02



乾いている唇に触れるだけのキスをし、クラトスのきっちりとした衣服を片方の手で緩ませる。その布地が肌を掠めることすら厭なようで、クラトスは緩く首を横に振った。
外傷を負わせずに、安易に抵抗力を奪う。その一つの方法として、とても手軽なのだといううたい文句と共に出回る、催淫剤。それだと断言は出来ないものの、そのような効果を持った何かを含まされたのだろうということは察することができた。
しかし、具体的にどんなものなのかは知れない。冷静に考えるなら余計な事はしない方が良いのかもしれないけれど
時間が経てば経つほどに、増して苦しげになっていくその人を目に、じっとしていられるわけはなく。……せめて、上がり続けるばかりであるらしい熱さを、逃がしてやることができたなら。そうすることで、ほんの少しでも、クラトスが楽になれれば。
何とも安易な発想であることを、自分が一番分かっている。
それでも。
「ぁっ…! う……」
曝した肌に触れ、ゆるゆると撫で上げる。
僕に出来ることなんて、…これぐらいしか。

余計な愛撫はその身体を却って苦しめてしまうだろうと判断し、普段のそれに比べて随分と性急に、事を深くにまで沈めていった。
汚してしまってはいけないと、その人が身に纏っていた衣服をすべて向こうのテーブルへ遠ざけてしまい、細かく震えている自身に手を伸ばす。
「あ……っ!!」
触れてから、そっと握り込んだ。―――ただ、それだけ。それだけで悲鳴に近い声を上げたクラトスは、背筋を逸らせて白濁を吐き出す。思わず目を瞠ってしまう僕の手のひらの中で、その人の自身は熱を失わない。
苦しい、筈だ。僕が来るまでの間、この人は、これに―――ずっと耐えていたというのだろうか。あの薄暗い小屋の中で、…ずっと?
「……クラトス」
横たわるその人に覆いかぶさり、握ったそれをやんわりと扱く。その度、上がる声を押し殺そうとしながら、怯えるように首を横に振る。既に限界らしいそれから透明な液を溢れさせながら、それでも達するのを頑なに拒んでいる。
「あ、や、いやだ、…い…ッ!」
「……大丈夫だ。我慢なんてしなくていいんだぞ…?」
「…あ……っあ……!」
伸びてくる腕が、力なく僕の腕を握る。高みへ導こうとする僕の手を、制止するかのような白い手のひら。
涙に濡れた瞳と目が合う。不安げな様子が見て取れた。
―――そんなものは要らない。
「心配しなくていい。僕しか、見ていない。他には誰も居ない」
「…っ……?」
「僕が分かるだろう? クラトス……」
空いているもう片方の手で、熱い頬に触れて。真っ直ぐに見つめる。
浅く息を吐きながら、何かを考えているかのようにぼんやりと僕を見上げていたその人が
不意に、ちいさく。本当に小さく、唇を動かした。
それが音もなく僕の名を紡いだのを目に、頷いて笑みを向ける。
「…ああ。だから、大丈夫だ。堪えなくていい」
「………」
おずおずと、手のひらが離れていく。そんな様子にまた笑んでしまって、行き場の定まらないらしいその人の両腕を、僕の背に回すようにと声をかけた。
緩やかな動きで、けれど確かな意思を示しながら、その腕が背中へと回されていく。
……遅れてしまって、本当にごめん。
告げてしまいたい言葉を掻き消すかのように口付けて、自身への刺激を、再開させる。
「ふ、あ……あっ……あ…!」
脈打つそれが二度目の熱を放つ。びくりと身体を跳ねさせ、やがてシーツへと沈むその姿に、思わず喉奥が鳴った。――首を振る。求めるのは駄目だ。……こんな時に。
未だに収まらないでいるその人へと、再び手を遣る。困惑している様子のクラトスに、心配いらないと囁いた。

手淫と、上半身への愛撫を繰り返し、少しずつ少しずつ追い詰めていく。逃げようと捩られる腰をそうっと捕らえて、透明な蜜に濡れたそれを音立てながら弄る。
暫くの間、大人しく僕に身を預けてくれていたはずのクラトスが、慌てたように僕の名を呼ぶ。刺激する手を一旦止め、どうしたと問えば、その唇は戸惑うように硬直して。
「クラトス…?」
呼びかけ、その瞳を覗き込む。そうして言葉の続きを促せば、小刻みに震えてばかりいた唇が、恐る恐るといった様子で動かされた。
「も……それは、…いい…から…」
僕の背に触れていた片腕が音もなく動かされ、それで手のひらをやんわりと握られる。
もういい、なんて。まだ随分と苦しそうにしているのに、止められるわけもない。堪えきれないほどに、僕は拙いのか。そう呟くように言えば、すぐさま「そうではない」と否定される。
なら、もう少し大人しくしていろと。そういう僕に、その人は首を振った。上手く力の入らないらしい手で僕の手のひらを握り、ぱくぱくと、口を開閉させる。
訝しがるしかない僕を見上げて、その瞳を、今すぐにでも泣いてしまいそうなほどに潤ませて。
「……これ、以上を……しては、くれない…のか…?」
途切れ途切れの、声。熱に浮かされた声色と言葉に、目を瞠る。好きな人の色っぽい姿を目に、欲しくならない、わけはない。ただそれを、理性で押し留めていた。こんな時に僕から求めるなんて、そんなことは。
「リオン……?」
不安げに僕を呼ぶ。たったそれだけに、ひどく動揺した。息を呑み込み、迷って。
「…んっ……」
気付けば、その唇に口付けていた。押し留めていたものが、堰を切ったかのように溢れ出していく。
普段のこの人はこんなこと、恥ずかしがって口には出来ない。幾ら出しても引かない熱に、理性までも侵されつつあるのだろうと、そう思うけれど。
理性すら上手く機能しないその中で、僕を求めてくれるということは。





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