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「ちょだっだだだだだぁああ───!!」
江戸に向かう水路の途中。アクマは船を後方から力一杯押していた。そんな様子を見ながらラビは窓から顔を出しながら声を上げる
「おおーぅ、速っえぇさー!すげェな、アクマはっ!!でも、こんなスッ飛ばして体力(エネルギー)もつんか、ちょめ助」
「《ちょめ助》!?オイラ、《ちょめ助》になっちょっちょっ!?でもカワイイっVv」
「まぁ悪くないんじゃない?」
窓を開けるラビの横からひょこっと顔を出す雲雀は口を挟んだ。そんな会話をしながらもアクマは船を押し出しながらスピードを早めていく
「時間が無いっちょ!少しでも江戸に近づかなっちょ!!」
「時間て……お前、なんか慌ててんさ?」
「……オイラの都合だっちょ!ちょちょちょ──!!」
「でも、こっちも早く江戸に着けた方が助かるよ。ミランダの疲労が激しいの。アクマの攻撃で受けたダメージがすべて刻盤に流れ込んでるんだもの。体力も、だいぶ消耗するわ」
「うう……」
「大丈夫か、ミランダ?ご、ごめんなちゃんと守ってやれんくて……」
「いいえ……ごめんな……さい。ごめんなさい、私……江戸までもたないと思う……」
「気にすんなさ」
「ちがうの…………。ごめんなさ……それだけじゃなくて……私は……私は、これから……」
「…………」
「ところで雲雀はミランダと何処で知り合ったんさ」
「途中で本部に呼ばれて向かったら一緒に向かえってコムイから言われた。まぁ能力が能力なだけあって、そのまま死なせるには惜しかったし。……ただ、精神的にはキツいだろうけど」
外を見ながら雲雀がぽそりと呟く背後で
泣きじゃくるミランダをリナリーは抱き締めると静かに口を開く
「ミランダ……ひとりで背負っちゃダメだよ?エクソシストはあなただけじゃない。みんな、一緒だからね。私達は……一緒に踏む道だからね」
「(……雨…僕の大嫌いな、天気だ)」
雲雀達エクソシストとアクマーーちょめ助はアニタ達に甲板へと呼ばれやって来る。そこにはアニタとマホジャ、その他の船員3人しかいなかった
「あの……船員方の姿が全然見えないであるぞ?」
「あっ、ホントだ。どこに……」
「!まさか……っ」
「ごめんなさい。船員(カレ)らには見送りは不要と伝えました」
「今は船内で宴会して騒いでます」
「どうか、お許しください。最期の時を各々の思うように過ごさせてやりたかったのです」
「生き残ったのは、あなた達だけってこと?」
「……っ!!」
悲しみに俯くミランダの肩にアニタが手を添える。その様子を雲雀たちは静かに見守っていた
「良いのです。私達は皆、アクマに家族を殺され、サポーターになった。復讐の中でしか生きられなくなった人間なのですから。我ら同志の誰ひとり、後悔はしていません」
「江戸へ進むと、我らがつくった道を引き返さないと、あなた方は言ってくださった。それが、とても嬉しいです」
《勝ってください、エクソシスト様!!》
マホジャの言葉が終わると同時に船に声が響き渡る。その言葉に甲板にやって来ていた船員たちにもどよめきが起こる。そんなことも気にせず拡声器からの声は留まることを知らなかった
《我らの分まで、進んでいってください!先へ!》
「拡声器から……!?」
《我らの命を未来へ、つなげてください!!》
「船員さん達だわ……っ」
「みんな……」
《生き残った我らの仲間を守ってください…………》
「!」
「あいつら、何を……っ」
《生きて欲しいです!平和な……未来で我らの同志が少しでも、生きて欲しい……っ。──勝ってください、エクソシスト様!!》
「これだから、雨は嫌いだ……。雨はこんな出来事に限って降るんだから……。これ以上大切なものを作ることは許されない。そんな資格、僕には無いんだ」
空を見上げて雲雀は目を閉じながら呟くがそれは雨音に掻き消される。その間に小さい船に移動する準備が着々と進んでいく
「江戸までまだ距離がある。とりあえず近い伊豆へオイラが連れてってやるっちょ」
「足元、気をつけて……」
「必ず、お役に立ちます!」
「ありがとうございます」
リナリーが残った船員と握手を交わして次はアニタへとその手を差し出した。しかし、その手は捕まれることなくリナリーの頬へと添えられる
「髪……また伸ばしてね。とても綺麗な黒髪なんだもの。戦争なんかに負けちゃダメよ?
さようなら」
「アニタさんっ!?え……そんな……!そんな……」
「……アニタ……あなたは、立派な女性だよ」
「ありがとう。クロス様によろしくお伝えください」
雲雀は刻盤を解かれて沈みゆく船から目を離さなかった。リナリーたちは船へと、アニタたち船員たちへと必死に声をかける。
「……必ず、必ず勝ちます。必ず……!!」
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