《いいねぇ、青い空。エメラルドグリーンの海。ベルファヴォーレイタリアン♪》

「だから何だ」

頬にあったガーゼを外しながら神田は電話の相手に素っ気なく答えた。その様子はいつもと変わらないからから電話の相手……コムイは悔しそうに言葉を続ける

《「何だ」?フフン♪羨ましいんだい、ちくしょーめっ!アクマ退治の報告からもう三日!何してんのさ!ボクなんか、みんなにコキ使われて外にも出られないまるで、お城に幽閉されたプリンセ……「わめくなよ、シスコン」……恭弥くーん?》

「寝起き早々、シスコンの声とか最悪……」

頭を押さえながら雲雀は言えば神田は刺さっていた点滴を無理矢理取り外す。雲雀は身を起こしながら神田へとすり、と体を擦り寄せたあと小さく微笑む

「おはよう」

「おはよう、ユウ」

「あと、それについての文句はアイツに言えよ。つか、コムイ!俺、アイツと合わねェ」

《神田くんは誰とも合わないじゃないの。あ、恭弥くんとは合うのか。朝からイチャイチャしてくれちゃって!で、アレンくんは?》

「まだ、あの都市で人形と一緒にいる!!」

《そのララっていう人形……そろそろなのかい?》

「多分な。もうアレは五百年動いてた時の人形じゃない。じき止まる」

「……そっか……取り出したんだ」

「経緯はまた話してやる。それと、着替えだ」

「分かった」

雲雀は団服を受けとるとシャツの上から袖を通す。その体には傷ひとつなく、間もなくノックもせずに現れた医者が入ってくると二人を見て目を見開く。しかし、すぐに我に帰ると彼らの行動に慌て始める

「ちょっとちょっと何してんだい!?いや、それより君はどうして起き上がってるの!?」

神田から雲雀に視線を移した医者に手慣れたようにスッ、とトマが名刺を差し出す

「帰る。金はそこに請求してくれ」

「世話になったね」

「ダメダメ!あなた全治5ヶ月の重症患者!それにあなたも全治6ヶ月以上!出血が致死量を越えていたのに、起きちゃダメ!」

「「治った」」

「そんなワケないでしょ!!」

「じゃあ見てごらんよ」

雲雀はシャツを捲りあげて負傷していた横腹を見せるとそこは負傷していたこと自体が嘘だったかのように綺麗に消えていた。その隣では神田が包帯を外して医者へと押し付けてシャツを羽織る

「(梵字は広がってない……よかった……)」

「世話になった。行くぞ、恭弥」

「うん」

電話をゴーレムで繋いだまま神田と雲雀は病室をあとにした。そこに残された医者はポツリと呟く

「そ、そんなバカな……傷が消えてる……。それにあの子は死んでもおかしくなかった状態だったのに……」



《今回のケガは時間かかったね、神田くん。恭弥くんもついさっきまで起きなかったらしいし》

「でも治った」

「治れば問題ないよ」

《でも、時間がかかってきたり、痛覚を感じなくなってきたってことはガタが来て始めてるってことだ。計り間違えちゃいけないよ。──キミ達の命の残量をね》

「…………」

「で、何の用だ。イタ電なら切るぞ、コラ」

「目覚ましに嫌なものを聞かされたんだ。それなりの理由が無いとこれから一切受け取らないから」

《ギャ────、ちょっとリーバーくん聞いた!?今の辛辣かつ残酷な言葉!!》

《は?》

「リーバーに同意求めても無駄でしょ。ってかイタ電なわけ?」

《違いますぅー。次の任務の……》

コムイの言葉にやっとか、と言わんばかりの表情を見せた雲雀はそのまま神田の隣を歩き、コムイからの任務の内容を聞いた後気を失った後の経緯も神田から掻い摘んで告げられる。やがて連絡を終えた後に顔を俯かせているアレンを見つけて頭上から声をかける

「何寝てるの。イノセンスは見張らなきゃダメでしょ」

「あれ……?全治5ヶ月と、意識不明の重症だった人がなんで、こんな所にいるんですか?」

「「治った」」

「ウソでしょ……」

「うるせェ」

「コムイからの伝達。僕と神田はこのまま次の任務に行くから、君は本部にイノセンスを届けてきな、歩く人……アレン・ウォーカー」

顔を膝に埋めるアレンに雲雀は手短に伝えると少しだけ驚きを交えた声でアレンは顔を上げて答える。

「……わかりました。って、今……」

「別に君を認めたわけじゃない。でも……神田と僕を助けてくれたことには変わりないし、そのまま立ち止まっていると足手纏いなだけだから。ただそれだけ」

「…………。辛いなら、人形止めてこい。あれはもう《ララ》じゃないんだろ」

「ふたりの約束なんですよ。人形(ララ)を壊すのはグゾルさんじゃないとダメなんです」

「甘いな、お前は。俺達は《破壊者》だ。《救済者》じゃないんだぜ」

「……わかってますよ。でも、僕は……」

「歌が、止まった……」

聖堂へと足を踏み入れるとそこに在るのは二つの遺された体。子守唄と共に人形が止まったのはグゾルが死んで三日目の夜だった

「ありがとう……壊れるまで歌わせてくれて。私は十分幸せだった。これで約束が守れたわ。あなたは……我慢しなくていいよ……私にグゾルがいてくれたように、あなたにも彼がいるから」

「……!……ありがとう……」

「どうした?」

「……ううん、なんでもない」

神田がいることを確かめるように雲雀は手を握ると神田も当然のように握り返す。そこに互いが存在するという温度を感じながら──

「神田、雲雀……。それでも僕は誰かを救う《破壊者》になりたいです」



土翁と空夜のアリア──END



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