01



請け負った依頼を無事に片付けることの出来た、そんな日の夜。適当な場所で適当に取った宿の中で二人きり。
晩飯もシャワーも寝支度も済んで、後は眠る。のみ。
……そんな状況下、(ましてや恋人同士なのだし)起こる事なんて決まってさえいると思うのに
自分へと宛てられたベッドにその体を押し倒したその時、固まったクラトスはぽかんとして僕を見上げた。

相変わらずの鈍さに呆れつつ、まあいいとその人の衣服を脱がしにかかる。こればかりは、現状を理解しようと懸命になっているこの時が一番やり易い。基本的に集団生活の中に居るせいで頻繁に行えるものではないが、それでも決して"はじめて"ではなく
それでもこの人は、毎回毎回、服をはだけさせるだけでも恥ずかしがって抵抗を見せるから。
上半身の素肌が露になったのと同時に、腰のベルトへと片手を移動させる。がし、と、その手を握られた。
「離せ」
「……性急だ。少しぐらい待…」
「嫌だ。待てない」
止めようとする言葉に否定を被せ、手首を掴まれたままなのも構わずに二本のそれを緩ませる。金具がちゃり、とちいさく音を鳴らす様にすら咽の奥が音を出すのだから、待てるわけがない。
誰が悪いのかと言えば、クラトスだ。船内のクラトスは、手を繋ぐことすらろくにさせてはくれないから。クラトスが悪い。
つらつらと愚痴を零しながらも完全にベルトを抜き取ることに成功して、固定するものを失ったズボンの裾を引っ張った。それだけで簡単に曝される、真白い脚。
いつ見てもきれいなものだと思える。
「リオン…!」
頬を赤く染め、狼狽しだすその人の、そんな様子に笑ってしまった。
たったこれだけのこと。で、こんなに慌てるのもどうなんだ。
まだ、先は長いのに。

好きになった人。好きだと言ってくれた人。
当然のことだが、大切にしたいと思う。
ただ、…そうだな。そう思うからこそ、なんだろう。
たまに、訳もなく苛めてしまいたくなる。
今夜はそんな気分だった。
「んッ…あ、」
「…まだ"待て"だ、クラトス」
「ッ……!」
一糸まとわぬ姿で僕に組み敷かれているクラトスは、向けられた言葉に眉を顰めた。何処か悔しげにして、ぐ、と下唇を噛む。傷になれば勿体無いと、人差し指の先を押し当ててそれをやんわり叱った。おずおずとしながら、それでも噛むのを止めるその人に笑う。
いい子だな、と言うと、子どもではない、なんて文句がすかさず飛んできた。
睨み上げられたところで大して怖くなどない。何だかんだでこの人は僕に対して甘い……もとい、気を遣ってくれるし。…それに、今日は。
「これ、はッ……なんのつもりなのだ…!」
「ん? ああ、"盛り上げている"つもりだが」
仰向けに寝かされているクラトスの、その背中には
両手首を(僕に)きっちり縛られた彼自身の両手がある。
別に、こんなことをしなくても盛り上がるし、クラトスだってきっと乗ってくれるだろうが、…まあ。たまにはいいかなと思って。
腕を拘束した挙句"許すまでイくな"と好き勝手なことをしている僕に、文句を零しながらもその人はしっかり従ってくれている。それはきっと無自覚なんだろうけど、そういうところがまた可愛い。
「ぁッ…や…っ」
張り詰めた中心への愛撫を再開する。手のひらで握りこみ、緩やかに上下するのを繰り返せば、くちゃ…と濡れた音が響く。
それはもうとっくに限界のようで、それでも僕の一言が邪魔をして絶頂を迎えられないらしい。首を横に振りながら、両足を震わせて耐えている。
何処まで我慢出来るものなのか。試してみたくもなって、それだから容赦なく追い詰めてやった。
甲高い声が切羽詰ったように制止の言葉を上げる。
「も、ッあ…! 止め…っ! ……う、あッ…ん……!」
放たれた熱さが、僕の手とクラトスの腹のあたりを白く汚す。
抵抗空しく高みにまで上り詰めたその人は、暫くの痙攣の後に糸が切れたかのようにシーツへと沈み込んだ。
荒い吐息を繰り返す様に、落ち着かせてやりたい気分にもなったが
生憎、僕はまだまだ苛め足りないわけで。
「……イっていい、とは言ってないぞ?」
萎えかけたその人自身をそうっと弄りながら、ちいさく告げる。低めに発した声を不機嫌そうだと感じたのだろうか、クラトスは戸惑っているような表情を見せた。
すまない、なんて、別にそうする必要もないだろうに、悪いことをしたみたいに謝って。
そんなだから苛めたくなる。……この人はきっと分からないだろうな。
「言うことが聞けないなら……お仕置き、だな」
意地悪く囁けば、クラトスはまだ下唇をぐっと噛んだ。
泣きそうにも見える顔にぞくぞくとする。
あんまり嫌がるようであれば、冗談の一言で済ますつもりでもいたのに、その人は何も言おうとはしないで。コクリとちいさく咽奥を鳴らす、だけ。
何だかんだで、好き勝手にするのを許してくれるから。
だから、それに甘えてしまう。





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