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「よ、大将。こんなところで奇遇さね」
「ユ、ウ……!!?」
「(バカ兎たちもいるのに呼び方がファーストネームになってやがる。……それに、)何泣きそうな顔になってんだ、恭弥。それに、お前らは何やってんだよ」
「なんかウチの元帥が江戸で仕事があるとかで。てか、あいつは……て、あれ?」
「……今まで何やってたのさ、馬鹿!遅い!」
「こっちの元帥の性格を知ってるだろうが!」
「煩い!僕だって……っ、……!」
目にうっすら涙を浮かべる雲雀に神田が少し目を見開いたが、雲雀の目にたまった涙を荒っぽく拭いながら、後ろにいるラビへと視線を向けた後軽々と持ち上げて肩に俵かつぎのように抱える
「……バカ兎、この馬鹿鳥を借りるぞ」
「は!?何してんの!ばか!!」
「(いつ見ても仲良しさ……)俺はリナリーんとこに行ってくるさ」
「…………はァ」
しばらく離れてから雲雀を下ろすと小さくため息をついて真っ直ぐ向き直ると体温を感じるように手の甲を雲雀の頬へと添える
「ユウがいなくて、ずっと通信も繋がらなくて……、マリたちの探知もできなくて」
「悪い……こっちも色々あった。……無事でよかった」
「……よかった……また、会えた」
「あぁ、そうだな。恭弥が江戸にいると聞いたが、……無茶ばかりするから不安にはなった」
「ご、めん……っ。!ユ、ウ……まずい……っ、来る……!」
小刻みに震える雲雀の様子に神田は臨戦態勢を取りながら、雲雀を庇うように前に立つ。そして六幻を構えたとほぼ同時に衝撃波が二人を襲う
「ハァッ、ヤロォ。倒れっかよボケ……っ」
「ユウ……!傷が……っ」
「気にすんな、直に治る」
「で、も……」
「恭弥、傷は……」
「僕は無いけど……。!ユウ、あれ!」
雲雀が指差した先にはラビとその近くにリナリーを守るように聳え立つ結晶。その結晶に見覚えがあった雲雀は目を見開く
「おい、何だコレは?」
「これ、リナだ……。あの時と、同じ……」
《危ないよ!伯爵がリーと恭弥を見てる!!》
「っ危険だぞ、神田ッ!恭弥ッ!」
ティエドールの叫びにマリは神田と雲雀はへと声を張った。その刹那、神田の目の前にティキが現れると同時に雲雀の腹部へと拳を沈めた
「ーーッ、がはっ」
「千年公からの命令でさ。もらうよ、恭弥」
「ちっ、渡すつもりは更々ねぇよ!」
「な、んで、僕を……っ!」
「さぁね。千年公が欲しがってんだよね、恭弥のこと」
「……は?僕は、あいつの元なんていくものか。行くくらいなら舌を噛み切ってやる」
「誰が欲しようが、俺の答えは一つだ。──雲雀恭弥は誰にも渡さねぇ!」
「!!」
腹部を抑えながらも襲ってきたノアの一人……ティキ・ミックを睨みつけていた雲雀。そして爆風と共に神田とティキの姿が消える。そして入れ替わるようにラビが雲雀の元へと駆けてくる
「ユウの馬鹿……!一人で無茶して、人に言うくせに自分ばっかり無茶してるじゃない……!!」
「恭弥!無事さ!?」
「ラ、ビ……!ユウが、ユウが……!!」
「恭弥、落ち着くさ!」
「ユウが、一人で……!」
タン、と音を立てて着地した人物に神田かと思いラビはそちらへと視線をやるが、そこにいたのは意外な人物だった
「え?ラビ?恭弥も!?」
「ア、レン……?」
「う、そ……え、何で?」
「!伯爵がこっちに来ませんでしたか!?」
焦ったように訊ねるアレンに雲雀とラビは戸惑うばかりだった。その矢先、また別の人物が煙の中から現れてアレンへと襲いかかる
「まちやがれコラァ!死ねぇ!」
「ユウ!?」
アレンに斬り掛かったのは鬼の形相の神田。反射的に襲われたアレンもイノセンスで神田の攻撃を防ぐ
「か、神田っ!僕ですよ!」
「どういう事だ……っ」
「僕が聞きたいんですけど」
「俺は天パのノアを追ってきたんだ!知らねぇか!」
「あれ?そういや、オレの相手してたマッチョのおっさんも……」
ラビは辺りを見回すがそこには誰の姿もなく……。ノアが全員いなくなったことに気がつく。そのことに対して神田は聞こえるように舌打ちをする
「……チッ」
「ちょ!なんで僕に舌打ちするんですか、邪魔しやがって的な。逃げられたのは、神田がノロマだからでしょう。ってか何恭弥を泣かせてるんですか」
「おい今何つった?つかテメェ後からノコノコ現れて何言ってんだよ、ノロモヤシ。先に恭弥を泣かせたのはテメェだろうが」
「アレンですって。何回言えばいいんですか。そうか、神田は頭もノロマなんですね。今恭弥が泣いてるのは神田のせいでしょう」
「いい度胸だ。どっちがノロマが教えてやる。それに恭弥恭弥連呼すんじゃねぇよ」
「落ち着くさ、二人とも……」
「「うるせェ!刈るぞ」」
「……よかっ、たぁ……」
「!オイ、恭弥!!」
ぐらりと安心感からか雲雀は気を失って地面に崩れ落ちる寸前で神田が受け止める。マリたちと共にティエドール達と合流するために抱え直し神田は歩き始めた
「……ん……っ、ユ、ウ……離れ、ないで……」
「離れっかよ、バカ」
横になりながら、小さく唸った雲雀の頬に流れる一筋の涙を今度は優しく拭いながら神田は静かに呟いて口角を上げた
「……っ、……」
「起きたか?」
「ユ、ウ……?あ、そうだ……怪我、見せて……」
「……これぐらい……」
「見せて」
上半身を起き上がらせた強い口調の雲雀に逆らえず神田は渋々、傷口を見せると雲雀は手を翳す。そこから少しずつ傷が癒えていくのを見ながら神田は目を見開く
「……よかった。これなら、ユウの体も受け入れてくれた……」
「恭弥、お前……何を……」
「……一時的な、治癒能力。対価はそれなりにいるから多用は出来ない……ごめんね」
「お前まさか……。いや、今のお前に言っても無駄か。ありがとな」
神田が諦めも含めた声で答えながらも雲雀の頭を撫でながら礼を告げると答えるようにふわりと雲雀が微笑んだ。その瞬間、雲雀の足元にペンタクルが現れる
「「!?」」
「ぇ……」
ズズズズ……と茫然とする雲雀を地面へと引き込んでいく。そんな雲雀の手を神田が握りしめると2人揃って地面から姿が消える