ。業火──旋回!」
「!」
一対の武器を組み合わせ、日本刀になった烈火を地面に突き立てると現れるのは竜を象った炎。その技はラビの技に酷似しており
「ぷっは!炎のシャワーってかァ?服が焦げちまったじゃねぇかよォ!しかもその技、ブックマンの後継者の技だなァ!江戸で見たぞォ!」
「……やっぱりか。その時もなんとなく気配を感じていた。僕よりも君の方が矛盾してるんじゃない?助けたり殺そうとしたり、さ!」
ガキン、とまた金属音がぶつかり反響音のように響く。刀と槍の刀身がぶつかる周辺では雷撃も落ちており、落雷が伴うフィールドとなっていた
雷撃を避ければカルテの槍の剣戟が襲い、剣戟を避ければ落雷が襲ってくる状況に雲雀は攻めきれずに歯噛みをする
「お前から見たらそうなんだろう、よォ!」
「(出血を止める意識すらも割いてられない、か)……このままじゃ埒が明かない。だったら……第四制御、解除
。僕の痛覚と命を引き換えに高まれ、業火──絢爛!!」
神田がイノセンスを発動させるのと同じ仕草──刀身をなぞると炎が一層燃え上がり、烈火を振るう。雲雀とカルテの周辺一面に放射され、舞い上がった炎が再び龍の形を取るとそのままカルテを狙う
「……っ、はぁ、はぁ……っ、」
「く、っそ……!まだそんな力が、」
カルテのいた場所に足を引きずらせながら雲雀は歩み寄れば左腕を押さえて苦悶の表情を浮かべていたがやがてカルテは表情を険しくし、左腕を一瞥しては大袈裟に叫び始める
「う、ぅあぁぁ……!俺の腕ェ!!!!!
──なんちゃってェ〜♪」
「!!」
焼けただれていたはずの腕が、火傷もなく、切り傷もない状態まで回復しており、その光景を目の前にして目を見開く。そんな表情の変化を見ながらカルテは槍を下ろし、いつものように楽しそうに笑っていた
「言うの忘れてたけどさァ、俺の能力って《万物の剥奪》なんだよねェ」
「は?剥奪と、その回復になんの意味が……っ、」
「神田ユウの呪符、それを効能を一時的に早めればどうなると思ゥ?」
「!?まさか、」
「まっ!それがなくても俺は元々傷の回復は早ぇんだけどなァ。俺たちは不死身って誰が言ったか知んねぇけど、一応は死ぬぜ?殺せるやつがいなかったってだけで」
「……つまりは一撃で決めないと君は破壊できないわけだ」
「ギャハッ、それができりゃいいけどなァ!ま、俺にはノアの能力も剥奪できるわけでェ、こんなことも出来ちゃうわけよォ」
「ユウが生きている限りぼくは……」「───っ!?」
雲雀の脳裏に過る記憶。《
神田ユウ》としての最期の記憶、言葉が流れ、雲雀は膝をつき頭を抱えた。烈火を地面に突き立てると耐えるように刀身を支えにふらりと立ち上がる
その様子を眺めながら、カルテは指をパチンと鳴らし、囁くように雲雀を抱きしめた
「《狂えよ》、恭弥」
「アル、マ…………。そうだ……ユウを、殺さないと」出さないようにと蓋をしていたものを壊され、懐かしくも残酷な名前を呟きながら雲雀の意識はぷつんと途切れる
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