02



それは互いの愛情を確かめる存在でも、性欲処理のためだけの存在ですらなく、
強いて言うならば八つ当たりのような。…何にしろ、なんとも不毛なものには違いなかった。
潤滑剤に濡れたクラトスの内部は、指を沈みいれる度に水音を立てる。
時間をかけて慎重に慣らし続けたその間にも、クラトスはただただ歯を食い縛って耐えていた。
耳にするのは吐息だけ。声は全くと言っていいほど聞かない。
「…慣れているのか?」
内側のその中でクラトスが一番に感じるらしい箇所を擦り上げ、いたずらに問いかける。
少しばかり潤んでいる気がする瞳が僕を睨んで、途切れ途切れの声が「ふざけるな」と言葉を紡いだ。
その様子と返答に気を良くする。…まあ最初から何となく慣れているようには見えなかったし、声が出てこないのはただ単にこの人の我慢強さから来るものなんだろうとは感じていたけど。
ずるりと二本の指を引き抜き、ベッドに手を付いて屈ませていた上半身を起き上がらせる。
初めて目にするその姿にただぞくりとした。
「いい格好だな」
皺のついてしまっている上着ははだけられ、そこから覗く白い肌は仄赤く色づいていて、拘束された両手は柱に繋がれたまま。
やり辛いからと唯一解放した足で何度か蹴り飛ばされそうになったものの、どういう理由かなんて知ったことじゃないが、何やら特別な存在であるらしい人物の名を挙げて軽く脅してみれば、段々とその抵抗は弱まって行き。
今や立てられた両膝の中心に僕を迎え入れて、事ある度に挟み込んではくるけれど、それきりになった。
………堅物なこの人では耐え難いくらいのはずの羞恥を受け入れてまで、そこまでしてまであれらを守りたいのかと。
その名前を利用して大人しくさせているのは僕自身なのに、考えてしまうと腹立たしくなる。
ああ、息が苦しい。
「……っ…?」
ベッドの片隅に置いた灰色の袋に両手を伸ばし、その中へと手を突っ込む。様々なものが指先に当たってくるその中で、適当なものを選んで取り出した。
それはつい先ほど買ってきたばかりのもの。特に此処らへんでは顔を知られているだろう僕には、なかなか手にすることのできないもの。
それでも世の中には僕以上に顔が知られ、余計な荒波を立てられたくない人間がいて…そしてその人間をあてにする代わり、その口を硬く結んだ商人というものも存在する。
実際に灰色のその中に入っているのはすべてがそいつから買った物だ。
「これが何か分かるか?」
"玩具"と呼ぶそれをクラトスに見せ付けてみる。その人は僕の問い掛けに肯定も否定もせず、ただふいとそれから視線を逸らしただけだった。
知っているのかいないのか。分かり辛いが、まあ、どっちでも問題はない。こうまじまじと目にするとグロテスクなようにも見えるそれに軽く潤滑剤をつけて、濡れそぼった入り口にそっと押し当てる。
ひくり、と微かながらに反応したクラトスに笑った。
傷つけたいと思ったことなんてなかったはず、なのに。
「ぁ…ぐっ…!」
人差し指と中指を合わせたものよりもう一回りほど大きなそれを、声さえ掛けずにぐっと押し込む。
吐息すら押し殺し、顔を顰めながら、玩具を少しずつ少しずつ呑み込んでいくその様にこくりと喉が鳴って。
満たされるような錯覚が襲い来る。
「入ったな。…ほら、分かるだろう?」
奥にまで収め、声を掛ける。取っ手の部分を指先で抓み、そのままそれを動かした。
白い体がちいさく跳ねるのと同時に、縛り上げた手首と柱を繋ぐロープが微かに軋む音を鳴らす。
落ち着きを取り戻しつつあったクラトスの吐息が、また乱れて。ぎり、とその人が自らの奥歯を噛み締めたことを知った。
きれいに揃った歯なのに、変になったりしたら勿体無いと。暇をしていた左手を動かし、クラトスの口内に指先を捻じ入れる。
濡れた瞳が僕を見上げる。僕だけを。欲しかったものがそこにあるのに、どうしてこんなに。
虚しさまで溢れてくるのだろう。
―――― 何か。なにかが音を立てて切れていく。
「いッ…!? あ………!」
「いい姿だな、クラトス?」
抜け落ちる寸前まで引き抜き、ぐり、と内を抉りながら押し戻す。とうとう抑えきれなくなったらしい声を上げるクラトスのその首元で、目立つほどの赤い色が揺れた。
体内のマナを制御する仕組みを加えた、首輪のような形の枷。人体に悪影響はないらしいが魔術は一切使えなくなると聞いた。何気なく手にして買っただけのものなのだが、正解だったな、と今では思う。
この人を完全に無力化できる上に、よく似合っている。
「…あ…ッ止め、ろ……!」
「止めて一番辛いのはお前だろう? それより、もっと素直になれ。声を出したところで誰にも聞こえはしない。…何だかんだ言って、十分感じてるじゃないか」
「ふざ、け るな…っ! …ぁ あ…!?」
減らず口ばかり零すクラトスを黙らせようと、玩具を奥深くにまで突き入れて
取っ手にあるダイヤルのスイッチを回し、なんとなく"中"くらいまで設定してみる。
くぐもった音と共に振動し始める玩具にクラトスは目を白黒させ、善い所が刺激されるのか、普段のあの低さからは想像がつかないような甘い声を上げた。
玩具から手を離し、そういえばろくに触りもしていなかったクラトスの自身へと触れ、少しずつ反応してゆくそれへと直接的な刺激を与えて。
「嫌だッ、離せ 離、…あ、…あ ァ…!」
ゆるゆると首を横に振り、懸命な拒絶も虚しく背筋を反らして果てたその人の瞳から、つう…と涙が零れ出て行く。
ああ、初めて泣いたな。と、何処かぼんやりとしたまま思っていた。
白濁を吐き出しきったらしい体が、やがて脱力し白いシーツの中に沈み込んでも、ダイヤルを入れたままの無機物はひたすらにクラトスを犯し続けるままで
その刺激にはどうにも耐え難いものがあるらしく、一時は萎えたはずのそれがまた反応し出したことに気付いた。
再び玩具へと手を遣って、振動させたままのそれをくいと引き、押し込む。涙を流す目の端に、この人の唾液で濡れた指先でそっと触れた。
ただただ僕だけを見ていてほしい。
自覚できるほどの子供じみた嫉妬と、独占欲。
この場では叶っているそれに、確かに喜びを感じているはずなのに
……ふとした拍子に、息が、詰まる。
どうしてこんなに苦しく、そして虚しいんだろう。
答えを見失ったまま。




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