ぱたり。
読んでいた本を閉じ、ふと思い立った彼女はゆっくりと窓際へ近寄った。
窓越しに見上げた空は明るい。が、雲に覆われている。
「……雨、か」
彼女はローブを羽織ると防水呪文をかけ、部屋を出た。
庭先へと出る前に、呼び止められる。
「どこか行くのか?」
「ううん。ただ、外に出たいなぁって思っただけ」
ドラコだ。
そのまま庭先へと出た彼女に続き、ドラコも隣へ来た。
空を見上げている彼女、名前。静かな雨が少し、顔を濡らす。
「……ねえドラコ」
「なんだ?」
「ドラコは、私の傍にいてね」
ぽつりと言った名前。
ドラコは小さくため息。そして、はっきりと言う。
「当たり前だろ」
その言葉に名前は微笑んだ。
それから少し他愛のない話をして、ふわりと風が吹いた時、名前が声を漏らした。
「雨……」
「?」
「止んだね」
いつの間にか雨は止んでいた。
ところどころに雲の切れ間があり、青い空が顔を見せている。
雲間から日の光が差し込んできていた。先ほどまでの雨はどこへいったのか、これからすっかり空は晴れ渡るだろうことを予想させた。
「……虹はないね」
「……そうだな」
「なんか……綺麗」
名前はフードをパサリと脱いだ。
そして、ドラコと顔を見合わせて。
「好きだよ、ドラコ」
「知ってるさ」
「もう、そうじゃないでしょー」
「大好きだ、名前」
どちらからともなく手を繋ぎ、屋敷の中へ戻ろうと足を動かした。
「ねぇドラコ」
「なん……」
ふわりと、彼の唇を奪って。
どこか楽しそうに、名前は笑っていた。
雨の雫石と一緒に輝くクローバーが、二人を見守りながら。
clover
(小さくて大きな幸せ)
fin.