二月二十一から三月六日までのお礼文(ゼロクラ)



ふに。と沈む指先を、弾力のある肌がやんわり押し返してくる。
特別寒いわけでもないのに微かに冷たいそれは、とても触り心地が良く、ふにふにっとしていて。
…なんか癖になる。
「……何なのだ」
ふにふに、ふにふにとその頬をいじる俺を尻目に、天使さまは呆れたようなため息をついた。

鬱陶しそうな視線をも無視ししていじり回す俺に痺れを切らしたのか、天使さまの片手が俺さまの右手首をがしりと掴んだ。
わざと不服ですなんて感じの表情を作って天使さまを見つめてみると、「それはこちらの台詞だ」とでも言いたげな視線が睨んでくる。
気付かないふりをした。
「手、離してよ。天使さま」
「…離したらまた同じことをするのだろう?」
「うん」
それなら離さぬと呟くように言って、天使さまは俺の手首を掴むその力を少し強くさせる。
大袈裟に痛がって見せながら、からかうように口を開いた。
「まあ、天使さまがこうしていたいっていうなら大歓迎だけどー、ってあらら」
色白な手の平が呆気なく離れていく。悪意は何ひとつとしてないんだろうけど、それでもちょっと寂しい。
天使さまはふいっとそっぽを向いて、膝の上に置いていた本を手に取った。しおりを頼って頁を開き、それをじいっと見つめだす。
よくよく見ると、その本はあと数十頁ほどで終わるようだった。全然気にしてなかったけど、どうやら俺は天使さまの大事な読書時間の邪魔をしたらしい。
仕方ねえから終わるまで大人しくしてようかねえ…なんて、退屈を覚えながら視線を逸らした。

ふに。右頬からの感覚に、ぼんやりとしていた意識が戻る。
見れば、其処には細長い人差し指。その指先が俺の頬にやんわりと押し付けられている。
こちらへと伸ばされた腕を視線でゆっくりと辿っていくと、先には天使さまの静かに微笑んだ表情。
控えめな笑みの中に子供のような悪戯心が見え隠れしている―――なかなか見ることのできない一面に、どきりと胸が鳴った。
「……何よ」
「いや? …お前の肌は触り心地が良いな」
「アンタのもね……」
ため息をつきながら、笑った。


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