コバルトに染まる空。
泳ぐ夏雲。
さんさんと降り注ぐ太陽光線。

「あっつ…」

湖のほとりに座る名前は鼻に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
彼女は脚に乗せるスケッチブックに短い鉛筆を走らせ、時折ねりけしを押し付けて景色を描いていた。

「この炎天下で帽子も被らないとは。…倒れますぞ?」

日差しに加え低い声が降って来た。
名前は筆を止め見上げるとスネイプと視線がかち合う。

「先生が外に居るなんて珍しいですね。雪でも降るんじゃないでしょうか」
「この季節にか」

眩しそうに空を見上げるスネイプは汗一つかいていない。

「その格好、暑くないんですか?」
「ああ」
「涼しくなる呪文、私にも教えて下さい」
「お前には無理だ」
「そうですか。残念」

潔く諦めた名前は再びスケッチブックに向き合った。
やがて古い絵の具セットを取り出すと、水入れに湖の水を掬い、絵の具を溶かしてぺたぺたと色を塗り始める。
その後姿はとても楽しそう。
見る見るうちに画用紙は淡い色に染まっていく。

「先生も、青と言えば海や空を連想するんですか?」
「そうだな」
「普通の感覚を持っているんですね。なんだか安心しました」

青に青が重なり、群青が生まれる。

「君は我輩を如何いう目で見ているのだ」

厭きれるスネイプは少女の絵から目が離せない。
まるで磁力線が存在しているかのように。

「好きだ」
「…主語は何ですか?」
「お前の絵」

柔らかく透き通る水彩は名前そのものに感じられたから。

「うれしい」

名前は照れくさそうに笑ってみせ、また画用紙に筆を撫で付け始める。

ほどなくして名前は顔を上げた。
何を思ったか画用紙を破ろうとするので、スネイプは反射のように彼女を止めた。

「違いますよ」

名前は画用紙を渦巻状の金具に沿って破り取る。

「はい、プレゼントです」
「…ありがとう」

ぼそりと呟くように言ったスネイプ。
しっかりと聞き取った名前の頬は紅潮していた。
水入れを手に持ち、混濁した色水を湖に流そうとした処でスネイプに肩を掴まれる。

「関心しないな」

「……先生、喉が渇きませんか?よかったらこれ飲「結構」

踵を返したスネイプ。
追いつこうと駆け出した名前が蹴躓き、手元の色水を彼にぶちまけるまであと5秒もない。

照り輝く真夏の太陽が二人のやりとりを熱く見守っていた。


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