『好きだ』

『私も』


こんな青臭い、若さで許されてたような言葉を交わしたのは一体何年前だろう。あれから何年が過ぎたんだろう。あの日のことは昨日のことみたいに思い出せるのに。
OWLが終わってソフトクリームみたいな雲がホグワーツの、校舎というか城のちょうど向こうにある真っ青な空に浮かんでたあの日。

リリーは答え合わせに躍起になってたけどそんなものに興味なんて持ち合わせてなかったからシリウスと二人、木陰でゆっくりしてた。たまに吹く風が気持ち良かった。
別に小説でよくある出会い方でもなかったしそんな雰囲気もなかった。でも、シリウスが『俺さ、お前のこと──』とか言うもんだから思わず聞き入っちゃった。


「本当、若かったなあ」


もうお互い『好き』なんて軽々しく口には出せない。付き合い始めた初々しい時期はとっくの昔に過ぎたしそんな年齢でもそんな時期でもない。
シリウスのことは好き。
でも、恥ずかしい。もう若くはないの。青かったティーンエイジャーは終わってしまった。人前でキスしたり抱き合ったりなんて絶対しない。
っていうか、会ってないし。まあ会ってもやらないけど。


『ホグワーツの頃と気持ちは変わってない。だからできるならお前と一緒にいたいし、結婚も、したい。だけど……よく考えてから、返事くれ』


私だって気持ちが変わってないことくらいシリウスはわかってた。ホグワーツを卒業してティーンエイジャーを卒業してもずっと一緒にいたんだもん。
でもリリー達が結婚して、少ししてからシリウスが遠回りなプロポーズをしてきた。

多分、今こんなご時世で結婚することに不安があるんだと思う。ジェームズと何か話したりしたのかな。
シリウスがブラック家の元跡取りだなんてことは誰もが知ってること。そしてブラック家は今や例のあの人に仕えていて、あちらの陣営では大層な権力を握っているらしい。
そんな家を飛び出したシリウスの身が危ういのは当然のことだった。
と言っても、レギュラスが生きている内は大分マシだったんだけど。

シリウスは普通の団員より危険な立場にあった。捕まりそうになったことだってあったらしい。
だから、よく考えろと言ったんだろう。きっと私を巻き込まないために。


「……変なところ優しいんだから」


三週間、よく考えた。
一日中休みの時はぼんやりと、あのソフトクリームみたいな雲を目で追ってみたり。魔法省からの帰り道に、無駄に綺麗な星空を見上げてみたり。
何度考えたって気持ちは変わらなかった。私はあの五年生の夏の日と、何ら成長してないんだから。

それから一度、日本に戻ってお母さんとお父さんを説き伏せて許可はもらった。結婚式はきっとまだできないけどやる時は必ず呼ぶとも伝えた。
──それに、もしもの時のことも言ってある。
別れ際に見たお母さんはうっすらと涙を浮かべてて、それが気にならなかったわけじゃないけど、しょうがない。シリウスとなら、そうなっても後悔はしないと思うから。

身支度も済ませた。
リリーとジェームズ、リーマスやルーピンから合同でもらった二十歳のお祝い、どこまででも入るトランクに必要なもの全てを詰め込んだ。
後はこのトランクを引っ張ってシリウスの所に向かうだけ。場所はもうわかってる。


「…………ふぅ、」


二年半住んだ家を捨てて外に出た。この後に住む人がここを好きになってくれればいいんだけど。
家に背を向けて門に手をやると勝手に開いた。あれ?


「シリウス!やだいたの?」

「まあな。返事、そろそろかと思って。……だけどその格好見りゃわかるな、答えなんて」

「何よその顔。もう少し嬉しそうにしてよ。これからお嫁さんになってあげるっていうのに」

「わかったわかった。ん、」

「ありがと」


不意にシリウスの右手がトランクを引っ張った。そして左は私の右手。手を繋いだのなんて、いつぶりだろう。思わずびっくりして、それから頬が弛んだ。

ちなみにこの恥ずかしがり屋な旦那さんは今日が何の日か知っているんだろうか。あの日からちょうど五年だってことに。
日本では蝉が鳴いてたしこっちでは太陽が嫌ってくらい地面を照らしてる。もう七月だもんね。

ジューンブライドとはいかないけど、きっとシリウスとならそこら辺の家庭よりずっと楽しくて価値のあるものになると思う。


「ねぇシリウス、大好き」










青い空、入道雲の下で


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