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トマの言葉と共に雲雀と神田は振り返るとそこに立っていたのは左右逆のアレンが神田の名前を呼んでいた
「さ、左右逆……っ」
「どうやらとんだ馬鹿のようだな」
「カ…ン…ダ…ド…ノ」
「!」
「災厄招来!
──界蟲一幻!無に還れ!」
「神田!そいつはアクマじゃない!」
違和感に気がついた雲雀の制止の声もアレンのような姿のモノに界蟲一幻が当たる寸前で攻撃は止められる。そこにはアレンの左腕が武器化した状態で立っていた
「!!」
「ウォ…ウォーカー殿……」
「キミは……?」
「モヤシ!!」
「神田……」
「どういうつもりだ、テメェ……!!なんでアクマを庇いやがった!」
「神田、僕にはアクマを見分けられる《目》があるんです
この人はアクマじゃない!」
「……さっき、神田を殿って呼んでいた……。そんな二人称で呼ぶのは、僕たちの中ではトマだけのはず。多分彼は……」
雲雀の考えを肯定するようにアレンはもどきの額にあるひび割れた部分を裂くと中から現れたのはトマ。そしてその姿を確認した神田は驚愕の表情を浮かべ、雲雀は振り返るが時すでに遅し
「そっちのトマがアクマだ神田ッ、雲雀ッ!」
「ッ!?」
「……っ、れ、か……っ」
雲雀と神田を壁に勢いよく押し付けながら、その間にいくつもの壁を突き破っていき、しばらくすると二人は腕の感覚がなくなり、力が抜け、武器が床に突き刺さる。二人の抵抗が無くなるのを確認したアクマはニタリ、と口角を上げて奥の壁に押しつけた
「テメェ……いつの間に…っ」
「へへへ。お前らと合流した時からだよ!黄色いゴーレムを潰した時、一緒にあのトマって奴も見つけたんだ。こいつの《姿》なら写してもバレないと思ってさぁ。ほら、お前らも左右逆なの気にしてただろ?」
「それで、あの新人の姿をトマに被せたってわけ、か……」
「んん?お前、痛みを感じないのか?いや、関係ないか。私の皮膚は写し紙。まんまと殺られたな、お前ら」
「……はっ!」
神田の首を絞める手を動かし肩から腹部にかけて切り裂き、雲雀の方は更に首を絞め続け、アクマは右手を使うと雲雀の横腹を貫いた。
「……死ぬつもりは毛頭ないよ…」
「死ぬかよ……。俺は、あの人を見つけるまで、死ぬワケにはいかねェんだよ……それに、コイツを独りで置いておけるかってんだ……っ」
「ギャヒャヒャヒャヒャ!!すげー立ちながら死んだぞ!」
「──……っ、ユウ……?ねぇ、ユウってば……返事してよ」
「…………」
「この……レベル2ごときが……っ。僕に傷をつけるなんていい度胸だね……っ、」
緩んだアクマの腕から抜けた雲雀は足に力を込めて踏ん張りながらも立ち上がり、脇腹から血を流しながらも睨みつける。その時、雲雀の目の前でアクマの体が上半身と下半身で真っ二つに別れた
「……!」
「お前ぇえぇえ!!」
大きく音を立ててアクマは壁へと叩きつけられる。雲雀は静かに歩みを進めて神田の元へとふらつきながらも歩み寄る。そんな神田の心臓の部分に耳を当てながら鼓動と僅かな呼吸が耳に届き安堵した表情を浮かべる
「よかった……生きてる……。こんなくらいじゃ死なないとは思っているけど……」
「雲雀!血が……!」
「……別に、痛くないから平気。神田は僕が背負うから、君はトマを……。イノセンスを渡しちゃ、駄目だ……」
「え……でも…怪我が……!」
「煩い。……神田は絶対に死なせない……。僕がどうなったとしても」
神田を背負って雲雀は自身から流れる血も気にせず歩き出す。これ以上止めても無駄だと悟ったのか、アレンもトマを抱えてそのあとに続く。
「……痛っ」
「ウォーカー殿……私は置いていってください……。あなたもケガを負っているのでしょう……」
「なんてこと無いですよ!(それよりも雲雀が……)」
「……やっぱり……これしかない」
「?どうしたんですか?」
「……グゾルとあの女の子のこと。人形は……グゾルなんかじゃ、ない……っ」
「……歌……?」
「は?歌……?」
歌が聞こえると告げながらアレンが歩いて行くと少し広い場所へと出る。そこにはグゾルとその人形であるララが抱き合っていた
「あ、ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんですけど……」
「やはり、君が人形か……。どうもそっちの彼は人間臭かった」
ガッ、とララが近くに倒れていた石柱を掴んで持ち上げると、向かってくるアレンへと容赦なく投げつける。その様子を見ながら雲雀は静かに神田を下ろして烈火を構える
「どわたっ!?」
「ままま、待って待って!落ちついて話しま……わっ!!」
「話しても無駄だろうね………」
トマを下ろしたアレンは左手の手袋を外してイノセンスを発動させると飛んできた石柱を掴む。そして、回転を加えて放り返すと、ララの背後にあった石柱は全て崩れていく
「え!?石柱を……っ」
「もう投げるものは無いですよ。お願いです、何か事情があるなら教えてください。可愛いコ相手に戦えませんよ」
「…………」
「グゾルはもうじき、死んでしまうの。それまで私を彼から離さないで。この心臓はあなた達にあげていいから……!」
「(嗚呼……そうか。すぐにイノセンスを取り出せないのは)
君が……僕に似ているからか……」
ララの叫びのあとに雲雀が烈火をしまいながら自嘲気味に笑ったのを見てアレンは目を丸くする。そんなアレンを一瞥した雲雀は訝しげに見た後神田を背負い直して歩き出す
「……何」
「いや……そんな顔もするんだな……って」
「君は僕を何だと思ってるわけ」
「………無感情な人……?」
「……まぁ、あながち間違いではないか……。元は何も感情なんてなかったし。神田や師匠と会ってから色々教えてもらった。だから死なせたくないんだよ。それくらい大切な人だから」
「あの、雲雀って今、何歳ですか?」
「いきなり何なの。年齢なら……16歳、のはず……はっきりと覚えてないけど。神田にはそれくらいだと言われた」
「神田に?」
「僕は死にかけだったところを神田が助けてくれた。僕には家族なんていなかったから、僕にとって唯一の、かけがえのない家族みたいなものなんだ」
「すみません……嫌なこと、思い出させて……」
「……別に。君も独り身だったってクロスから聞いてる。《馬鹿弟子と同じくらいの歳だな…。お前と気が合うかもな》って言ってた」
「嘘でしょ!ってか師匠を知ってるんですか!?」
「まぁね。気は絶対に合わないだろう。全部を救えるなんて甘いこと考えてたら一生。でも……大切な人を失う辛さは僕は知ってる」
「雲雀は……」
「……これ以上話すつもりは無い」
何かを尋ねようとしたアレンを横目に見ながら雲雀は小さくため息をつくと、しばらくして広間のような場所に着くと、神田を横たわらせて手当をしようとコートを脱ぐ。そして雲雀は小さく、あ、と声をあげる
「僕のコート……血塗れだ」
「僕の方が少し血は付いちゃってるけど、まだ綺麗なので使ってください」
「……ありがと」
コートを受け取りながら雲雀は神田を手当していく。少し離れた場所でグゾルの膝の上に乗りながらララは口を開いて過去を静かに話していく
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