「ハリーのお母さん、綺麗ですね」
動く写真の中、リリーは笑顔で手を振っていた。
艶やかな赤い髪は腰まであり、長いふさふさの睫毛にくっきりとした二重瞼。アーモンド形の眼と形のいい唇は、誰が見ても美人だった。

「昔、フランシスという魚を飼っていた……リリーにもらったんだ。ある春の日、机に鉢が置かれていてね、中にきれいな水が張られていた。そこに浮かんでいたんだよ、百合の花びらが……それはゆっくりと沈み、鉢の底につく前に変身したんだ、小さな魚に。美しい魔法だった。見とれてしまったよ。
魚が消え、鉢が空になった日、リリーは……」

死 ん だ 。

苦しそうに息を吐き、スラグホーンは口を噤んだ。

「先生、どうして、そんな大事な思い出話を私に……」
怪訝な顔で問い掛けると、スラグホーンは笑顔を引っ込めた。いつになく真面目で、いつになく思い詰めた表情だ。

「名前、君の後ろ姿がリリーにそっくりだからだよ。背丈もちょうど同じくらいで、同じく魅力的な生徒だった。みんな彼女を好いていた。勇敢で、ユーモアがあって……顔立ちや眼の色は違っても、名前はあの頃のリリーを彷彿とさせる」
スラグホーンはでっぷりとしたお腹をさすり、黙ったままの名前に背を向けた。



「先生、お伺いしたい事があるのです」
「遠慮なく聞きなさい、トム、遠慮なく」
「先生はご存知でしょうか……ホークラックスの事ですが」



後ろめたい記憶が、蘇る。
言葉巧みなリドルに乗せられ、うっかり口にした忌まわしい魔法の伝授。
ヴォルデモートが不死身になった要因はこの日の会話にあるのだと、スラグホーンは後悔している。
やがてハリーに追及される事となる、最も恥ずべき思い出だ。記憶を改竄したままではいけないと思いつつ、どうしても他言する気になれなかった。
殺されたリリーは、1番のお気に入りだったのだ。

「スラグホーン先生、貴重な話をありがとうございます。もうすぐ夕食ですので、失礼します」
名前は濃い青色の眼を細め、振り向こうとしないスラグホーンの背中に手を振った。
赤い髪の少女が扉から出ていく寸前、老教授は振り返る。
リリーと同じ後ろ姿を、名残惜しそうに見つめていた。



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