土曜日の午後、寮の部屋で1人ベッドに寝そべって雑誌を眺めながらうつらうつら。
窓から入り込む初夏のさわやかな風。暖かい日差し。揺れるカーテンの奏でるやわらかい音。何もかもが心地いい。
「おーーーいっ!名字!」
ふいに外から私を呼ぶ声が聞こえた気がして、眠たい目を擦りながら半開きになっている窓を全開にして身を乗り出して辺りをうかがった。
バッシャーーン!!
頭上から大量の水が降りそそぐ。
「ハハハッ!ひっかかったな名字」
『・・・ブラック!あんた、今日という今日は許さない!そこで待ってなさい!』
ボタボタとそこらじゅうに水を垂らしながら、急いで部屋を出て外へ向かった。
道すがら出会う友達に、「名前・・・ああ、いつものアレ、やられたのね」と声をかけられる。
いつものアレ。そう言われるほど日常的に行われているのだ。
ブラックはなぜだかいつも私ばかりを狙って水をかけてくる。ろくに喋ったこともなかったし、あいつの気に障るようなことをした記憶もないのに、まったく意味がわからない。
こっちは濡れるたびに着替えなきゃいけないし、髪も乾かさなきゃいけないし大迷惑だ。
まったく今は夏だからいいものの、風邪でもひいたらどうしてくれるのか。
さっきブラックがいたところまで行くと、あいつは逃げもせずに私を待っていた。
「遅ぇぞ、早くこっち来いよ」
『うるさいわね、言われなくても行くっ、、、きゃあっ!!』
早足で近づいて行くと急に地面に足がつかなくなった。
『いったーーい!なにこよれ、落とし穴・・・?』
上を見上げると、ポッカリと丸く切り取られた空と、穴を覗き込むブラックのアホみたいな顔が見えた。
「いい眺めだな」
『あんたってほんとに最低・・・。見てないで早くここから出しなさいよ!』
穴が深くて私1人じゃあ出られなさそうだ。
「よっ、と・・・」
『え?ちょっと何降りてきてんの!?これじゃ出られないじゃない!』
「心配しなくても出してやるよ。後でな」
『後でってなんなの、よ・・』
ぐい、とブラックの嫌味なぐらい整った顔が数センチ先まで寄ってくる。
「なあ、今日は青なんだな」
『青?』
視線が私の顔から下へと移動して、つられて私もそれを追う。
『へ?・・・あ、青って・・・』
濡れたシャツから薄いブルーの下着が透けて見えていた。
「今ごろ気付いたのかよ」
『ヘンタイ!見ないでよ、どスケベ!』
「いいだろ別に。これが楽しみでいつも水かけてたんだし」
『はぁっ!?バカじゃないの?だったら他の女にかけなさいよっ』
「いやだね、興味ないし。んなことよりさ、もう限界」
『え、ちょっと、やめっ・・・、バカッ』
私の体を引き寄せていきなり服を脱がそうとしてくるブラックを突き飛ばし、穴をよじ登ろうとしたら後ろから抱きつかれた。
おしりにカタイものが当たっているのは気のせいだと信じたい。
これは別のものだ、そう、ポケットに入った何か。
『は、離して・・・』
「お前が好きなんだ・・・。いいだろ?」
耳元で囁く甘い声に腰の辺りがキュンとして体の力が抜ける。それを感じ取ったブラックは私の服の中に手を滑らせ、いいように事を進めてきた。
『んっ、あぁっ!』
抗えない快感を送る指使いに理性なんてものは最速吹き飛んでしまった私は、そのままブラックに身を任せて、一つに繋がった。
お互いが満足するまで何度も何度も求め合って、やっと穴から出たときには空はもう黒い色で覆われていた。
ああ、ブラックの黒だね・・・ってまったく笑えない。私ってば、勢いに任せてなんてことを・・・。
「名字、どうだった?俺に惚れたか?うますぎて」
『さあね?』
でも私の心はきっと、この空と同じ色に染められてしまったことは間違いない。