『やっとね、外出許可が出たの』
「本当かい?それは良かったね名前」
『うん、明日からなんだけど、リーマス一緒に着いてきてくれる?』
「当たりまえじゃないか。イヤって言われても行くよ」
『ふふっ、ありがとう』
名前は去年の秋頃に体の不調を訴えて以来、聖マンゴに入院している。冬が過ぎ、春が過ぎ、夏になっても彼女は退院できなかった。
やっと癒者から出された外出許可は彼女の病が良くなってきたからではない。
残り少ない時間を、好きなように過ごして欲しいという意味で出されたものだった。
そんなことを知ってか知らずか、名前はとてもうれしそうに『楽しみだなぁ、リーマスはどこがいい?』なんてはしゃいでいる。
病気なんてまるで嘘かのように元気に話す彼女だけど、体はやせ細り、青白い顔をしていて、つらい現実を僕に突きつけるんだ。
学生時代に一緒によく通ったケーキ屋、かわいい雑貨のお店、大好きなアイス屋、お気に入りの洋服屋、2人で初めてデートした公園、
初めてキスをした噴水前、彼女の行きたいところへ行けるだけ行った。
懐かしい思い出があふれ出して、僕は泣き叫びたくなる。
お願いだから僕を、置いていかないでくれ・・・。
日を追うごとに弱っていく名前を見ながら、どうすればずっと彼女といられるかを、ただ考えていた。
そして、答えを見つけたんだ・・・。その答えが正しいのか、間違っているのか、教えてくれる人は居ないけれど。
ある晩、彼女はやっと聞き取れるぐらいのかすかな声で僕の名を呼んだ。
『・・・リ、マス、リーマス、あ、りがとう。だいすきだよ、ずっと・・・』
それから3日間眠り続けて・・・。息をひきとった。
僕は名前の亡骸を抱いて、人が近寄らない森の奥深くの小屋に入った。
彼女の細くて軽い体を温めるように優しく抱きしめながら、窓の外を睨む。
星も逃げ出すような暗い暗い夜空にまあるい月が現れるまで。
僕が憎んだ月。
だけど君は月が好きだと言っていたね。僕を狼に変えてしまっても。
でもやっと僕も好きになれそうな気がするんだ。満月の日は2人にとって特別な日になるんだよ。
雲の陰からゆっくりと月が姿を現し、そしてやっと僕達は1つになった。
名前は僕の体の中へ。
今から生まれる僕の血が、肉が、髪の毛が、細胞の一つ一つが名前と交じり合って作られる。
これでずっと一緒だ。僕が死ぬまで永遠に、君は僕とともに生き続けるんだ・・・。
だけどね、やっぱりさびしいよ、僕は。
満月の夜はいつも、名前の味を思い出しながら空を眺める。
ああ名前、もう一度君を
「食べたいよ・・・」