クラトス自身の先走りのそれが伝っていたのか、既に濡れている其処へ指を入り込ませる。
たかが一本の指にもがちりと身体中を強張らせる様子に苦笑いをして、空いているもう片方の手で胸の上の突起の片側をくいと抓んだ。
「んッ…！」
びく、とその人の身体が跳ね上がった隙に、指を奥にまで呑み込ませてしまう。窄む入り口を指の根元で押し広げ、やがてもう一つを潜らせた。
「は…ぁ……」
きつくなる締め付けに喉を鳴らしながら、二本のそれをばらばらに動かすことで中を荒らして
その人が内部でもっとも感じる一部分に指の腹を押し付け、再び突起に力を込める。
微かな刺激に指が締め付けられ、それがその人のイイとする所をまた刺激するらしい。快感に歪む顔が、きれいでいて随分と扇情的だ。
どきどきと高鳴って止まらない心音にひたすらに気付かないふりをしながら、イかせる為に中をかき乱す。仕置き、という名目の下での延長戦だ。今度こそ勝手にイかないようにとは言ってあるものの、僕自身に言いつけを守らせるつもりがない。
「リ、オン……も、待っ…！ 待ってくれ…っ！」
聞いていなかったわけじゃない。聞く耳を持っていなかっただけ。
涙ながらの懇願さえ無視をして、内部のやわらかな壁を引っ掻き、天を仰ぐ中心の先端に爪を立てた。その人の背がびくりと反り、絶頂は二度目を迎える。熱を吐き出す瞬間のクラトスの顔を、この目に焼き付けるようにして見つめ続けた。
渇いた自分の唇を無意識の内に舐める。
「――クラトス」
「…ふ……う、んんッ…」
吐息さえ整っていないその中で半ば強引に口付けを迫れば、クラトスはそれに懸命に追いつこうとする。常時の冷静さも、すべて払い除ける剣の腕も、…生きてきた年月の違いさえも。今この場においては無いものも同然で。
この人は、僕のその下で。こうして僕に、追いつこうとしていて。
それが堪らないほどに、いい。
「はッ…… あ… す、すまない…」
深い口付けから解放した後、暫く両肩を上下にして呼吸を繰り返していたクラトスが、ふと思い出したかのように僕を見上げた。
何処か悲しげにさえ見える顔。叱られるのを待つばかりの子どものようにして謝り出したその人に、思わずため息がこぼれ出ていく。
それに、びく、と微かに怯えを見せたような気がするそれにさえ煽られる。
……本当に、ずるい。
内心だけで呟きながら、そっと手を伸ばした。
きれいな色合いの髪に触れて、撫ぜる。
「今日は……これくらいで許してやる」
あくまでも上から目線が抜けないが、先に折れたのはきっと僕の方だ。
自覚はある。…それなりに。


指でよく慣らした箇所を、傷つかないようにしながら貫く。
自身を包み込むような熱さとやわらかさに、息が詰まった。
思うが侭に揺さぶれば、それに付いてこようとする、濡れた身体。
艶かしさが、僕の余裕までも簡単に奪い取っていく。
「あ、あッ……う、ァあ 、は……っ」
「っ…駄目、だろう。ちゃんと、僕を見ろ」
過ぎる快感に目を瞑り、耐えようとするのをやんわり窘める。戸惑いながら、それでもおずおずと瞼を開く様子に気を良くして、褒美だとばかりに中を抉った。
「あぁッ…！」
クラトスがびくりと跳ね上がる。その際、先ほど解放してやった、手首に薄っすらと赤い跡が残っている両の手がかしりと白いシーツを引っ掻いて。やがてそれは、ゆっくり僕の方へ伸ばされる。縋りついて来る、その力の強さに笑みが浮かんだ。
律動を再開させる。
「ふあ、あっ、あ…」
「クラトス……僕を、呼んで」
「…り…っ リオ ン…ッ…！」
普段の低さでは想像さえ出来ないほどの、高い声。喘ぐ合間に僕の名を繰り返すことに、満足する。
汗ばんだ額へと口付けを落として、もう一度"ずるい"と内心に言葉を落とした。
いじめてしまいたい。と、そう思えてしまうくらいにかわいくて
だけどやっぱり、それだからこそ、大切に大切にしたいと思えてしまって。
矛盾した思いに若干の葛藤を抱きながら、それでさえ心地良く感じさせるこのひとは
本当に、ずるくて。……愛おしい。
「ひ、ああッ…！！」
そのまま抜けてしまいそうなほどに引き下がり、勢いのままに奥深くにまで突き入れる。逃げようとした細い腰に片腕を回し、捕らえれば、それでさえ"良い"と感じるのか、その人はいっそうに甲高く声を上げた。
僕を先よりもきつく締め付けながら、クラトス自身の欲望は弾けるように解放され、それを追うようにして中へと吐き出す。
確かな快楽と、余韻の、その中。
熱いクラトスの身体を両腕で抱き込み、息をつく。
意地悪もしたくなるけど、それでもやっぱり。
僕にとってこの人は、とても大事な、大切な、ひと。
「好き、だ…」
自然と口をついて出ていく言葉を、耳元で囁いた。
苛めたいし、大切にしたい。


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