青々しい夏の匂い。


ミーン、ミーンと蝉の合唱が朝から一日中鳴り響き、青くて広い空には真っ白な入道雲がでかでかと浮かんでいた。

ちりん、とさえ鳴かない風鈴を私は睨みながら、首をふる扇風機とともに私も左右に首を振っていた。さっき冷凍庫から取り出してきたアイスの封を切り、中から空と同じ青い色の棒アイスを取り出して(ソーダアイスだ)、がぶりと口にくわえる。

行儀が悪いことを承知の上で、私はくわえたままビニール袋をゴミ箱に入れ、首を振り続ける扇風機を固定し、その場に座って目を閉じた。

瞼に浮かぶのは、ホグワーツ。

今は夏季休暇だから、私は実家のある日本に帰ってきている。というより、昨年(といってもついこの間だが)卒業したので、もうあそこで学ぶことは二度とない。
だからこそか、あの慌ただしかった学生生活時代に思いを馳せ、抜け殻のようにだらだらとしてしまっている。

私の就職先はホグワーツ魔法薬学助教授だ。

普通は違うところでもっと学んだり経験を積んでからそういった職種に付けるようになるらしいのだが、特別に雇ってもらえることになったのだ。
多分、教授の口添えのおかげだと思う。
教授が私の能力を評価してくれていると思うと、すごく嬉しい。だって、教授は滅多なことが無い限り、褒めてくれないわけで。
来学期から私も『教授』って呼ばれるのかと思うと、少しくすぐったい。緩む口元を隠すように、溶けかけているアイスの残りを一気に口に入れた。ソーダのさわやかさと、アイスの甘さが口の中に広がった。




来学期から助教授だとは決まったが、一体具体的に私は何をするのか、教授からまだ知らされていない。
尋ねに行こうとは思ってはいたのだが、卒業試験に忙しくて、それが終われば最後のホグワーツを楽しもうと遊びに遊んでいたため矢のように日が経ち、結局教授に尋ねる機会が無かったままだったのだ。

「何したらいいんだろ」

家で飼っている黒猫が部屋に入ってきたので、捕まえて抱きかかえながら聞いてみた。黒猫はにゃあ、と一声鳴いて、暑苦しそうに腕の中で身をよじった。
教授にふくろう便出すべきかなあ。あ、でも、ふくろう飼ってないや。卒業したし、姿現しでホグワーツまで行ってみる?いや、でも教授がホグワーツにいるとは限らないし。自宅かも。どこに住んでるのかな。ていうか、独身?奥さんや彼女がいるような雰囲気じゃないし。どうなんだろ。気になる。……って、なんで私が教授の女性関係を気にしなきゃいけないの!

ぶんぶんと頭を振って煩悩を追い出すと、黒猫が私の腕の中からひょいと逃げだした。そして縁側の戸から出て言った。この糞暑いのに、よく日光の下歩けるね。黒いから熱吸収しちゃうんじゃないの?

その時ブゥゥンと扇風機の動く音だけだった部屋に、チリンという涼やかな風鈴の音が鳴り響いた。風も吹いていないのに。

不思議に思って縁側の戸を見れば、影が差していた。

黒猫が人間になったのかと瞬時に見間違えるほど、全身真っ黒なローブを身にまとった顔色の悪い男性が、そこには立っていた。



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