TAXI



「これ見て!綺麗でしょう?」


2人で行った食事の帰り道、ジャンって効果音が出そうなくらい勢い良くなまえさんは左手を顔の横に出した


「指輪…貰ったんすか。」

「うん!綺麗でしょー、これ内側に2人の名前彫ってあるのー!」


おしゃれだよね、だなんて良いながらなまえさんは自分の左手の薬指を眺めていた


今自分が不倫しているということを忘れているかのように、旦那から貰った指輪を眺めるこの人に少し腹が立った


「そんなもの不倫相手の俺なんかに見せるもんじゃないですよ。」

「あはは、それもそっか。怒った?」

「怒ってないです。ほんっと、なまえさんはどっかずれてますよね。」

「そうかなー、だって好きな人に見せてあげたいじゃない?私が貰って嬉しいと思ったもの。」

「は?好きな人って誰すか…。」

「ふふふー、遼くん。」

「…やっぱりずれてますよなまえさん、」


言葉を伝えるときになまえさんは真っ直ぐ目を見てくるから本気で言ってくれているんだと錯覚する


旦那がいる人の言葉だし冗談だと分かっているはずなのに、この人の中の一番になれるわけないのに、

"好きな人"
と言われ喜んでいる自分がいる


俺は自分が思ってる以上に純粋な男なのかもしれない


「あ、タクシー来てるー。」


少し大通りに面した道に出たところで何台かタクシーが止まっているのが見えた


「今更ですけど、こんな時間に帰って平気なんすか?」

「大丈夫ー。今日は友達と飲みに行くって言ってあるし!」


旦那の前では友達として通しているのをさっき嬉しいタイミングで俺の名前を言った口から聞かされると余計虚しくなる

なまえさんが旦那に言えないような自分の立場がより強調されたみたいで罪悪感が押し寄せる


「あ、もう着いちゃったね。」


歩いていたらもうタクシーまで着いたみたいで俺達は列の先頭で客を待っていたタクシーの前で立ち止まる


「早いっすね。」

「楽しい時間って早いものだもの。今日はありがとね。」

「あ、」


俺はタクシーに乗るなまえさんの左手を無意識に掴んでいた

指輪の感触が手に当たってそこだけ冷たさを感じた


「あ、いや、何でもないっす…」


ゆっくりと右手を開きなまえさんの左手を自由にしてあげた


「ふふ、遼くん変なのー。じゃあ、また今度ね。サッカー頑張って。」

「ありがとうございます。じゃ、また。」


次に会う約束もしないままなまえさんはタクシーに乗って車内から手を振った



手に入らない、愛しきもの



タクシーを見送りながら温もりが残った右手を握り締めた





----------
song by TAXI/TOHOSHINKI
この曲が好きでお話まで書いてしまいました。
曲ご存知な方、イメージと違ってたらすみません;私なりの解釈でこんな感じのお話になりました。
いやあしかし、うちの赤崎は幸せになれませんね何故か…
次はちゃんと幸せにしてあげよう(笑)
0623*那智









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -