「あーっ…疲れた…」

屋上にたどり着くと、適当な場所で名前はごろんと横になる。確か変身術の授業だったけれど、今はそんな気分ではない。今日の課題はきっとルーナに聞けば教えてくれるし、ノートもきっと見せてくれるだろう。たまにこうして名前が授業をサボタージュしていることをルーナは受け入れているから嫌な顔もせずいつものふわりとした表情でノートを無言で渡してくれる筈だ。
首に締めていた青色とブロンズ色のネクタイを緩めながら目をつぶると心地よい木々の擦れる音と、段々と近づいてくる足音が…

「ん!?」
「サボりとは感心致しませんな」
「なんだ教授か…」
「なんだとは何だ」
「教授ならまあいいかなーと思いまして」

そう言うと起き上がりかけていた体をもう一度地面に転がす。目の前には、青い空を背景にした教授の不機嫌そうな顔が覗いている。しかしあまり気にもせず目をつぶった。わざと大きな音でため息をつくと、それから名前の頭の横に腰を下ろす。

「お前は仮にもレイブンクローだ」
「イヤですねえ、レイブンクローだからって全員が真面目な訳ではないんですよ」
「しかしそれではお前が浮いてしまうのではないか?」
「いいんですよ、浮いたって。それに私にはルーナが居ます」
「確かに…二人揃って変わっては居るな」

変わっているだなんて褒め言葉だ。名前は顔を彼に向けてにやりと笑う。何故この二人が親しいのかと言えば、際立って理由は無い。ただ、馬が合うというかお互いのバランスがとれているというか、何故だかただ会話をしているだけで安堵するのである。偶然会うということも少なくはないのももしかしたら要因になるだろう。そして今だってこうして屋上に来るタイミングまで一緒なのだから可笑しい。

「教授は何かあったんですか?」
「特にない、ただの気晴らしだ。一日地下では気が滅入るものでな。外が一番気晴らしになる」
「教授にも気を晴らしたいときがあるんですね」
「何か言ったか」
「いいえ、何も」

名前は何を思ったか起き上がると、彼と向かい合わせになる。不審がるような表情でその様子を教授は見るが、名前はにっこり笑ってそれから頬に唇を寄せる。

「急に何の真似だ」
「男女のこういう場面の時にはキスするべきだと思ったので」
「お前の思考回路はつくづくショートしているようですな」
「でも、教授嫌じゃないんですね?」
「驚いているだけだ、勘違いするな馬鹿者」

と、言いつつも口の端は無意識のうちに上がる。

「あ、やっぱり嬉しいんじゃないですか」
「引きつっているだけだ」
「明らかに笑ってるじゃないですか、やっぱり嬉しいんだ」
「嬉しくない!」
「真実薬飲ませちゃいますよ」

その言葉を聞いて教授はとうとう顔を反らす。そうだ、最初から顔をそらしていれば良かったのに無駄に名前の顔を見てしまったから墓穴を掘る事になってしまったのだ。背を向けて禁じられた森の方に目を遣る。が、肩に急激な圧力を感じて体勢を崩した。名前が後ろから凄い勢いで抱きついてきたようだ。

「何だ」
「男女のこういう時って抱きつくのがスジかなあと思いまして」
「…お前は我輩をからかっているのか?」
「いえ、そう言う訳では」
「では我輩に恋でもしてると言うのか」
「はい」
「………」

思わぬ即答に教授は言葉を詰まらせる。困った。

「私教授の事好きですよ、しかも結構前から」
「……何かの罰ゲームか?」
「違いますよ、本当の事です。信じないならもう一回キスしましょうか?」
「いい、いい。…いい!」

無理矢理唇を寄せようとする名前を無理矢理引き離すと、そしてあぐらのようなものをかいて向かい合わせになる。

「教授も私の事好きなんですよね?」
「何処からその自信は湧いて出た」
「何となく、です」
「…まあ、」

そして、咳払いを一つ。

「まあ、お前を好いているのは事実だ」
「やっぱり!」
「しかし、お前が我輩を好きになるより前から我輩はお前を好いていた」
「え?」

拍子抜けしたような表情に教授は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。初めてこんな間抜けな表情を見た。この表情を見れるのはきっとこの瞬間くらいだろう。

「お前と何時も偶然会っていたように見えるが、それは全て私の計算だ」
「はあ…なんともスリザリン生らしい…」
「恐れ入ったか」
「あんまり」

そう言ってにやりと笑った名前を見るとなぜか敗北した気分を与えられた。
またごろんと寝転んだ名前の頭の近くに座りながらふと空を見上げると突き抜けるように青い。想いが一致したにも関わらず、何も変わらない。これが変化するとしたらいつなのだろうか。もしかしてこのまま過ぎてゆくのだろうか。いや、そんな筈は…。
……空だけがきっとその変化を気長に見守ってくれるのだろう。


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