五月二十七までのお礼文まとめ(ロイクラ/ゼロクラ/リオクラ)



(ロイクラ)

隣人の家ともそれなりに離れた、田舎の一軒家。
だからこそ、遠慮がない。ということも、時折、ある。
俺を此処で住まわせてくれているクラトスの携帯のアラームは、一言で表すと"凶器"だ。
本当に物凄い。

それくらいうるさいアラームでも、起きる前に消してしまったらなんの意味もないわけで
クラトスはいつも、自分の携帯をベッドから離れた机の上に置いて寝る。
ついでに、背面に設置されたスピーカーを上向きにするという徹底ぶりで。
最初のうちはよく驚いた。クラトスは気を遣うから、アラームを鳴らす日はその前に俺に了承を取ってくれるけど
話には聞いていても、やっぱり。びっくりして飛び起きてばかりいた。
「あ、なあ、クラトス」
けれどそれにもその内に慣れてしまって、うるさくてびっくりはするけどそれは、早く起きたいときには本当に打ってつけなもので。
「明日さ、俺、早く起きてやりたいことがあんだよな。アラーム、六時で頼めるか?」
「…ああ。分かった」
おんなじ部屋の、隣り合わせのベッドの上。横になりながら、隣のベッドで座って本を読んでいるクラトスにそう話しかける。
明日は休日だけれど。ちょっとした用事があるから。
すんなりと頷いてくれたクラトスに礼を言って、そのまんま目を閉じた。

結果。
アラームが鳴るより前に、起きてしまった。
うとうとする目を擦りながら自分の携帯で時刻を確認する。…五時四十二分。二十分近く早い。
まあ、早く起きる分には問題ないよな。なんて考えながら起き上がり、そうっと寝室を抜け出た。
クラトスの心地良さそうな寝息が耳の中をくすぐる。こっちまで穏やかにしてくれるような、息の音。


歯を磨き、顔を洗って、二人分の朝食の仕度をする。休日のクラトスはいつも八時近くまで寝ているから、今日もきっとそうなんだろう。
仕方がないからひとりで食べようと、そう思った。
それから出掛ける仕度をして、…出かけるときくらいは少しくらい声を掛けてもいいだろうか。何も言わずに行くのは、個人的に寂しい気もする。
なんて、ぼうっと予定を組み立てていた、時。
不意に―――振動音と、甲高い音が、鳴った。
「あ、アラーム…」
けたたましいそれにびくりとしてしまいながら、思い出す。壁にかけられた時計を見上げると、針は五時五十五分を差していた。
水に濡れた手をしっかりと拭い、足早に寝室へ向かう。もう今日は必要はないだろうから、止めてしまおうと思った。
ドアノブを回し、寝室に入り込む。けたたましい音に顔を顰めると、視界の端で、むくりと起き上がる影を見て。
「クラトス?」
呼びかけに応じる声はなく、急ぐようにベッドを下りたクラトスは
こっちがびっくりする程あっという間に机に駆け寄って、鳴り続ける携帯のアラームを切る。
そのまま側の椅子にどさりと腰を下ろしたクラトスは、片手で携帯を握り締めたまま呆然としていた。
長い前髪と薄暗い部屋のせいで表情は窺えない。けれど、思い返してみればみるほどに、クラトスは慌てていたような気がして
…ああ、もしかして。なんて、ふと思った考えに思わず口端をつりあげてしまいながら、
未だに動かないクラトスへと近寄り、「おはよう」と声をかけて、そのまま抱き締めた。

………………………………

(ゼロクラ)

どちらかといえば私は、朝には強い。…というか問題はない。
其れだから、朝、起きるのがとても困難なようであるゼロスの、そのつらさは分かち合えないが。
「おやすみ。天使さま」
「…ああ。おやすみ」
ゼロスの寝室の隅。同じベッドの上で、身を寄せるようにして眠る。
一言二言の、些細な会話の中ですら、整ったその顔を明るくさせる彼に………愛しさを感じない、わけがないのだから。

朝。目を覚まし、そうっと身を起こす。
ゼロスは未だぐっすり眠っているようだ。隣から、穏やかな寝息が聞こえている。
起こしてしまわないよう慎重にベッドから抜け出て、薄暗い中、向こう側の壁に掛けられた時計を見上げる。
ゼロスが目覚める時刻は大体決まっている。が、それにはまだ時間があった。
とりあえず、自分の身なりを整えてしまおうと思う。十分に間に合うはずだ。
朝の弱いゼロスが毎回感じているだろうつらさを分けてもらうことは出来ない。しかし、せめて、それを少しでも軽減できれば。
そう、思い立ったのだ。


身なりを一通り整えた後、朝食の仕度をし始めたらしい厨房にてティーセットを一式貸してもらう。
茶葉は部屋の机の上にあるはずで、それだからと貰ってこなかった。
なるべく音を立てぬように。気を遣いながら淹れるのは、想像以上に難しいものだったが
まあ、やればできる。という言葉はあながち間違いでもないらしい。
「ん……、」
紅茶を注いだティーカップを空いている席の前にしっかりセット出来た、その瞬間
ベッドから微かな、吐息なのか呻きなのか、判別しづらい声が聞こえてくる。
時計を見ると、今現在、毎朝ゼロスがだいたい目を覚ます、その時刻で。
良い具合にタイミングを合わせることが出来たようだと思って、少し安堵した。
「ゼロス……?」
ベッドへと近寄り、もぞりと寝返りを打った彼を覗き込む。
うー……、とだけ返って来る声は、いつも通り何処か不機嫌そうなものだったけれど。
起きようとは思うのに、上手く目を覚ますことができない。というのは、本人にとってきっとつらいことのはずで
分かってやれない、からこそ……紛らわしてやりたいと、思えて。
「…すまない」
一言断りを入れてから、ゼロスが包まっていたシーツをぐいと引っ剥がす。
少々強引だっただろうかとも考えたが、まあ、行動した後でそう言っても遅い。
躊躇いがない、というわけでは勿論なく、寧ろ自分のこの行為に意味があるのかどうかさえ、正直なところ自信はなかった。
ただ、自分にはこれぐらいしか出来ないということは、間違いがない。
「………なによ天使さま――」
やがてむくりと起き上がり、不満げにこちらを見上げてくるゼロスに少々の罪悪感を抱きながら
ベッドの縁に手をつき、自らの上半身を傾けるようにして、文句を零そうとした彼の唇を、塞いでみた。
「………」
起きたばかりのわりにやわらかいと感じたそれに触れ、それだけで離れる。
黙り込んだゼロスを尻目に、俯いた。自分でやっておいて何だと自分でも思うが、いざ行動に移してみるととても恥ずかしい。気まずい。
「…その…、……。お、…おはよう……」
無音の空気をどうにか出来ないだろうかと考えた挙句、咄嗟に出た言葉。
自分が何をしているのか、いっそ分からなくさえなってきてしまったが。
「……うん。おはよう、天使さま。……朝っぱらから何かわいいことしてくれちゃってんの…?」
なんかいい香りもするし。という、明るい声におずおず顔を上げる。
ベッドの上に腰掛けているゼロスは、未だ眠たそうに片目を擦っているものの、普段見るつらそうな様子とは全く以って違っていて。
「あ……紅茶を、用意してある。淹れたばかりだから、その、飲めるとは思うが」
「飲めないワケないでしょーが」
すかさず飛んでくる言葉に、そうだろうか、なんて呟いてしまいながら
少なくとも、ゼロスの、朝のつらさを誤魔化すことぐらいは出来たようで。
明るく笑みを浮かべるゼロスのその表情を眺めつつ、これが一番に好きだと、そんなことを何となく思う。

………………………………

(リオクラ)

僕と、クラトスと、曰く"ディセンダー"な馬鹿と、三人で請け負った依頼のために出かけた、その最中。
深い森林のとある一角に、あまり見たこともないような珍しい木々を見つけて
それを眺めるついでに一休みをしようと、誰も了承していないのに勝手に(何処にあったかもしれない)料理を広げ出した、馬鹿の傍ら。
終始無言だったクラトスは、何処か懐かしげな目をして、それをじっと見上げ続けていた。

全く以って知らないものというわけではない。
桃色の花をしきりに散らすその木のことを、書物か何かで目にしたような記憶はあった。
けれどそれはひどく曖昧で、細かいことまではよく覚えていなくて
どうにか思い出せないだろうかと努力した挙句に、クラトスに聞いた。
―――さくら。というらしい、他の木々と比べても比較的巨大な、それ。
確かに、眺めていると暇を潰せる。植物にさして興味がなくとも、気を惹かせる何かが備わっているようだ。
ひらひらと地に落ちていく花びらを見つめながら、ぼんやりと思う。
………掴むことは、出来るのだろうか。

腰掛けていた丸っこい石から立ち上がり、樹木の下へと移動する。
少しばかり離れた位置に居る馬鹿を横目でちらりと見、それが食事にばかり気が向いている様子をしっかりと確認した。
おもむろに手を伸ばし、ひとひらを手のひらで握ろうとするものの
微量の風にも瞬時に反応して動くせいで、なかなか上手くいかない。
馬鹿は相変わらず自分勝手だし、そもそも休憩自体取ったばかりのはずで、僕たちは腹など減っていないし、それなのに馬鹿がこんなことをするから、暇を持て余し気味で。
そんな様々な事柄があったせいなんだろうか、…というかそうだと信じたいが。なかなか手に取れないそれを、半ば自棄になって追いかけていて
それがどれほど子供っぽい行動かを、考えることすらしなかった。
「…リオン」
不意に名を呼ばれ、振り返る。
すぐ其処に、クラトスが無表情なまま立っていた。
そこでようやく自分が何をしていたのかに気付き始め、居た堪れなさに俯いてしまうと
クラトスはもう一歩、静かに足を進ませて僕へと寄った。
「―――…?」
自分の髪が、つまみ上げられているような感覚に疑問を抱く。
顔を上げると、何故か「急に頭を動かすな」と軽く咎められてしまった。
「花びらを取ろうとしていたのか」
感情の読めない声が淡々と訊ねて来る。それに、何の言葉も返せずにいた。
ただ、僕の髪のあたりをいじっているらしい微かな感覚が、おかしいくらいに心地良くて。
「……こちらで、沢山取れているな」
「…取れて…?」
くすり。と唐突に笑い声が零される。
その言葉の意味を理解しかねた僕を余所に、髪に触れていた指先はそうっと離れていって
よく見てみると、クラトスのその指と指の間には、…手にしようと意地にもなっていた、……桃色。
「っ……!」
それが僕の髪から取られたと理解した瞬間、一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
息を詰まらせながら、両手を頭へと遣って、どうやら髪の上に乗っかっているらしいそれらを払い落とす。
口端をつり上げ、穏やかに笑む。クラトスのその表情が、今だけは少し恨めしかった。
そんな僕の気など知らぬ気に、その人は僕から視線を逸らす。
クラトスの片腕が、ふいに伸ばされて。手のひらが、何かを掴もうとしたかのように閉じられる。
しかし、開かれた手のひらの中には何もなかった。
「難しいな」
ぽつりと呟かれた言葉に、思わず笑った。再び、あの馬鹿へと視線を遣る。
未だにおにぎりに夢中になっているそいつのことを、いつもならもうぶん殴っている頃なんだろうけど。
「…あいつの食事が終わるまでに、いくつ取れるか競ってみないか?」
断られることも想定しての誘いだったんだが、クラトスも意外と乗り気のようで
そう時間を置くこともなく、「ああ」と答えが返ってきたことに、何より驚いた。
笑いながら、くるくると回るようにしながら落ちるそれへ手を伸ばす。
負けたくはない。

ご馳走様! と無駄に明るい声が響く。
「美味しかった」
そう言って伸びをしたらしい馬鹿を余所に、クラトスへと近寄った僕は
あいつが食事を終わらした、その数秒前にようやく手に取れた一枚を、もう片手の指先でつまみながらその人へ見せ付ける。
「…私は、取れなかった」
そう呟いたクラトスは、ほんの少しだけ悔しそうにしていて。

「意外と子供っぽいんだな」
「…それはお前もだろう」
まあ、それはご尤も。


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