06



窄んだ口を押し開くようにして、指を中に差し入れる。長らく玩具を銜え込ませていたからだろうか、一本だけの指はすんなりと根元まで入っていったけれど
それでも中は予想していたよりも狭く、そして熱い。
数日前の記憶を手繰り寄せながら、半ば勘頼りに内側を探って、この人がいっそうに反応する箇所を見つけ出す。
ちいさな膨らみのようなものを掠ったと感じたその瞬間、クラトスの身体がびくりと跳ねた。
「ッあ…!」
上がる声に口端をつりあげ、其処の周辺を指先でなぞるようにしながら二本目を滑り込ませる。奥へと進ませつつ、締め付けてくる肉壁をぐっと押し返した。僕の両肩をそれぞれ掴んでいるその人の指先が小刻みに震えている。爪を立ててくる、恐らくは無意識なのだろうその動作さえ、ひどくかわいらしくて。
根元まで突き入れた二本の指の間隔を広げる。そのままゆっくりと引き抜くと、弱々しい声を零したクラトスが首を横に振った。
「いい、か…?」
「ぁ、あ…! や、も…待っ、」
「……ごめん」
指を中ほどまで抜いてから、入り口へ三本目の先を押し当てる。休憩を求めようとしたんだろうその人の言葉を遮るようにして謝り、待てない。と率直に告げた。
二つの指で内部を刺激し、その傍ら、新たな指を入れ込んでゆく。第一関節のあたりを飲み込ませたところで、三つに束ねた指を奥まで強く突き入れた。
「ァあッ!」
跳ね上がる身体と、素直に快楽を示してくれているその人の自身。ほんのりと赤みを帯びた頬も、高めな声も、何もかもが色っぽくて。
貪るように欲してしまう。
「クラトス…」
ぐち、と水音を立てながら、唇を耳元に寄せて名を囁く。汗ばんだ首筋に噛み付き、締まる内部から指を引き抜いた。

仰向けの身体をそうっと起こして、胡坐を掻いた僕のその上へと移動させる。
先ほどのように肩に手を添えるよう促してみると、クラトスはそれにすんなりと頷いた。
いっそずるい程に色っぽいその人の姿を目前にすっかり煽られてしまっている自身を取り出し、慣らしたそこへと宛がう。身体を硬直させ、逃げるように腰を浮かせたその人の背に腕を回す。
抱き寄せて、クラトスの鼓動が伝わってくるくらいに身体を密着させて、「入れるぞ」と一言声をかけた。
「ッ……!」
傷つけたりしてしまわないよう、慎重に慎重に呑みこませて行く。痛みが強いのだろう、クラトスが耐えるように歯をきつく食い縛ったことに気付き、背を伸ばしてその唇に口付ける。
「ぁ…ふ…っ」
片手で後頭部を抑えながら、閉じられた唇を舌先でこじ開ける。逃げる舌を追い、絡ませて、甘い声が洩れたのと同時に内側の締め付けが緩んだのを感じて。
片腕を腰に回し、強く抱き寄せながら一気に突き入れる。
「あ!」
突然の挿入に声を上げたその人の背をさすり、そうっと口付けから解放した。
「…はっ…」
荒い呼吸を繰り返すクラトスを宥めながら、後頭部に添えていた手をその人の片脚へと移動させる。脹脛を太ももにくっつけるような形で座っているクラトスの足首を掴み、それをぐいと引いた。
「ひぁ…!?」
膝を立たせ、足を伸ばさせる。もう片側も同じようにしてしまうと、僅かに浮かんでいたクラトスの腰が完全に沈み、僕のものがいっそう深くまで入り込むようだ。
震える身体を抱きしめ、この人が落ち着くのを待つ。玩具を使用しているときはそれで苛んでばかりいたけれど、…こうしてやさしくするのも、良いな。…なんて。
「大丈夫か…?」
僅かに身体を離し、前髪に隠れた顔を覗き込む。涙の溜まった瞳が、僕を捉えた。
きれいなその瞳の中に、情欲が見え隠れしている。求めているのは僕だけじゃないんだろうかと、自惚れるような感情を抱いて。
こくり。とクラトスが視線を逸らしながら頷く。
気付けば、随分と喉が渇いていた。
「あ、あ…、んっ…!」
「……クラトス。声、抑えるなよ」
熱を持った細身を揺さぶり、耳元でそうっと囁きかける。嫌がるように首を振ったその人が、それでも不意をつかれたような声を上げたことに、満足して口端をつりあげた。
クラトスの良いと感じる場所を重点的に抉って、きう、と窄まる入り口付近まで引き抜く。焦らすのを目的にゆっくりと奥を目指していくと、その人の目端から涙が伝った。
「やっ…それ は、嫌だ…っ」
締め付けてくる内部を押し広げながら、中ほどまで入れ、そこでまたゆっくりと引く。振動したままの玩具でよく行っていた、動作。クラトスはこれを特に嫌がる。
つい苛めてしまったことに「ごめん」と呟いてから、そうして自身を強く突きいれ、そのまま律動を激しくさせる。
「あァ あ、! リオ、…ッひ…!」
肩を掴んでいたその人の両の手は、何時の間にか僕の背中に回されていた。すがり付いてくるような力の強さと、耳元付近で聞こえる嬌声にくらくらする。更に膨大になった熱をひどく怖がり、逃げようとしてかずり上がるその身体を引き戻す。
無意識の下で快楽を散らそうとしているのだろうか、クラトスの腰が頻りに揺れている。―――ぞくりと背筋が震えた。締め上げてくる中が、いっそきついほどで、やわらかなそれに包まれる度に、…もう限界だ、と。
「クラトス…、ッ……!」
「リオン、りっ……あ、あッ、も、 うァああっ…!!」
その人の腰をぐっと落とし、奥深くにまで収め込む。抱き締める腕に力を込めながら、どちらともなく果てて。
「熱、ぃ……!」
中に出した僕のものに止め処なく涙を零すクラトスを、両の腕で強く強く抱く。濡れた唇にそうっと口付けを落としながら、ごめん。と密かに想いを込めて。


その後の記憶、というものはひどく曖昧だった。思い出せるようで、出せないような。とても微妙だ。ただ、疲れ果てたクラトスが眠ったのを確認してから眠りに落ちたような覚えはある。
倦怠感に唸りながら目を覚ますと、真っ先にクラトスの存在を感じた。僕の、腕の中、で。彼は静かな寝息を立てて眠っている。
体中のだるさなど忘れてしまうくらい。それくらいに、…嬉しいと。素直にそう思えた。
「クラトス……」
起こしてしまわないよう注意しながら、静かにその名を呼ぶ。触り心地の良い髪をそうっと撫でながら、僕はこれからどうするべきなのか、その答えを考えた。
予想など微塵にもしていなかった"終わり"の形に、戸惑うような気持ちも確かにあるし
何より、僕がこの人を理不尽に傷つけてしまったことには何の変わりもない。
もしかしたら、クラトスは「許す」と言ってくれるのかもしれない。……だけどそれに甘えるようでは、駄目だろう。
「好き、だ」
否定されるのを恐れて口に出来なかった言葉が、静かに零れ出て行く。
…これからは…、嫉妬とか。不安とか、そういうものに寛容になれたらいい、…けど。
「………リオ、ン…?」
「…ああ。おはよう、クラトス」
暫くして静かに目を覚ましたクラトスが、真っ先に僕の名を呼んだことにひどく満足感を抱いた。
微笑みかけて、そうっと頭を撫でる。恥ずかしげに視線を逸らしながら、それでも好き勝手にさせていてくれるその人が、どうにかしたいくらい…愛おしくて。
「……酷くして悪かった」
「…もう気にしていない。私にも非がある」
「そうか。…でも、責任はきちんと取る」
個人的な理由上での監禁。その上、ただの思い込みと勘違い。その他も諸々。
そんな、あまりに格好の悪い男のままでこの人の傍に居たくはないから
どう"責任を取る"べきなのかも思いつかないけれど、…どうにかする。必ず。それがきっと、僕の出した答え、で。
僕の言葉を黙って聞いているだけだったクラトスが、暫く間を置いた後に、「そうか」と呟いて穏やかに笑ったりなんかするから、
きれいなそれに、どうしてか目の奥が熱くなっていくのを感じて。

どきどきと高鳴り出した鼓動がうるさい。呼吸すら、忘れてしまうほど。
(………息苦しい)
けれど、同じくらいに心地が良かった。





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