三月六日から二十六までのお礼文(ロイクラ)



昼食後、一息つき終えたダイクがふいに「忘れちまった」と零した。
どうしたのかを問えば、買出しの際についでに買ってくるつもりだったものを、物の見事に買い忘れたと。
「買いに行ってくらあ。クラトス、おめえさんは何か必要なもんはあるかい」
暖炉の前から立ち上がる彼を呼び止め、首を振る。
「…私が行こう」
冬は溶けるように終わりを告げ、気候の中に春の気配が見え隠れしている。
近頃の天候は長らく不調続きだったが、今日はそれが嘘のような快晴だ。窓から入り込んでくる日差しが眩しい。
洗濯をしておいて正解だったのだな。などとぼんやり思う。

必要なものを聞いてから出かけ、大体……一時間と、三十分程だろうか。
ゆっくりでいいというダイクのその言葉に甘え、少しばかり寄り道をしてから戻った。
二階のベランダに干したシーツがばたばたと揺れている。
「おう、お帰り。ありがとな」
出迎えてくれたダイクに礼を述べながら、手にしていた袋を手渡す。
これで良いかと問うと、彼はその中身を確認し、そして頷いた。
「ああ…そういやクラトス、ロイドが帰ってきてるぜ」
ふと思い出したかのように言われ、言葉に詰まる。人の気配などないのに、思わず二階へ続く階段へ視線を遣ってしまった。
散ったエクスフィアを回収するための旅を続けているロイドは、時折帰ってはくるものの、その帰郷はつねに唐突だ。
それだから突然帰ってきたことには驚きは無い…が、彼が居るわりには随分と静かな気がする。
「あんたが出かけてる最中に来たからな。寝てるんじゃねえか?」
「……そうなのか」
少し、タイミングが悪かったらしい。
待たせてしまったのだと考えると、悪いことをしたような気分になるけれど。
「さて、これで仕事ができる。あんたもロイドの様子、見に行ってきな」
大変なもんでもねえし、ゆっくり休みなと。
笑うダイクに頭も上がらない。

足音を立てぬよう、気にしながら階段を上がる。
静まり返った空間の中にちいさな寝息が聞こえてきて、それが何だか懐かしい。
部屋の中央あたりにロイドはいた。
今や私が使うものとなっている(少し…申し訳ない)寝台の上に自らの組んだ両腕を置き、それを枕の代わりのようにして眠っている。
誰も居なかったのだから、寝台の上で寝てしまえばよかったのに。頭を置いているとは言え、座って眠る体勢は結構つらいと思うのだが。
近寄り、薄っすらと影がかかっている寝顔を覗き込む。心地よさそうに眠る様子に、これは当分起きないだろうと判断した。
「……んー…」
もぞりと身じろぎした彼が、頭の下敷きとなっている腕を組みなおす。開けっ放しのままのベランダから風が入り込んできて、わずかに肌寒さを感じた。
干しっぱなしのシーツのことを思い出し、ベランダへと出る。
ふと空を見上げると、巨大な雲が太陽を覆い隠していた。…風だけ、というのは流石に寒い。
触れたシーツは湿り気もなく、微かながらに温かかった。
「………」
それを、ロイドの丸まった背中にかけてやる。ついでに窓を閉めた。
窓の向こう側、家の外―――ノイシュが居る小屋の付近に干したままの衣服が目に入り、そこでようやくあれらの存在を思い出す。
取りに行こうかとも思ったが、………まだ良いだろう。其処は日差しがよくあたるのだ。
テーブルの上に置いてある読みかけの本を手に取り、起こさぬようそうっとロイドの隣に座る。
彼の口端が笑むかのように小さくつりあがっていることに気付き、何か夢でも見ているのかもしれないと思った。


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