01



息が詰まる。
ひどく、苦しいと思った。
手を伸ばせば触れることができる。声をかければ振り向いてくれる。
それでもそれは僕だけじゃないんだと、気付かされる。
その人が僕以外のものを見る。当たり前のはずのそれですらただひたすらに腹立たしくて、息が詰まって
苦しいと思った。

クラトスと二人きりで船を下りたのは、個人的な理由、そして都合でのことだった。
隣を歩んでいるこの人には、僕が請け負った依頼の手伝いをしてほしい…と、ありもしない嘘をついている。
ウッドロウの父親が王として頂点に立つ国の城下町。その外れを目指してひたすらに進む。
少し訝しげな顔をしながらもクラトスは何も言うことなくついてきてくれていて、それに罪悪感を抱かないわけではないけど。
でも、僕は―――。
「……リオン?」
目的の建物を捉えた瞬間、ぴたりと両足が硬直した。急に立ち止まった僕を一歩前に出たクラトスが振り返る。
鳶色のその髪とよく似ている瞳がきれいで。その中に、僕以外のなにかが入り込むことが、不愉快で。
手にしてしまいたいと。
息が詰まる。
「どうし―――」
ごめん。と一言呟いて、近づいてきたクラトスの体を最寄の壁に押し付ける。
衝撃にかひくりと小さく動いたその人の首に、そっと両手を忍ばせた。

なにをどうしてでも欲しいと思ってしまった。

気を失わせたクラトスを抱え、直ぐ其処に見えている屋敷へと引き込む。
其処は、僕が随分と前に暮らしていた屋敷だが、今やもう誰も居はしない。
放っておかれていずれ朽ちるだけ。こんな町外れの中では、一般人どころか、下手をしたら盗賊ですら訪れないかもしれない。
今の僕にとってはすべてが都合の良いものでしかなかった。
放置されていたわりに綺麗なままの屋敷内に少し感心してしまいながら、二階へと上り、一番隅の部屋を選ぶ。
余計なもののない、質素で小さめの部屋だが、十分だろうと思った。ベッドはある。四箇所の隅に細い柱があり、派手さはない天蓋までついているそれは、手入れされているようにきれいだ。
引き摺ったままのその人から剣を取り上げベッドに横たわらせて、床の上に所持していた荷物袋を置く。そうしてその中身をごそりとあさり、中から細長いロープを二本。取り出した。
「………クラトス」
今ならまだ引き返せる位置に居るのかもしれない。だけど………、僕は、引き返せない場所にまで行くのを、望む。
この人の近くに居れるのに、ただ眺めていることしかできない日々の中に戻るくらいなら。
長年の剣士のわりに細い手首を一纏めにしてしまって、それをきつく結ぶ。そうして縛り上げたそれを柱のひとつに硬く括り付けて、外れないようにした。両足も同じようにして纏め上げる。柱に括り付けるかどうかは少し迷ったが、止めておいた。
「大人しくしているんだぞ……」
力の強いこの人でも、流石に抜けることはできないと思うが。
不安じゃない。と言えば嘘になる。
けれど、気絶している時間というのは案外短いものだ。もたもたしてはいられなくて。
そうっとその髪を撫ぜてから、部屋を出た。



個人的に必要だと思うものを買い揃えて部屋に戻ると、予想していた通り、クラトスは既に目を覚ましていた。
僕の姿を捉えるなり鋭い目で睨み、「どういうつもりだ」と低い声を響かせる。
恐怖はない。……何もない。あるのは僕とクラトスのその存在、ただそれだけだった。
「さあ? …どういうつもりなんだろうな」
ただ、何をしてでも手に入れたいと、息が詰まるほどに。
苦しいほどに思えてしまっただけ。




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